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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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頼まれても嫌

 サイクロプスのような強い魔物も脅威だけど、山ヒルのような一見大したことのないような生物も充分脅威である。


 男達は素裸になって、ヒルを駆除したあと、クリストフの出す魔法の風に吹かれていた。

 さすがというか何というか、ダルンダルンだったりひょろひょろ君はいないようだ。

 しかしながらここに紅一点がいるのだ、配慮してほしい。

 

 無駄に漂ってくるフェロモンがうっとおしい。

いらない、いらない。

 こんなところで何に向かって色気をふりまいているんだ。

 魔物でも魅了してくれるなら話は別だけど。

 




私は自分の魔法で乾燥させたので、服も装備もすでに乾いているのだが、いつまで後ろを向いたまま待てばいいのでしょうか。


 グシッ 


 誰かがくしゃみをした。

 ほらいつまでも裸でいるから…。


 

 他のメンバーの荷物をチラ見すれば、まぁ大した物はもっていないのがわかる。

 フリードもロクにサバイバルに役に立ちそうな物を持っていなかったし。


 まぁ、そういう事ですね。

 私がするより他ないのでしょうね。


 誰かにブチブチと文句を言いたい所なのだが、言う相手もいないので黙って準備をする。

 

 と言う訳でサバイバルクッキングタイム


  取り出したるは、今朝採れたばかりの山鳥(あひる程度の大きさ)

 本当は肉を熟成させた方が、よりうま味が出るのだけど、使ってしまおう。

 こいつの羽をむしってツボ抜きし、中に雑穀と米と香辛料を詰め、塩こしょうを表面に刷り込み、ダッチオーブンのような鍋にたっぷりの湯を沸かしてブーケガルニと煮込む。

 トマトに似た酸味のある赤い野菜の実を魔法の袋より取り出し片手でぎゅーっと握ってつぶし入れる。

 それらに圧力をかけてよく煮ると肉がホロホロと崩れるようになるので、そうなったら出来上がり。


 それを身をほぐして深皿によそう。

 

 いただきます。 



 はふはふ


 うん美味しい。


 

 まるごとの鳥からいいお出汁が出て、いいお味。

 塩味と少しの酸味も丁度いい塩梅。  


 具を食べつくしたら残ったスープにパンを投入してさらに上からチーズをパラリと投入。


 おいしい出汁の効いたスープをパンが吸って、これまたうまし。

 とろけたチーズでコクが出てさらにうまし。

 乳製品を楽しみたくて、アマゾン領内で牧畜を広めてよかった。


 背後の気配を窺うと、見てる見てる…たぶんめっちゃ見てる。

 視線を感じるし。

 いいところのお坊ちゃんである彼らはたぶん呼ばれるまで寄ってこない。

 あ、誰かのお腹が鳴った。


 いいのだ食するがよいぞよ。


 私は食については寛大なのだ。



 なぜか当たり前のように自然な感じでフリードが皿を突き出してきたので、その手にした皿に丸鳥のリゾット詰め@冒険者仕立てをよそってあげると、次々と皿が差し出され、うんまぁ全員にいきわたったようですね。


 おそらくフリード以外は昨日から食べていないはずだが、がつがつと食べる者はいない。

 さすがは身に着いたマナーはこんなところでも発揮されるようだ。

 

 ちゃんとシャツとズボンも着用してくれている。

 よしよし。


 パンを投入する前にスープを飲みほしてしまった輩もいるので、おかわりのスープとパンとチーズを追加してあげる。


 最後に白湯で皿をすすいだ上飲み干し、専用の布で拭いたり、魔法で出した水で洗ったりして各々で自分の荷物に仕舞い込もうとしているのを制して、お茶を注いでやる。


 お茶を飲んで、誰かがため息をついた。

 ひと心地ついたという事かな。


 サイクロプス戦から今朝まで雨に打たれての夜明かしは辛かったに違いない。


 ドジっ子騎士のアレンは船を漕いでるし、他のものも警戒心も薄れ、すっかりくつろぎモードだ。

 そんな中で剣士のジェイ・パットンは剣を手に警戒を崩していない。


 クリストフは瞼を閉じて魔力回復に努めているようだ。

 魔道具のリングによって魔力酔いは軽減されているようだけど、やはり辛そうだ。


 


 食後休憩を終え、道具を片づけ終わる。

 雨の夜を屋根がわりにされたマントも回収が終わったようで、再びヒル避けの薬を出すように頼まれる。

 騎士の正装のマントは襟と裾に入った模様にヒルがまぎれてとりついているとわからない。

 念には念を入れチェックをいれ、用心する。


 「…救援が来たようだぞ」


 フリードの言葉に上空を見上げれば、小さな点がふたつ、見る間に近づいてくる。


 見ればジルベールの操る騎竜と私達が逃がした竜だ。

 

 「ヒルがいるのよ。ジルベール」


 私の忠告が聞こえたようで、ジルベールが竜に何かささやくと竜は自分が着地したい場所へ向かって弱めのブレスを吐く。

 そして何回か上空で旋回して確かめてから降下をはじめる。


 ヒルがたとえとりついたとしても竜の硬い皮膚をどうにかできるとも思えないけれど、竜自体も本能的にヒルは嫌いなようである。

 いつもと違って着地の仕方が丁寧ですらある。 



 「ジルベール!」


 「無事カ?」


 王都生まれの王都育ちじゃドラゴニュートと触れ合う機会などないのだろう。

 騎士達に緊張が走るのがわかった。


 「仲間よ、手出ししないで」


 騎士達を牽制しつつジルベールに近づく。

 あれ?

 尻尾に何かついているようだ。


 「ターメリック?」


 ケモミズのターメリックである。

 悪気ない笑顔で笑っている。

 

 「ついて来ちゃった。人探しするんだろ?オイラの鼻、役にたつよ」


 「ソウイウコト」


 ジルベールは肩をすくめる。


 ちゃんと仲間に断ってきたのだろうか。


 「たしかに我々は王子とララリィ侯爵令嬢の捜索に入ろうとしていたから…助かる」


 「隊のものは皆無事だろうか?」


 「手分けシテ逸レた者を捜索シテいル。近くマデ着てイルアマゾン領軍ガ合流スル見込みダ」



 よく考えたら、彼らは騎士達の指導的な立場にある人間ばかりだ。

 自分の隊をほっといて、こんなところで個人プレイに走っていいものでしょうかね。

 

 情報交換をすませたようなので、さて私はジルベールと帰りましょうかね。


 「無事でよかった。…よしよし」


 ゴブリンと遭遇したときに逃がした私の騎竜だが、ジルベールにメンテナンスをしてもらったと見えて元気いっぱいだ。


 「無事をホウコクスル。他ニモ王子ヲ探スモノガイタラ合流スルように伝えるガ?ソレトモナニカ指示ガアルノカ?」



「ああ、いや、大勢で動くとかえって動きにくい。隊のものにはアマゾン軍と合流してその場にて待つように伝えてくれ…それで相談なのだが荷物を置いてきてしまった。少しでいいので、食糧や装備の持ち合わせを譲ってもらいたいのだが」


 「コレヲニコルかラ預かってイル。フロルニと」


 「それを譲ってもらえないだろうか」


 「フロルニとイワレタ」


 「それを譲って…」


 「フロルにト」


 「…」


 「「……」」


 えっ?なんでそこでみんなこっち見てるの?


 私、王子なんか探しにいかないよ?


 頼まれたって嫌なんですけど。




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