ヤバい奴との遭遇
やがて夜明け近くなって気温が下がり始め、焚火だけでは暖がとれなくなった。
顔が冷たくて目が覚めてしまう。
起き上がると、丁度フリードも目が覚めたようで身動ぎをしたのが見えた。
吐いた息が白く、指も足もかじかむ。
冷気が地を這うように押し寄せてきている。
こんなに冷えるのは普通ではない。
私とフリードは手早く身支度すると、剣を構え、息をひそめた。
洞窟の外を伺う。
外は雨が降っているようだ。
決して強い雨ではない。
しとしととした雨音が耳を打つ。
その中にかすかな異音を感じ取り、フリードと目を見かわした。
ザッ
足で土砂をかけ、フリードが焚火を消す。
夜明けが近いとは言ってもまだ森の中は真っ暗だ。
目をこらして見ても雨の中の暗い森、得体の知らない闇が続くだけだ。
ズルッズルッズルッ
気のせいじゃない、何かを引きずるような音が確かに近づいてくる。
生臭い臭いと冷気。
不快感に自然と眉根が寄る。
やがて白いぼうっとした何かが闇の中に浮かび上がってきて、その姿を現した。
その異形に声が出そうになって口を抑えた。
白い半透明の身体にいくつもの手や足が生えている。
最悪なのが、その生えている手や足がその生き物のものではないところだ。
ゴブリンやオークの物とおぼしき手や足を身体からつきだしたまま、地面と接触している部分のドレープが重なってできたようなひれのような足を動かして、その巨大な半透明の生き物は静かに移動していた。
触覚のような突起物が頭の上から出て、うねうねと周囲の様子を探るような動きを見せている姿は貝殻のない貝のようでもある。
そう、それは巨大な肉食のなめくじのような生物だった。
あれはヤバい。
本能が訴えかけて来る。
情けなくも足が震える。
吐く息が白くなるのも、気配が気取られそうで怖い。
洞窟の壁に貼りついて息をひそめる。
雨が一段と強くなった。
そいつは私達の方へ触覚を伸ばしかけてきたものの、強くなった雨にそれを引っ込め、再び身体の方へ引き戻した。
どうやら強い雨に叩かれるのが嫌なようだ。
ズッズズズズ。
目の前をその身体が通りすぎる時に、そいつの半透明の身体の中に半分溶けかかった人型の頭部のような影が見えた。
「ぐっ」
胃液が逆流しかけた。
気がつくとフリードの胸板が目の前にあって、私は庇われたのだと気がついた。
どしゃぶりの雨が跳ね上がって服を濡らしていく。
さっきまで火を炊いていたところまで跳ね上がった雨粒で濡れている。
「出来るだけ奥へ」
フリードは私の身体を押すと洞窟の奥の壁に貼りつかせるように立たせた。
雨の勢いは更にひどく、吹き込んでくる風と共に雨粒が洞窟内まで入り込み、 乾いていた地面にまで水が流れこんできた。