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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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煙に巻かれる



 「うまい。」


 付き合ってる頃は、フリードが食事をちゃんと取っているところを見たことがなかった。


 つまみ食い程度で飽きてしまって、食べ物をつついているだけになり、お行儀が悪いって私がいつも注意していたのが懐かしい。

 それなのにぐんぐん身長が伸びて、私は彼を見上げるばかりだった…のだけど。


 …今は15センチちょっと差。

 あれから私も随分と身長が伸びた。

 ヒューマンの女性では高い方になるんじゃないかな。

 前ほど見上げなくても彼と視線が合う。


 彼のロイヤルブルーの瞳の中のコンタクト状のもの。

 一度気にしだすとすごく気になる。

 …痛みが自覚出来た方はコンタクト状の薄い膜を取り去る事が出来たけど、もう片方がまだ残っている。


 目薬では浮かないし、指で取ろうとしても上手くいかなかった。

 片方ずつで景色を見てもらったところ見え方が違っていたからそのコンタクト状のものが何か悪さをしているのは間違いないのだが。

 眼球を傷つけそうで無理矢理というのも躊躇われる。


 そもそも何のきっかけで、あれの片方だけがずれたのか。


 やはり墜落の時のショックとしか考えられない。


 もう一度落とす?


 …それは無理というものだ。


 偶然の再現など出来るはずもない。




 やはり注意深く観察していて、その瞬間を逃さないようにするしかないだろう。

 そうと決まれば、ここに何時までもはぐれている訳にはいけない。

 早く皆のところへ戻らなければ。


 「少し高いところから、様子を見てみる」


 おかわりを食べているフリードをそのままにして私は適当な木を見繕った。

 顔に枝があたるのを避けるため、はずしていたマスクをかけ直す。


 「よしこの木が良さそう」


 身体強化をかけつつ軽快に登っていく。

 木登りをするお年頃の令嬢なんていないだろう。

 私は今は間違いなく「冒険者のフロル」なのだ。


 他の木よりは高いが、抜きんでて高い訳ではないので、そんなに見通しよい訳ではないが、食べられる実がなる木を眼下に見つけた。

 そしてそう離れていない場所で食事のための煮炊きをするためにしてはもうもうと立ちすぎている煙。

 あれは湿った枝を無理やり燃やしたんだろうなと分かる。

 火の魔法使える者だろう。ということは魔術部隊の誰かか、冒険者の中で魔法の使える誰かか。

 もう、巨大なサイクロプスの姿は何処にもなかった。

 うまく退けられたのか、それとも反対に…。

 嫌な想像を首を振って頭から振り払う。



 ふと傍らの木に茂みから鳥が一羽飛び立つのが見えた。

 太もものベルトからナイフを取り出す。

 魔力をこめて投げると、命中してそれは落下する。


 息をするように狩りが出来るようになっている。

 冒険者というのはなかなか因果といえる商売かもしれない。


 ある程度降りたところで足をかけていた枝から地面にむかって飛び降りる。


 特に周囲に魔物の気配もない。

 これならば、移動をはじめてもいいだろう。

 とりあえずあの煙の周辺にいる人間が移動しない内に合流しないと。


 私は食べられる木の実の木からよく熟れて食べ頃の実選んでをもいで、ウエストポーチの中の魔法の袋の中に仕舞い、落とした鳥も首を切って血抜きを終えると仕舞い込んだ。


 フリードのところに戻ると、一応道具を片づけようとしていてくれたらしく、鍋の中は空で綺麗になっていた。

 残ったツユまで飲んでしまったのかもしれないが。


 魔法で水球を作りだすと汚れた食器類を中につっこみ洗う。

 鍋も洗って、最後にすすぐと魔法で温風をだし乾かして、リュックに仕舞う。



 冒険者の持ち物というのは騎士団のものとは違い垢抜けていないのだが、その分実用的で使い勝手がよい。


 フリードも自分の騎士団支給の肩かけ鞄を持つが、どうもぐっしょりと濡れているらしい。

 持ち方が重そうだ。

 彼ら騎士は荷物を最小にとどめる。

 だから彼単独でこの森を行くには心もとない装備しか今は持ち合わせしかないだろう。

 彼の置いてきた馬の方に殆ど残してきていると思われる。

 あの襲撃で騎士達もそうだが、馬や荷物がどの位温存できたのか思い憚れる。

 場合によっては体勢を整えるために一度撤退も考えなければならないだろう。


 フリードが温風を出すのをじっと見ていたので鞄を乾かしてやる。

 ついでに、私のマントを切って包帯替わりにした布きれで包んでやる。撥水性のある糸を折りこんであるので、雨上がりの水がしたたる森の中を移動するにはこうした方がいいだろう。


 私はさっき取った木の実をひとつフリードに渡すと、自分も食べながら歩きだす。


「待て。どこに向かう」


 フリードの問いに指をさして答える。


 「むこう。煮炊きをするような煙があがっていた」


 フリードは警戒もあらわに木の間を透かして見るようにそちらの方向を見る。


 「大丈夫。道中に夕べのあいつのような敵はいない」


 進み出せば、ついてくるような気配がする。


 「その、怪我はもういいのか?どこも痛くはないか?」


 「大丈夫。さっき木登りもしたけど何ともなかった」


 「木登り???何をしているんだ。君は…」


 フリードが呆れたように言うので私も肩をすくめる。


 「何をって、冒険者だけど」


 「俺が先に行く。こっちでいいのか?」


 任せておけないと思ったのか、フリードは私を追い抜くと先に立った。


 「本当に大丈夫なんだな?」


 最後に念を押すと、飛び出している邪魔な枝を剣で払いながら、先を歩いてくれる。

 昨晩は、よくこんな森の中を意識のない私を背負うか何かして運んでこれたものだ。


 そう言えばお礼を言ってない事に気がついた。


 「その、ありがとう。昨日は…意識がなくて重かったでしょう?」


 「いや、当たり前の事をしただけだし、別に重くはなかった」


 …本当かどうか分からないけど、彼は彼らしい紳士的な返事を返した。

 彼らしい返事だった。



 1時間程歩くと小さく森の木々が切れた場所の森側に騎士のマントを複数、周囲の木に結び付けて簡易的な屋根が作られた場所に出た。


 「マントで屋根を作ったのか、ここで夕べの雨をやり過ごしたんだな」


 殆ど気休めだったに違いない。

 マントの下には水たまりが出来、泥でぐしゃぐしゃだった。


 周囲を見渡すと、人の咳き込む音と真っ白な煙が立ち込めているのが見えた。


 「アランっ。これじゃ服が乾く前に俺達が燻製になっちまう」


 「仕方ないでしょう。燃やしたくても何もかも濡れちゃってるんですから」


 私が見た煙は煮炊きをする用ではなく、濡れた物を乾かそうとして無理に火を起そうとした煙のようだった。



 「おい、誰がいるんだ?」


 フリードは嬉しそうに煙の中に入っていった。


 「??フリード?」


 声の主達はフリードと顔見知りの騎士達らしい。


 私はこの煙の元をなんとかするために、フリードに続いて煙の中に入った。


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