洞窟にて
ーーーーーーーーーーーーーで視点が変わります
激しく揺すられ、おまけにビンタをもらう。
雪山じゃないんだから、魔力枯渇で意識を失った位じゃ死なないって。
ああ、ここは魔の森で、こうして、皆からはぐれているだけでも危ないって?
それはそうだけど、ちょっと休ませて?
文字通り全力出したばかりだから動けないって。
え?王子達が心配だから先を急ぎたい?
気持ちは分かるけど、いや私も十分心配してもらってもいい状態だと思うんだけど。
その点、ご考慮を頂けないですかね?
…はぁ…分かりました、でも少しお待ち下さい。
私 の足、折れてるみたいなんですよ。
これを治癒で治すには、そこそこ魔力を回復させないといけないし、貴方も、胸を押さえて痛そうな表情からして、肋骨いってませんか?
そうしゃべったつもりだけど、フリードにはうめき声にしか聞こえなかったらしい。
私の口元に耳を寄せて眉根を寄せる。
今はなんと言われても動けませんよー
口も動かせない程の状態なんだもん。
はぁそうですか。そんなに待てませんか、今がんばって魔力回復させます、回復させますが…そうすると酔うんですよねー。
周囲は高濃度の魔素で満たされている。
だからそれを取り入れたら自分の身体に馴染ませればいいのだが、濃度の差で不調に見舞われる。
つまりは、どうしても今動けないと言う事。
何度もガクガクと揺すられるが、私の意識はすぐに沈んでしまう。
何度も何度も揺すられたが、私の意識はなかなか覚醒しなかった。
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巨人に追われて逃げる愛しい女性とその手をとって逃げる仕えるべき人の姿が眼下に見えて冷静さを俺は失った。
そんな俺の反応を見て、巨人の動きを止めるために、フローラは巨人の真ん前に出るという無茶な行動に出た。
結果、巨人の武器を無効化する事は出来たが、あおりを食って騎竜と俺達はきりもみしながら地上へと落ちた。
もうだめだ、そう思った俺の腕を彼女の手が掴んだ。
気がつくと高い所から落ちたのに、生きている。
彼女が水球で落下の勢いを殺したからだが、それでも地面に叩きつけられ俺は胸や肩を強打していた。
痛みでクラクラするのを我慢して顔をあげると彼女は青い顔をして一方を指をさしていた。
見ればその方向にはゴブリン達がいた。
藪やしげみをかき分け枝を払いつつ覗き込んでいるのを見ると、どうやら奴らの探しているのは俺達のようだ。
大方、こいつらはサイクロプスのお零れを漁って生きているのだろう。
彼女は変な模様のマントで俺と自分をすっぽりと隠すと竜をけしかけたようだ。
動き始めた竜につられてゴブリン共は離れていく。
とりあえず危機は去ったようだが、俺に覆いかぶさっているフローラの身体がふいに重くなった。
「おいっ!しっかりしろ」
片手を突き出した状態で前のめりに倒れた身体を抱き起す。
彼女が竜に何かの魔法をかけたのは確かのようだ。
それが最後の残った力だったようで、彼女の意識はもうない。
「起きろっ!こんなところで寝るな!」
揺すって気付けをするために頬を叩く。
ゴブリン達は目の前の餌である竜に釣れられて行ってしまったが、いつ気が変わって戻ってくるかわからない。
王子とララリィの事も心配だ。
あのサイクロプスは、ジルベールとかいうドラゴニュートが倒してくれただろうか。
気はせくが、周囲はうっそうとした木や高い下映えの草のせいで見通しが効かない。
遠くで戦闘音が聞こえるが、この状態では駆けつけた所で何かできる訳でもない。
何処かに身を隠せる場所はないだろうか。
「バカが。お前は無事に帰らないとダメだろう。」
何度も揺するが、意識は戻らない。
彼女が死んでしまったら、あの子どもはどうなる?
俺は焦っていた。
「だから女の身でこんな場所に来るなと…」
今更言っても仕方のない事だが、ドレスを纏い、儚げに微笑む以前の彼女を想う。
ある意味、俺が彼女を今のようにしたのだ。
王都の養家で大事にされていたならば、今頃俺以外の相手と家庭をもっていたかもしれないのに。
わざわざ困難な道を彼女は歩んでいるように思える。
「バカだよ。お前は…」
胸に溢れてくるこの気持ちは何だろう。
わからない。
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薪がはぜる音で目が醒めた。
「つっ!」
とたんに足の激痛を自覚して私はうめいた。
どうやら手当をしてくれたようで、私の足には添え木があてられ布がまかれていた。
どうやら私のマントを細く切って包帯代わりにしているらしい。
いやあの、これ最新技術の固まりですんごくお値段の張るものなんだけど…。
さらに違和感を感じて自分の上半身に目をやるとプロテクターははずされインナーだけになっている。
少し離れた所で寝ているフリードに恨みがましい視線を送り、魔力の回復具合を確認する。
さらにすごく痛いが足の骨の状態を触って確かめてみる。
骨は、ずれたりはしていないようだ。
この世界、レントゲンなんてものはないから、もうイメージとかえいやの感覚で判断するしかない。
私は覚悟を決めて治癒の魔法を折れた足にかけた。
治癒の魔法をかけた時独特のほわわぁとした感覚に表情がゆるむ。
怪我をした足も急に血がめぐるようになったようでジンジンとする。
包帯代わりの切れ端を解いて添え木をはずしておっかなびっくり立ち上がってみる。
何とか立ち上がれた。
走り回るのは無理だろうけどゴブリン程度なら相手に出来るだろう。
他を確認するために身体を軽く動かすと脇腹に痛みを感じる。
インナーのシャツをめくると大きな青タンが出来ていた。
ここはどこだろう。
周囲を見回すとゴツゴツとした岩肌が見える。
非常に狭いが、ここはどうやら洞窟のようだ。
私達の落下したところには岩など見当たらなかった。
フリードが私ともども移動して、見つけたのだろう。
意識のない私をどうやって運んだのか気になるところだが、彼も怪我をしていたはずだ。
あのままそこにいれば、ジルベールが竜に案内させて回収してくれただろうと思うが、どうやら外はもう暮れてしまっているらしい。
皆が無事ならば、朝を待って捜索に来てくれるはずだ。
それまでに怪我を治癒させて、動けるようにしなければ。
…
フリードは反対側を向いて横になっている。
よく寝ているようだが怪我の具合を見たい。
私はさんざんと迷ったが彼を起こす事にした。