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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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サイクロプス戦


自分の声で目が覚めた。


 寝ながら歌っていたらしい。


しかもすっかりフリードに寄りかかって体重を預けていたらしい。

恥かしさに顔に血液が集まるのがわかる。


「…悪い」


「別にいい」


背後にいるので、その表情は伺えないが、フリードはしっかりとたずなを持ってずっと竜を操作していたようだ。


眠ったので魔力不足からくる、気だるさは軽減していた。

私は姿勢を正し、進行方向に注意を向けた。


前方に魔の森が迫ってきている。

魔素の違いはこれだけ離れていても肌に刺すような刺激となって感じられて、気が引き締まったが、何か違和感が感じられる。



目に魔力を纏わせて遠くを見る。

見れば魔の森の中で煙があがっている。


何だろう、魔素がざわついている。



煙の量は煮炊きに使われるような量ではない。


「何かおかしい。魔素が、いえ森がざわついている」


フリードの身体が一瞬強張ったように感じられた。


「飛ばすぞ」


言われて、鞍の取っ手に捕まり、風避けの障壁をはる。

竜はスピードをあげて魔の森上空につっこんだ。


見れば、王子一行の位置は私達が食糧の増援を求めるために出発した位置からそう遠くに移動していない。

 おそらくパンがダメになったので、兵糧の煮炊きに時間がかかるようになって

移動の距離が稼げなくなったのであろう。


 王子一行とは別に、森の中を何かが動いている。


 「巨人だ」


 背後のフリードが息をのむのが分かった。

 サイクロプスと呼ばれる一つ目の巨人が、スリングと呼ばれる投石紐を振り回している。

 巨体から振り回されるその武器で、魔の森の木は倒れ、裂け、地面は陥没して土煙があがるのが見える。


 しかもそれが何体かいる。



 この相手にさすがに剣では立ち向かえない。

 騎士団の方では、ワンコ魔術師のクリストフを筆頭に魔法による攻撃と障壁による守備の布陣をとっている。

 弓矢をもつ者は弓矢で応戦しているが、小さすぎてサイクロプスには効かないようだ。


 剣や盾のみの装備の騎士達は唸りを上げる石の犠牲にならないように森の中を息をひそめて隠れている。


 やっかいな相手に出くわした。サイクロプスはそう個体数が多くはないが、出くわしたら最後、普通の人は逃げだすしかない。

 厄災級の魔物なのだ。


 冒険者達は、魔法や投げ槍や強化した魔物用の弓矢でがんばって戦っている。

 身体能力のすぐれた獣人のチーム「ケモミズ」はなんと、その速力で、サイクロプスの動きを制し、直接剣などでダメージを与えているようだ。


「今だよ!オニイサン!」


 ターメリックが、サイクロプスを引きつけている間に騎士の一人が、死角からサイクロプスの足を斬りつけた。


 あれは熱血剣士のジェイ・パットンであるようだ。

 腕の怪我も殆どもうよさそうだ。


 彼が剣を振りぬいた後、サイクロプスがどう、と倒れた。

 足をつぶしたらしい。

 倒れたサイクロプスめがけ、「ラフポーチャ」メンバーと他の「ケモミズ」のメンバーが止めを刺そうと飛びかかる。


 「煌駆のジン」は私の魔法を覚えたらしい。

 ブラックユニコーンにまたがりながら、雷の魔法で援護にまわっている。

 彼のおかげで大した被害にまだなっていないようだ。


 そして信じられない事に「筋肉の饗宴」メンバーはサイクロプス相手に肉弾戦を繰り広げていた。

 左右の足を数人がかりで抑え込み、一人が背中から首のあたりに剣で斬りつけていた。


 「赤の牙団」と「カルロスミスと愉快な仲間達」も共闘しているようで、上空でジルベールとダンがサイクロプスの気をひき、その間に魔法攻撃とネリー達の剣で徐々にダメージを与えていっている。


 彼らが相手をしている個体は明らかに、怪我による衰弱で動きが鈍ってきていた。


 まだ、誰も相手をしていない元気なサイクロプスが振り回しているスリングが危ない。 

 地上にいる者に当たれば、大けがではすまないだろうし、上空で戦っているものに当たれば間違いなく死んでしまう。


 私は仲間達に当たらない様に、細心の注意を払って、魔法を放った。


 「フロル!」


 上空で、全体を見ていたジンが私に気が付いた。


 「良い所に戻ってくれた!」


 ジンもスリングをどうしにかしたいようだが、支援の手が離せず、ジリジリと焦っていたらしい。

 


 「フロル!スリングを何とかしてくれ。俺は支援と牽制で手が離せない!」


 どのサイクロプスのスリングから無効化していこうか。

 優先順位をつけるために周囲を見回しているとフリードが叫んだ。



 「くそっ!王子!ララリィ!」


 フリードの声に、目をむければ、一体のサイクロプスが逃げる二人を追いかけている。


 「くそっ!警護のものはどうした!!」


 いきり立つフリード。

 私は彼の手からたずなを取り戻した。


 「まずはあいつのスリングを使えないようにする。そのあと、足元を攻撃して足止めする」


 まっすぐ飛ばすならフリードでも出来たが、こういう乱戦気味の戦場での竜の操作の仕方をフリードは知らない。


 「騎竜で気をひいて、その隙にスリングの紐を切りはなす!」


 上空のジルベールに合図を送り、私は真正面からサイクロプスに向かってつっこむ。


 案の定、奴は標的を私達に替えスリングをふりまわしはじめた。


 サイクロプスの手からスリングが離れ、先端の石部分が私達に向かって投げつけられる。

 障壁をはりながら、私は石を砕くための魔法の詠唱をはじめた。


 そこへジルベールが横合いから飛び出し、伸びきった紐を剣で斬った。


 間一髪、魔法は発動し石は砕けたが、飛んできた石の威力はすさまじく、破片となっても障壁にぶちあたる。



 「くっ!」


 その衝撃で竜がバランスを崩した。


 「ギュッキュェェェ!」


 悲鳴をあげたので見れば、防ぎきれなかった石の破片が竜の翼の一部にぶち当たっていた。


 竜は姿勢をくずし、鞍に乗っていただけのフリードが宙に投げだされた。


 「だめっ」


 私はとっさに彼の腕をつかんだ。



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