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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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ままならぬ

 結局は利用できるものは利用しようという腹なのか。


 「指名依頼を受けてこの遠征に参加しているはずだ」


 という反論しがたい理屈をこねられて、王子の捜索隊一行に同行することにされてしまった。

 ジルベールも私を残していくのが心配そうであったのだが、とりあえず報告に戻っていった。


 しかし、いいのかね。上の司令をする立場クラスの人間がこんなに本隊から抜けてしまって。

 あの状態じゃ、本隊の方も混乱しているだろうに。

 

 「おねーさん。さっさと見つけるもの見つけて本隊に合流しよう?」


 犬の獣人のターメリックが私の手をひっぱる。


 「前に出るな。危ない」


 それでも女、子どもを最前列に立たせないという矜持はあるらしい。


 「…お前の事は必ず無事に本隊に帰す」


 すっかりおとなしくなったフリードが言葉少なにそう伝えてきたのが意外だった。


 騎竜をひいた私とターメリックを真ん中にひし形に陣形を組むと開けた場所から再び森に入る。

 先頭は剣士であるジェイ・パットンだ。


 夕べの雨が嘘のように空は快晴だ。

 森の中の露は少しはマシになったとは言え、せっかく乾かした騎士のマントを濡らす。

 私のは魔物由来素材のはっ水加工の糸で作られているので、水分を含んだりしないのだが、前を歩くジェイのマントも足元も水分を吸って重そうだ。

 暫く進むと下草もまばらになり随分と歩きやすくなった。


 時折小さな牙と角をもつ兎やネズミのような魔物と遭遇するが、戦闘にはならず。

 彼らは姿を消してしまう。


 「何かが通った跡だ」


 歩き始めて半日ほどたって、ジェイとフリードが、地面の痕跡から何かを発見する。


 「この辺で戦闘になったか」


 かすかに残る嫌な臭い。

 ターメリックの鼻に皺が寄る。


 「ゴブリンの血だね…これは」

 「こっちはオークの死骸だ」



 クリストフの視線の先には鋭利な刃物で腹を切り裂かれた魔物の死体が転がっていた。

 

 「ねぇ。こっちには、焚火のあとがあるよ」


 大人の腕二抱えほどの大きな木のうろには、人が身を寄せ合えば隠れられるほどのスペースがある。

 その前に焚火をしたような跡があった。


 「意外と近くにいたのだな」

 「中は誰も、残っていない」



 木のうろを覗き込んだクリストフが鎖の切れて落ちたと見えるペンダントトップを見つけた。


 「これは…」

 「ララリィの…」


 アレンが泣きそうなへの字眉で答える。

 たしかにあれはいつぞやソルドレイン領城下の市場でアレンとララリィと王子の影武者を務めたフリードと共に冷やかしで見ていたアクセサリーに似ている。

 けっきょく購入してたのか。

 何か面白くない。


 ともあれ、ここで彼らはあの激しい雨をしのいだのであると知れた。

 

 「ここで戦闘になったが、逃げおせたという事だな」


 「空から様子を見てきてくれ 」

 「助走をする場所が近くにない。」


 竜が飛び立つには助走をつける場所が必要だし、こんな木の枝が込み入ったところで翼を広げたら痛めてしまう。


 「あ、こら、また!!」


 フリードが何か言っているが、関係ない。

 

 うろのあるひときわ大きな木の枝に足をかける。


 飛ばなくたって高い所にあがればいいだけの話。

 

 「えっ?えええええ???」 


 アレンが頭を抱えてこちらを見上げている。

 そっかー。君の周囲にも木に登る女子はいないか。



 「おねーさん♪一緒するよ。」


 ターメリックがついてくる。

 二人でするするっと登っていくとクリストフが一言言ってはならない事を言った。


 「山猿…」


 失礼な。


 「登ってみれば?。視点が変わると見える物も違ってくるし」


 「風の魔法をそんな事に使うとか…」


 呆れながらも負けん気を刺激されたのか、同じように木を登ってくる。


 「どう?いい眺めでしょ?こんなとこだけど」


 パノラマに広がる魔の森。


 まぁ魔の森なんだけどね。

 ずっと下草をかき分けて歩いていたから、違う空気を吸いたいというか。

 空の方が地面に近いところより、たまってる魔力も少ないし。

 気持ち程度だけど。



 あー気持ちがすく。

 なんか変なプレッシャーを感じるんだよねぇ。

 

 誰からって…フリードからだけど。

 なんかこう肩が凝るような妙な感じ。



 だからと言って気分転換ばかりしてる訳ではないよ。

 ちゃんと気配探知発動させてます。


 ターメリックも風に乗ってくる臭いをかぎ分けているようで真剣な表情だし。


 「見つけた」

 「あっちかな…」



 私とターメリックは同時に王子のものらしい気配を感じとっていた。


 「やばいね」

 「っ!あの気配は…」


 遅れてクリストフも気配を掴んだようだ。


 「急がないと!囲まれているようだ!」


 そう叫ぶとクリストフは風の魔法をつかって今度は木から飛び降りる。

 なかなか派手な事をしてくれる。 


 「先に行って!時間が惜しい。私の竜、使ってもいいから!」


 フリードなら私の竜に慣れている。


 「すまない!借りる!」


 竜の背にあった荷物を固定する綱を剣で断ち切るとフリードは竜に飛び乗った。


 私とターメリックが木から地面に降り立つ頃には、他の3人の姿はもうなかった。


 「追いかけよう。ターメリック」


 二人で急いで散らばった荷物にふれて魔法の袋に回収すると、私達も3人の後を追う。

 

 まったく世話のかかる…。




 

 




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