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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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フリードのトラウマ


 ためらいつつ、起こそうと寝ているフリードの肩に手を伸ばす。

 治癒の魔法をかけるなら、あまり時間が過ぎてからでは効果が薄い。


 あと少しの距離なのに躊躇いが浮かぶ。

 それは徹底的に無視され、拒否された過去の記憶のせいだ。

 また、私は避けられてしまうのだろうか。

 そんな怖れと、苦い思い出が甦ってきて私を臆病にさせる。




 しかし、私の手が彼の肩に触れる前に彼は目が覚めたようで言葉を発した。


 「やめろ…」


 のばしかけた手を振り払われ私の心は凍りつく。


 拒否された。やはり私に声もかけられたくないのだろうか。


 そしてフリードは両手で何かを払うような動きを続けたと思うと今度は頭を抱え、身体を丸めてしまった。


 「いやだ…やめてくれ」


 食いしばった歯の間から呻くように声が漏れた。


 私はようやくフリードの様子が尋常ではないことに気が付いた。


 「フリード?」


 彼からは返事がない。

 ただ短く、浅い息使いが漏れ、苦しそうだ。


 「フリード?」


 躊躇っていた事も忘れ、彼の肩に手をかけ身体を揺する。

 だが、彼はひきつけでも起こしかねない程震えさらに息が激しくなった。


 「いやだ!…いやだ!出せっ!」


 「フリード!!!?どうしたの?痛むの!!?」


 何かよくない事でも起こっているのだろうか。

 私も軽いパニックになって叫んだ。


 すると彼は目を開け、焦点の合わない目で周囲を見回した。

 熱が出て錯乱しているのかもしれない。


 私はフリードの両肩を掴むと、彼の顔を覗き込んだ。


 「大丈夫。ゴブリンは来ていない。魔力も回復したから治癒魔法もかけられる。夜が明ければ、きっと皆のところに戻れる…よ?」



 違和感がよぎる。

 何か変だ。


 たしかに触れたフリードの身体は発熱しているようで熱い。

 息もあがって苦しそうだ。


 だが、そうじゃない。そうじゃなくてもっと別の違和感が…。


 目、そう、目だ。瞳がおかしい。


 熱に浮かされているせいじゃない。

 この瞳はまるで…。


 まるでコンタクトをしているようじゃないか。


 「フリード???」


 彼の頬を両手で包み、視線を合わせ、目を覗き込む。


 やはりだ。瞳の虹彩にあたる部分に、薄い膜状のコンタクト独特の円状のラインが見える。


 「なんでコンタクト?」


 この世界、そんなものはない。何かの病気かあるいは何か異物が寄生しているのか?


 私の素っ頓狂な声で、フリードの意識は何故か戻ったようだ。


 「…フローラ?」


 怪訝な表情をしている。


 意識が戻ったら自分の顔を元カノが両手で挟んでその目を覗き込んでいるのだ。

 …びっくりしただろう。


 「寝ていたのか…」


 「熱が出ているわ。うなされていたの」


 「ここは…?」


 「わからない。洞窟みたいだけど、あなた運んでくれたのよね?」


 「ああ…」


 頷いて、彼は顔をしかめた。

 肋骨、やっぱり逝ってそう。


 「君が気を失って、あの場に留まるのも危険に思えたので移動したんだ。

…すまない。君も熱を出して暑そうだったから服は脱がせた」


 視線を逸らされて、我に返った。

 私ったらインナーのままだ。


 「洞窟っていうか窪みみたいな場所だけど。夜露にさらされるよりはと思って…そうか、だからか」


 自分で自分に納得しているようだが、私には何の事だかわからない。

 だが、今は至急やらなくちゃいけない事がある。

 

 コンタクト状のものの正体も気になるが。



 「そこに横になって…わたしに診せて?少しなら治癒魔法をかけられるから」


 ララリィ嬢の治癒魔法に比べたら大した事はないだろうが、それでも今の状態は軽減できる。


 「器用なものだな、そっちの魔法もつかえるのか」


 彼はプレートをはずし、私はインナーの上に迷彩服を羽織る。


 「どこを打ったの?」


 「この辺で着地した。息を吸うと痛い。そこは動かすと違和感がする」


 「じっとして…服をめくるけど…いい?」


 「もっと際どい場所も見た仲だろ?」


 「………」


 「冗談だ」


 フリードの軽口にいちいち固まってしまう。


 彼の胸を骨の位置に沿って指で撫で、骨の状態を確かめる。

 胸のプレートのおかげで、さほど酷い状態じゃないようだ。


 もし骨が折れきっていても、元に戻ってくっつくように念じながら治癒魔法をかける。

 フリードが痛いのかくすぐったいのか悩ましい吐息をもらすのが落ち着かない。


 「…なぁ」


 そして集中しようとしているのに話しかけてくる。


 「なに?」


 動揺しているのを気取れなくて、ついぞんざいな返事になってしまったがフリードは気にしないで続けた。


 「子どもを叱ったり脅すために、閉じ込めたりするのはナシだ」


 急な話の展開に戸惑う。


 「大人になっても、恐怖を思い出す事がある。やるな」


 ユリウスの事を言っているのだと分かるまでに時間がかかった。


 「男の子は、特に騎士になったりすると、そんな経験はマイナスだ」


 「…ユリウスは、そんな風なお仕置きが必要な悪戯はしないわ」


 「…ならいい」



 フリードは言葉を切って、しばし黙り込んだが続けて言った。


 「俺も何か悪戯をして仕置きをされた訳じゃなかったんだがな」


 「…?」


 「兄弟喧嘩で閉じ込められた。兄と弟と二人がかりでされたから、逃げられなかった。…今でも、大人になった今でもその時の感覚がふいに戻る事があるんだ。…さっきのはその発作だ」


 言われて、フリードが完全に目が覚める前の、あの異常な様子の事を言っているのだとわかった。


 私の記憶ではそれはトラウマと言われる思い出でフラッシュバックという言葉も浮かんでくるんだけど。


 フリードは3人兄弟の真ん中で、上と下の兄弟は結託してフリードをやりこめたりしたんだろうか?

 兄弟であるフリードのトラウマになる程まで?

 そんなにラズリィ侯爵家の息子達は性格が悪いのだろうか?




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