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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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合流

 とりあえず中途半端にくすぶっている煙製造機=生乾きの木による焚火を消す。


 水をかけたわけではない。

 水のドームに閉じ込めて空気を絶ったのだ。


 少しずつ煙が晴れて行き、後に残されたのはほぼ全裸の男たち。


 私は黙って目を覆った。


 「なんていう恰好してんだ…」


 咳き込みながらもフリードが声をかけると、ドジっ子騎士のアラン少年が涙目で叫んだ。


 「山ヒルにやられたんですよ!」


 たかが、ヒルとあなどるなかれ、魔の森のヒルは、普通のヒルよりえぐい。


 「あー、だから、クリストフが倒れてるのか」


 「僕達は、魔法使いじゃないからまだよかったんだけど」


 ジェイ・パットンも苦笑しながら服をバサバサとはたいている。


 魔の森のヒルは血だけじゃなくて魔力まで吸う。

 これにたかられたら魔法使いはたまらない。


 「って、あ、フローラさん?!」


 「『フロル』で…ごめんその前に服着て」


 




 「…隊はどうなった?」


 フリードの問いに皆固まる。


 「…わからない。サイクロプス達に騎士団は分断されバラバラになった」


 「王子とララリィ…侯爵令嬢ともはぐれた」


 「きっとご無事ですよ。ライオネル王子もララリィ…さんも」


 「俺達が見た時、サイクロプスに追われて二人で走っていた。サイクロプスからは逃げおおせたはずだが」


 「ここは魔の森だ。ライオネル王子がいかにお強くても、強い魔物に襲われたら一溜りもない。早く捜索をしないと」

 


 フリードは、昨夜見た巨大なナメクジのような魔物の話をした。


 「白い半透明な軟体動物ね。スライムじゃなくて?」


 「スライムに触手はないだろう」


 「触手状に身体を伸ばして攻撃をすることはありますけどね。」


 「この森のどこかにいるんですかね。ソイツが」


 「出くわしたくないね。もちろんヒルもだけど」


 「それを言うならサイクロプスとかワイバーンもな」


 皆、一様に黙る。

 ホワイトランドとの戦争でも、後陣に詰めていた彼らは本当の戦闘をこなしていない。

 ここへ来ての魔物との連戦に思うところがあったのだろう。

 

 

 「フリードは、そちらの冒険者とどうして?」


 クリストフが私を見て怪訝な表情をする。


 「あぁ、彼女はアマゾン領主、レーフェン殿の身内だ。俺は食料を追加で援助してもらうために、ライオネル王子の使いで一旦アマゾン城まで行った帰りだったから」


 「彼女?」


 「はじめまして、アマゾン男爵の妹にあたります。冒険者としても活動しております。『フロル』とおよびください」


 あっさり私の性別をバラしたフリードを軽く睨む。


「まるで男のようななりだな」

 

 クリストフの声にはやや非難めいた響きがある。

 女、子どものしゃしゃり出るような場所ではないと言う事であろう。

 


 「私のなりの事より、まず王子殿下と侯爵令嬢様の行方です。」


 ここは社交界のパーティ会場じゃないんだから貴族の令嬢らしさを求められても困る。こういう頭の固い男って多いんだよね。


 ややムっとした顔をしたクリストフの前に出て、驚いた事にフリードが私を庇うように言った。

 

 「この魔の森で、貴族の子女らしくする事が生き残る事よりも大事か?

 たしかに彼女は冒険者でもある。でもそんな彼女に俺は、いや王子もララリィも彼女に助けられているんだぞ。」


  「あ、いやそんなつもりじゃなかった。少し驚いただけで…」

 

  クリストフの女性に対するイメージというか固定観念の事を、私も無理にどうこうするつもりはない。

 私と彼とは別の人間で、進んできた道も目指すものも違うのだから。

 そんな事より、今後の方針を決めなければと私は思う。


 「すまない。…だから性別がパっと見わからないようにしていたのか」


 フリードは少し考えこむと、私に謝罪した。


 「避けられる面倒事は避けたい方なので」


 差別と区別は違う。

 けれど貴族の子女らしくないというのは多くの貴族達にとっては受け入れがたい事なのだろう。

 

 兄のようにまるっと受け入れられる人は稀であると思う。

 そもそもこんな辺境で名ばかり貴族の私が扇子を片手にドレスを着こんで貴族の令嬢らしく過ごしたところで何の実にならない。

 

 それより兄を助けて領内の治政に関わったり、美味しいものを口に入れるために狩りが出来た方がいい。


 さらに大事な人をいざと言う時に守れたりする力もあった方がいいじゃないだろうか。


 性差、人種、身分制度。

 この世界はいろいろと不自由な柵に囚われている。


 ある意味、人間とはそういう存在なのかもしれない。

 前世でもそれらは普遍的な問題であったから。 



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