転
「っつっっ」
どうも最近落下癖がついているんじゃないかと思うこの頃ですが、皆さまにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか?
再び自分の竜に下敷きにされている冒険者のフロルです。
泣けてきました。
痛みにうめいていると、影のあるイケメンが竜の翼の下から私を引っ張り出してくれました。
この人誰だっけ?と思い出してみたらただのフリードでした。
ちくせう。
「大丈夫か?」
フリードに影があるのも当たり前です、なんせここは地下。影がある…というか暗いです。真っ暗です。
むしろすべてが影。
背中を強めに打って意識を飛ばしていたのは私だけのようで、竜もフリードも落下のショックより復活して周囲を警戒しておりました。
まぁ風の魔法で勢いを殺そうとはしたんですが、落下の衝撃を殺し切れなかったようですね。
この頑丈さん達め。
私がか弱いみたいじゃないか。
「無理をするな」
態度までイケメンです。生意気ですね。ただのフリードなのに。
なんであなたまで落っこちちゃうんですか。
さっさとララリィ嬢を助けにいけばいいのに。
やばい。頭がクラクラして周囲がぐるぐる周る。
いや本当に周囲が周っている訳じゃなくて周っているのは私の視界なんだけど。
「はぁ…魔力酔いとは情けない。」
何しろね。濃いんですよここの魔力。
酷く気分が悪い。
はるか頭上に、落っこちてきた大地の裂け目。
そこから降り注ぐ陽光がまぶしい。…のかも知れない。
何しろ、ここまで注いでこないのだから。
「暗いな…」
そうつぶやくとフリードは隠しから小さな魔道具を取り出し炎を灯した。
起き上れない私を心配したのか、顔に光を当てられる。
…すごく眩しいです。
「顔を怪我している」
顎に手をかけられる。
これが顎クイですか?
ああどうも。おかまいなくそれ、さっき木の根でやっちゃった奴です。
「血が出ているじゃないか?怪我しているのか?」
マスクまでとられて顔を覗き込まれる。
眩しいです。炎じゃなくてあなたが。
どうしてそんなに心配気な優しい瞳をするんですか?
今更なのに。
あなたの心は私じゃないあの子の物なのに。
「!額が裂けているじゃないか!」
マスクの下の額がなんか痛いなぁとは思っていたのですが、裂けていたようです。
道理で。
フリードが驚くのも無理ないかなと思います。頭部からの出血は派手なので見た目が…ねぇ?
でも同じ瞬間、私も違う意味で驚愕していました。
「え?」
素早く体勢を入れ替えてフリードを抑え込んでマウントをとる。
そして彼が驚きのまま無抵抗なのをいいことに、指を突っ込みました。
「取れたっ!」
うっかりと「取ったどー!」と言いそうになりました。
そうです。顔を覗き込まれた時に彼の片目に残ったままだったコンタクトレンズ状の物が少しだけずれているのが見えたのです。
やっぱり落下したから? 落下したらこれはずれるものなの?
それはフリードの目から取り出したとたんに空気に溶けるようにして消えました。
むぅ。どんな物質からできているのだろう?
考え込んでいると…
「えっ?」
今度は私が間抜けな声をあげる番でした。
騎士であるフリードは私にマウント取られた事が癪だったらしく、今度は気がつくとひっくり返され、今度は私の方が彼に見下ろされていました。
「…随分と積極的だな」
あれ?
フリードの目つきが何だか怖いものに変わってます。
例えるなら獲物を狙う捕食者の目。
ちょ…ちょっちょっと待って?
さっきの優しげな目のオニイサンは何処いった?
「いやいや誤解だし、目のゴミ取っただけだし」
再びひっくり返して私が上になる。
「あの時も今位に積極的だったらな!」
「なんの事?あの時って?いつ?」
再びひっくり返されてフリードが上になる。
「言わなきゃわからないのか?」
「はい…」
「なぜ俺に何も言わずに消えた?」
「はい?」
何をおこきになっているのでしょうか?
手紙を書いても返事ナッシング、言伝も伝わったのか伝わってないのか呼び出しにも応じず、いつもの立ち回り先にも近寄らなかったでしょうが。
「俺と切れたくなかったのなら、何故連絡をとろうとしなかった?」
「はあ?」
むかつきましたよ。わたくし。
それってば、まるで「わたしが欲しかったら捕まえてごらんなさ~い?」の男版みたいじゃん。
乙女かっ!
「お手紙も、言伝もすべて無視なさったのはあなたでしょう?」
再び体術を用いてひっくり返してマウントを取る。
「先に見限って俺から距離を置いたのはお前だろう?」
再び、フリードにひっくり返される。
こちとら怪我人なんだから労われやゴラァ。
「あんなに不誠実な方とは知らなかったです!」
「ほら、それが本音だろう? 信じてもらえないかもしれないがお前は特別だった!特別だったんだよ!」
再びひっくり返そうとしたけど抵抗されてムキになり身体強化まで使ってしまった。
「どうだか!私とお付き合いしている時もいろんな人と仲良くしているのを見せつけられたわ!」
怒鳴り合いながらごろごろと転がる私達。
本当、何してんだろ…。