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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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対決ーすれ違うふたりー 5

結局、胸の内で鳴った警笛の意味が、何なのかわからず。

その事をつきつめて考えようとすると、思考に霧がかかったようになってぼぅっとするのだ。



頭をすっきりさせるために、空いた時間に鍛錬をはじめた。

 アマゾン領からやってきた助っ人の中には王都では見たこともないような獣人や竜人も多く、彼らの身体能力は素晴らしい。

 彼らの訓練に参加させてもらう事にした。


 フローラは一日中忙しそうにしている。

 よくは分からないが、集めた食糧を半調理してふりーずどらい化するらしい。


 魔力を限界まで使うらしく、よくふらふらになっている。


 そんな彼女に騎竜のたずなを任せられず、訓練で知り合ったドラゴニュートの一人を捕まえて、騎竜の操作を教えてもらう。

 別に彼女を労わるつもりの行動ではない。

 いくら彼女が女に見えない恰好をしているとはいえ、女の腰にしがみつくなどと情けないと思ったからだ。


 それに竜の操作を覚えておけば、行動がぐんと広がる。

 障害物の少ない空を飛ぶ事によって得られる機動力と迅速力は魅力だ。


 小型の騎竜は冒険者のものとして、騎士隊では重要視されていなかったが、乗ってみればその小回りよい使い勝手のよさにも気づく。気性が荒いのが難点だが時と使い処を選べば、大きな力になるだろう。



 レーフェン殿もよくアマゾン領軍の鍛錬に参加しているようだ。

 多忙な彼のどこにそんなバイタリティがあるのかわからないが、俺を相手にした訓練とやらをよく挑まれる。


 俺は剣でもレーフェン殿に勝った事はないが、無手の彼も充分脅威だ。


 そういえば、一見優男に見える彼女が、筋肉の塊のような大男を投げ飛ばしたらしいという話を聞いた事がある。眉唾だと俺含め誰もが相手が勝手に転んだのだろうと笑っていたが、この兄を見ていると案外そうでもないのかもしれない。


 まったくあの兄妹は何を目指しているというのか。


 レーフェン殿が訓練と称して俺を相手にするのは、大部分が私怨がまじっている事からだと思う。


 何しろ可愛い妹の、俺は敵なのだ。

 誰だって、家族を不幸にした男など許せるはずもない。


 だが、そもそもその大事な妹に男を見る目を育てさせなかったのが悪い。

 俺のような男も女も、巷にはありふれている。

 男も女も純粋なだけじゃ貴族社会でやっていけない。

 強かなぐらいでなきゃだめなんだ。


 いや違う、そうじゃない。彼女は寂しがりだった。俺と同じで。

 養家ではよくしてくれるけれど、何故自分だけ養子に出されたのかと気にしていた。


 寂しさをかかえた、似たもの同士で惹かれていた。




 ニタモノドウシ


 突然思考に別の映像が割り込んでくる。



 ピンクの髪色の女の子。



 …ホントウノワタシヲダレモミテクレナイ


 …サミシイ

 …サミシイ


 …ワタシガコウナノハワタシノセイジャナイノ


 …コノカミヲミテ、アノヒトハワタシヲタタイタノ

 …アノオンナトオナジカミイロ

 …オナジイロダッテ


 …アナタモオナジ


 …ダレモアナタノヒョウメンダケシカミテイナイ


 …カミノイロトカヨウシデハンダンスル


 …リカイシテ

 …リカイシテホシイ


 …ダレトダレノコドモデドコノイエノチスジダトカノマエニ


 …ワタシハワタシ

 …アナタハアナタ


 …カメンノシタノナミダニキガツイテホシイ


   …ホントウノ

           ワタシヲ

           オレヲ

                    ミテ




 「!」


 記憶がシャッフルする。

 思考がかき乱され頭のなかが何かでいっぱいになる。


 そして次の瞬間


 俺は何を考えていたのかわからなくなってしまった。



 そうだ、…あの兄妹はとにかく強い。

 そもそも貴族の令嬢が魔法を使って戦闘をこなすなどと聞いた事もない。

 令嬢というのは、花と一緒でそこで咲いているだけで愛でられ、愛されるものなのだ。


 男は、彼女達を守るために騎士となり、国に身をささげ、やがて自分だけの「守るべき人」を見出す。

 だから、強さを身に着けた女を貴族の男は敬遠する。

 強かさと物理的な強さは違うのだ。


 令嬢には雨風に抗える強かさは求められるが、襲ってくる捕食者を返り討ちにすることは求められていない。それは男の、騎士の仕事なのだ。


 男の魔法使いを「魔術師」と呼ぶのに対して女は「魔女」と畏怖と恐れをもって呼ばれる。

 女騎士は嫁き遅れと同意語だし女の冒険者など野蛮人扱いだ。


 そんな野蛮人と呼ばれかれない「冒険者」になっているだなんて。


 そんなに俺の庇護の下に入るのが嫌だったのか。

 所詮、俺を理解できないということか。


 その点、ララリィは俺のことを信じてくれている。

 本当の俺がどんな人間なのかもわかってくれている。



 違う、いやララリィの事は本当だが、そうじゃない。


 何か違う事を考えていた気がする。


 なんだ?なんだったんだ?



 女冒険者、そう女冒険者だ。

 今回、少し冒険者というものを見直した。


 騎士をしている時は、城下で厄介ごとを起こす冒険者ばかりを見てきたので、 そんな連中ばかりだと思っていたが、今回一緒に行動してみて、俺とそう年も違わない奴らも多いし、さすが高ランクの者は違う。


 そしてその高ランクにフローラが居る事が何だかモヤっとする。

 たしかにその戦いっぷりは見ていて胸がすくし頼もしい。

 だけど貴族令嬢なんだからもう少し違う…。


 違う…違う…なんだ?

 俺はどうしてしまったんだ?

 彼女を見るたびにモヤモヤしたりイライラしたり。


 頭がすっきりしない、風邪でもひいたのか?


 体調は別に悪くない。


 俺はこんなに「考える事」が苦手だったか?



 さっきは何を考えていた?

 

 そうだ、女冒険者でしかも魔法も使えるフローラは強い。

 だが、俺だってそこそこは強い。

 レーフェン殿にはまだかなわないが。

 だからもっと彼女は俺をアテにしても…


 

 違う、俺はそういう事じゃない事を考えていたはずだ。





 再び頭の中に靄が割り込んでくる。

 そしてそれはピンク色の髪をした少女の姿になった。






 …コワイ

 …コワイノ

 …ワタシヲマモッテ




 そうだ俺は騎士だ。

 守らなくてはいけない。



 彼女ララリィ


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