ゴブリンに見つかった
私とフリードと竜は一緒くたに縺れるように地面に向かって落ちていく。
私は竜につけられた鞍によって身体を固定されているため自分で体勢を戻す事が出来ない。
竜は竜で翼に追ったダメージが大きいのか、羽ばたこうとしては悲鳴のような鳴き声を上げた。
フリードは私がとっさに伸ばした腕を、逆に掴み返して掴まってきた。
腕の力だけで、私の方へその身体を引きつけて来て、2人の身体が密着した。
「っ!」
すぐそこにまで、森の木の先端部分が迫ってきているのが見えて、慌てて水の球を生み出す。
ターメリックを受け止めた時には「煌駆のジン」が創りだした水球もあった為に勢いが充分に殺せたが、今回は違う。
それに今度は竜と大人二人分だ。
どの程度まで勢いを消す事が出来るだろうか。
「くっ!」
私は魔力を全開放するより他なかった。
激痛で気がついた。
どうやら命は助かったらしい。痛いが。
というか痛い!もう痛いとしか考えられない程痛い。
竜は、地面に激突する直前に魔法で浮力を出したと見えて、私達はあまり勢いを殺せないまま、水球を突き抜けてしまったようだがどうやら地面と激突は避けられたらしい。
が、竜に宙に留まり続けるほどの力はなかったと見えて、私の足は竜の身体の下敷きになっている。
竜は起き上ろうとしてもがいているが
私が鞍で竜と固定されて繋がっているために、うまく起き上がれないようだ。
周囲を見回すと、少し離れたところでフリードはうつ伏せで倒れていた。
死んでしまったのかと一瞬考えて胸がぎゅっと締め付けられる。
「フリード…」
声をかけると、かすかにうめき声がして身じろぎをしたので、心からほっとした。
とりあえずは、竜の下になっている足を引き抜かないと。
鞍に身体を固定させるための器具の留め金はいくつかは墜落のショックで飛んでいたが、残っている留め金が歪んでいて、うまく外すことが出来ない。
私はあきらめて竜の鞍に取りつけていた道具袋の中からナイフを取りだし、
革ベルトごと切って竜から鞍ごとはずした。
これにより身体の自由が効くようになったので、ゆっくりと足を引き抜く。
手で背を押してやると、竜はようやく身体を起こして座り込み、翼を拡げて見たものの、痛そうに再びその翼を畳みこむ。
竜の下敷きになっていた私の足は、骨でも折れているのか、動かすと激痛が走った。
「ググググググゥルル」
ふいに竜が首をもたげ、警戒音を喉から出した。
竜の視線の先を見ると、鬱蒼とした森の木や下草の間から緑色の皮膚をした小柄な身体がチラリと見えた。
奴らは何か鉈のようなもので藪の枝や草を払いながらこちらに進んできているようだ。
「…フローラ?」
気がついたらしいフリードが私に声をかけるが、私は身ぶりで声を出さないように伝えた。
そうっと、竜の視線の先の方を指し示せば、フリードも息をのんだ。
私の指の示す方向にはいわゆる「ゴブリン」と呼ばれる魔物が獲物を探して辺りの藪を覗いていた。
どこかで、私達がサイクロプスのスリングに吹っ飛ばされたのを見ていたのだろう。
そして地面に落ちた獲物を掻っ攫おうと探しているのだ。
怪我をしていたり、瀕死の獲物ならば、楽に狩れるだろうから。
ずる賢い。さすがゴブリン、コバンザメのようにサイクロプスにくっ付いてまわり、こぼれ餌をあさるつもりなのだろう。
自分の足を動かしてみた。
激痛が走る。
フリードもまだ起き上がって走れる状態ではないようだ。
それに鞍の革ベルトはさっき切ってしまった。
鞍なしで走る竜の背に捕まり続けるのは無理だ。
絶対絶命とまでは言えないだろうが、危機にさらされている。
複数いるゴブリンを相手にする魔力は残っていないし、私もフリードも怪我をしていて動けない。
心臓はバクバク動いて、緊張で息が早くなる。
どうしよう。このまま静かにしていて見つからない可能性にかける?
いや、奴らは獲物を見つけるまで諦めないだろう。
この辺に落ちたのは確認しているのだろうから。
どうしよう。
どうしたら?
これは賭けだ。
私は迷彩柄のマントを拡げ、這ってフリードの傍まで行き、彼の上に覆いかぶさった。
タイミングを見て竜に合図を送る。
「お願い。奴らを引きつけて」
ドラゴニュートであるジルベールは竜と意志の疎通がある程度出来るが、わたしは竜の言葉がわからない。
だから祈るような気持ちだった。
尾の反動を利用して起き上がった竜は、ヨタヨタと歩きだす。
木の枝や草の葉の間越しに、藪を探っていたゴブリン達がニヤリと口をゆがめ竜のあとをつけて走り出すのが見えた。
私の魔法が届くぎりぎりの距離を見計らって、わずかに身体に残った魔力と急いで森から取り入れた魔素を練って得た力で治癒魔法を竜の怪我をおった翼に向かって飛ばす。
「グェェェッ!」
馬鹿にしたような竜の鳴き声が聞こえた後、いきり立って騒ぎたてるゴブリンの声も遠ざかっていく。
思わず安著のため息が出た。
大丈夫、どうやら竜は私の意図を汲んでくれたようだ。
ある程度までゴブリンを引きつけて私達から遠ざけたのち、怪我が軽減した翼で空へ逃れられるだろう。
「いい子、いい子ね。なんていい子なの、お前は…」
察しのよい自分の騎竜を心のうちで褒めている内に、強烈な魔力酔いと怪我をした足の痛みに耐えられなくなって私は意識を飛ばした。




