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モブの恋  作者: 相川イナホ
ヘルドラ遺跡にむけて
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ポンコツ


 竜は一直線に、兄のいるソルドレイン領主館へと飛ぶ。

 出発してそう日数も立っていない内の私達の帰還を兄は事前に知っていたようだ。

 出迎えに出た兄とニコルがアイコンタクトをしていたので、例のお知らせの魔法を使ったのだろう。

 ニコルは本当に多彩な魔法を使う。


 「ニコルからの知らせで、今かき集められるだけの食糧はかき集めたのだが…」


 出迎えた兄と王子の代わりに使者に立ったフリードは、挨拶する間も惜しんで情報と状態を交換し合う。


 兄曰く、ある程度のパンは用意できたが大半は小麦のままだ。

 これから練って焼いて、水気をとばさなければならない。

 場合によっては粉にするところから始めなければならない。


 「魔の森の手前まで部隊を動かし、そこで仕上げをしてから届けるという方法もある」


 小麦粉の状態で「魔の森」近くまで運び入れ、そこで食べられる形にしてから届ける。

 以前アマゾン領で使用していた炊き出し用の道具を設置すれば、ソルドレイン間を往復するより時間は節約できるだろう。

 問題は天気だが。


 「痛みが心配なものは僕が」


 ニコルはここで魔の森の戦利品を放出し、代わりに食糧をつめていくようだ。



 フリードは鎧の隠しから、王家の紋章の押された封書を出して兄に渡した。


 「殿下からの援助要請の手紙です。これを早馬にして王都へ出してほしい」


 あらたな食糧の支援の依頼と、立て替えているわが兄への支払いの依頼をしてくれるようだ。


 「配慮いたみいる。すぐに早馬を仕立てさせよう」


 これらが持ち出しであったなら、我が領はとたんに経済的に窮地に立たされる事になる。

 うっかり忘れ去られていないだろうかと内心ヒヤヒヤしていたのだが、さすがにそこまで考え足らずじゃなかったようだ。


 「遠征品の、特に食糧は乾燥しすぎるくらいが常識なのに」


 思わず、非難めいた言葉を吐いてしまった担当官に兄も苦笑気味だ。


 「兵糧を扱う店ではなくて、王都で評判の店に用意させたのが仇となった。我々のチェック不足だ。迷惑と手間をかけて申し訳ない」


 その言葉に、側妃のライオネル殿下の母君を思い浮かべる。

 彼女ならそういった口出しをしそうだ。


 「兵糧の作成について、注文や指導はされなかったのですか?」


 「兵糧を扱う専門のものを派遣したのだが、まぁそういう事だ」


 兵糧品を扱う店にもプライドがある。通りいっぺんは教えたのだろうが、店ごとの秘伝までは教えなかったのであろう。

 それに王都で評判の店のパンと言うからには、卵や砂糖やバターなどをふんだんに使ったものだろうと推察できる。


 それだけ栄養価が高いと菌も繁殖しやすいだろう。


 我が子《ライオネル王子》に美味しい物を食べさせたくて、我が子を支える兵団にもこれだけ美味しい物を用意できるのだと威力を振いたくて、結果的にはカビさせてしまう事になったのだ。


 戦や遠征を知らない者が下手に口を出した典型的な失敗例と言えるのではないだろうか。


 フリードは精力的に現場担当者と会い、兄に許可をとりつけると、必要な書類をしたためて、役割を割り振って命令を下していく。

 派手な見た目ばかりが目につくが、私と離れていたこの何年かで、しっかりと学ぶべき事は学んだのであろう、そこには一人前になり仕事を采配する頼もしげな姿があった。


 「とりあえず、ギルドの君、その背負子に入った分を持っていってくれないか。王子はともかく、未来の王子妃殿下は不安だろうしな」


 いやいや、そこは冒険者たちが不審を覚えて暴れないように気遣うところでしょう。


 統率された騎士達と違い、普段自分達で自分達の行動を決めている冒険者達が、命綱である食糧を握られたままで、居心地が悪く、騎士達が優遇され、自分達は冷遇されるんじゃないかと不安に思っていることは明らかだ。

 殿下もフリードも、ララリィの事になるとたんにポンコツだ。

 少し見直したのに。


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