懸念
「この時期にこっちを離れたのはいい判断だったかもしれねぇな」
ガスパがポツリと言った。
「王都では、不穏なうわさがありますからねぇ」
それに頷いたのは「じい」事ヨーゼフだ。
「3年前の貴族達への粛清も酷かったが、今度は第一王子派と第二王子派と国を二分する事態らしいぞ。内戦にならなきゃいいが」
ついこの前まで王都にいたダンの情報はかなり新鮮だ。
3年前の貴族達への粛清というのは、ララリィ嬢と対立するサロンの主なメンバーの生家への降格や役職の剥奪である。
正直、子ども同士の揉め事の対応にしては厳しすぎると思う。
たしかに毒殺未遂までいったのだから、それ相応の処罰が必要なのかも知れなかったが、あの時は結局犯人がわからなかったのだ。
その結果国を支える根幹部分に混乱が起き、周辺諸国との外交に支障を来して
結果、周辺国のわが国への侵略を許しているとは本末転倒だ。
学園を追放されたご令嬢の実家のクルー伯爵家もフィレンチェ伯爵家も要職への輩出者が多く、彼らの抜けた穴は大きかったと聞く。
「しかもな。これは大っぴらに言えない話なんだが、2人の王子の揉め事の原因は、例の侯爵令嬢だっていう噂だ」
ララリィ男爵令嬢は、俺様王子のライオネルとの身分差を埋め合わせるため、チャラ騎士の生家、ラズリィ侯爵家の養女になったと聞く。
義妹になった時点でチャラ騎士フリードはララリィ相手の恋愛レースから除外されたに等しい。
あの時の、ララリィ男爵令嬢の背後に騎士然と佇んでいた姿を思いだし少しだけ溜飲を下げてしまったが、私が彼から受けた仕打ちを思えば無理ないよね?
しかしながらさっさとライオネル王子と結ばれればいいものを。
同盟国との絆にヒビを入れてくれたばかりなのに、王位継承争いにまで発展しそうないらぬ火種をまいてくれるだなんて呆れて開いた口が塞がらない。
ララリィ嬢はいったい何を目指しているんだろうか。
兄王子も兄王子だ。
弟王子の恋人に色気だしてる場合じゃないだろ。
「何やってくれてんの・・・」
私は脱力し、瞑目した。
まさに無軌道。国の基幹を司る権威ある一家のやることじゃないだろ。
「やんごとなき立場の人が何をやらかしても、俺達にはどうしようもないこととは言え、せめて我々民衆を巻き込まないで欲しいな」
「まったくでございます」
「嬢ちゃんが世話になっていたダフマン子爵様の家は、ご当主がローリエ伯爵派に近しい事が幸いして、財務長官の職を追われただけですんでよかったな」
あの家は領地経営が上手く、このまま領地の運営さえ順調ならば別に困ったことにはならないはずだ。
むしろ領地経営に専念できるようになって養父は喜んでいるかもしれない。
ローリエ伯爵家では、私とレイチェルが仲良くしていたマリアン嬢とその兄のアドニス様が学園に在籍していたが、チャラ騎士フリードと同じくアドニス様はララリィ嬢の取り巻きになっていて、所謂恋敵同士なのにライオネル王子派みたいなのに入っていたため粛清の対象からははずれたようだ。
同じ伯爵家でも、ララリィ嬢と対立していると見なされていたアマンダ様やダイアン様の実家は多大なる被害をこうむったと聞く。大きく政治の勢力図が変わったのだ。
「子女が学園に入学している有力貴族の家では、娘達を学園から引き揚げさせる動きもあるらしい」
「どこの家でも巻き込まれたくはないものな」
学園で、ララリィ嬢に害意を持った者は残らず放逐されているらしい。
・・・・何だか魔女狩りのようで怖い。
イケメンで高位貴族だったり有力市民の家の美男ばかりが残っているらしい。
町の人々は面白おかしく、時には眉をひそめて噂をする。
「本当に、まったく・・・」
私は脱力してこめかみを揉んだ。
この国、大丈夫なんだろうか?
「頭痛い?ナデナデしてあげゆ」
ユリウスまぢ天使。癒される。
私達は道中、ゴブリンの巣の殲滅をしたり、ドラゴニュートの若者、ジルベールと知り合って仲間が増えたりしたが概ね問題がなく無事故郷についた。
感想、はげまし、ご指摘ありがとうございます。間違った表現等は随時訂正していこうと思います。