「赤の牙団」とフロル・シャアという冒険者
息子に名前を「ユリウス」と名付けた。
もう3歳になる。
自分の子どもながらマヂ天使。
将来、絶対に逆ハー脳のビッチとはつきあわせない。
私は、路銀も溜まったので故郷へ戻る算段をすることにした。
「しかし、変われば変わるものだねぇ」
私の姿を見てネリー(旧居酒屋のおかみさん)がため息をつく。
「ネリーだってノリノリで鍛えてたろうが」
ガスパが肩をすくめる。
「こんな頃があっただなんて・・・詐欺だ」
最後のはダン。意気揚々と野心をもって王都へ出ていた彼だが、けっきょく
身を持ち崩してしまい、ネリーを頼って帰ってきた彼女の恋人だ。
彼が手にしているのは、王都で流行りの歌の楽譜のジャケットだ。
白金の髪の儚げな美少女が哀しげな瞳をしてこちらを見ている絵姿が描かれている。
ネリーの居酒屋で客に請われるまま前世の知っている歌を歌っているうちに、知らない内に世の中に出回っていた楽譜つきの歌集がそれだ。
ジャケットにはハイグリーンの女神の歌集とある。
ハイグリーンは私がユリウスを出産してネリーさんにお世話になった町の名前である。
つまりジャケットに描かれているのは私ことフローラである。
オイコラ
肖 像 権 は ど う な っ て る?
そしてミューズって誰のことだ?石鹸か?石鹸なのか?それは薬用か?
おもわずマスクの下の眉間を揉んでしまった今の私の姿はジャケットの絵姿とは似ても似つかない。
正直やりすぎたかなとは思う。
ユリウスのために栄養バランスに気をつけて生活をしていたら、この身体はまだ成長期途中だったと見えてにょきにょきと伸びた。
加えて歌集のジャケットの絵姿せいで不埒な輩が身のまわりをうろちょろするようになり自衛のために身体を鍛えまくった結果。
立派な男装女子が出来ていましたとさ。
身長はこの世界の男性の平均値近くまで伸びているし、服の下には体型をごまかして防護力をあげるための革で作った鎧みたいな外殻を身につけている。
加えて銀色の顔の上半分を覆うマスクを装着して、厨ニ病感あふれる恰好だ。
パっと見は細マッチョ青年に見えるはずだ。
これらの変装がないとヒョロヒョロに見えて同業者から軽く見られてしまう。
なんてったって今や冒険者パーティの「赤の牙団」の一員なのだから。
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「天然タラシの他国の王子」であるアレキサンダーの生国との戦争は終わったが、かの国との同盟関係が盤石ではないことを周辺国に見抜かれ、国境を接する国からの侵略が活発になって紛争が多発するようになった。
さらに戦地より帰国した兵士が持ち込んだ病によって流行病が蔓延して国が荒れ、ハイグリーンの町のネリーの居酒屋も商売がうまくいかなくなってしまった。
まぁこれってあの糞ったれな恋愛脳の連中のせいだよね。
昔取った杵柄、冒険者に戻ろうとネリーが言い出し、病人が多いんなら薬草採集とか需要あるんじゃね?とかガスパが言い私もサクっと冒険者登録に連れていかれた。
冒険者やるなら魔法も必要じゃね?と勝手に絵姿と歌集を売りさばいていた商人から迷惑料を取り立て、教会にお布施を寄付し「洗礼」という名の秘術を受け魔力操作開花してみればびっくり適性バッチリで現在にいたる。
巷をブイブイ言わせている冒険者グループ「赤の牙団」の魔法剣士フロルというのは私の偽名だ。
読んでてよかったラノベ。好きでよかったサブカルチャー。
「ダンは帰ってくるなり、フロルをネリーの新しい彼氏と勘違いして泣き喚きながら決闘を申し込んでいたもんな。」
「ユリウスが『ママ~』って言いながらフロルに抱きつくのを見た時のダンの顔は面白かったね」
ダンは王都で落ちぶれてネリーを頼ってハイグリーンに帰ってきて、結局は元鞘に落ち着いた。今ではネリーのいい恋人(再)だ。
やっぱり弱っているところを支えてくれる人こそ大事にしなくちゃね。
毎晩お酒を飲むたびに泣いていたけど、今は、彼女がながすのは嬉し泣きの泪だろう。
ネリーは「赤の牙団」の「赤」のいわれである真っ赤なうねるようなタテガミを風にゆらしている。
言い忘れていたけどネリーは獅子の獣人なのだ。伝説級に強い人らしい。
冒険者ギルドで「赤の牙団」復活の話を聞かされたギルマスの呆けた顔が思い出される。
・・・・・・過去に一体何をしたんだろう。
フロル・シャア。「赤の牙団」の私はそう名乗っている。
なんというか赤い星的な名前のあの人のようなマスクを見つけた時、テンションがあがってしまって「こ、これは・・・シャアのマスク!」と片腕を天につきあげてしまい、そこから名前をとった。
名づけ親はネリーだ。
女性の冒険者はそう珍しくはないが、数は少ない。
が、元が貴族の令嬢となるともっと珍しい。
身元や出来たら性別まで隠した方がいいというのが彼女の意見だ。
ネリーがリーダーで、ガスパ、私、ダンがメンバーで、ユリウスはさしずめ天使。
ここ、大事なところだから覚えてね。ユリウスまじ天使。
最近すごく語彙が増えて、舌ったらずながらのおしゃべりが癒されます。
生まれて初めての旅行ということでめちゃくちゃはしゃいでおります。
かわええ。
それともう一人、旅の仲間がいる。
「ユリウス様、暑くなってきましたから上着はじいが預かりましょう」
私の実家、アマゾン家から派遣された「じい」事、家臣のヨーゼフだ。
何とありがたい事に実家では私の行方を捜していてくれたらしい。領地のある辺境から王都へと遡りつつ探していたらしいのだが辿りついた王都で例の歌集のジャケットを見て私だと気が付いて、ハイグリーンまで私を探してやってきた。
「何とおいたわしい。王都の人間は非情で冷酷と聞いておりましたが、あまりにも酷うございます。よござんす。じいがご実家に必ずお送りいたしましょう。向こうに帰ってもお世話させていただきます。ええ王都の薄情な人にはもうお嬢様もユリウス様もおまかせできません。ええ、じいが誠心誠意お仕えいたしましょう」
旅には当然、ユリウスが産まれた時から一緒に暮らしてきて、すっかりわが天使にメロメロなネリー達もついてくることになって「赤の牙団」も一緒だ。
ハイグリーンを離れると報告した時、ギルマスが涙目になっていたのはきっと寂しかったからだよね?
お話の雰囲気が一気に変わります。
サブタイトル「ユリウスまぢ天使」と迷った・・・