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美しき丘陵の先、ポオルグリコへ

  9


 森をぬけると、草原の広がるなだらかな丘陵があった。

 シロツメグサのようなちいさな植物がどこまでも広がっている。

 高い樹木はなく、空が広い。

 緑の中のところどころに、青い花や、黄色い花が咲いている。少ないが、赤い花もあった。

 馬車が道を進む音のなかで、空の色が橙にかわる。

 太陽は地平線のわずか上にあり、馬車を引く馬の影が急速に広がっていた。


 このミイスの国の出身であるリシスの語るところによれば、この平原は人工的に保たれているものであるのだそうだ。

 本来、この土地は雨が多く気温差もさほど激しいものではない温帯的な気候の豊かな土地だそうだ。

 だから遠い昔にはこの平原にも鬱蒼とした森があった。

 森にはおまえを襲った一角狼のような、強い力を持つ魔物が住み着くものであるそうで、昔々の人々はこの平原に降る雨を魔法の力で抑制し、弱った木々を開墾した。

 そして、このような美しい丘陵の平原を作った。

 それがいまも保たれている。

 なるほど、とおまえはこの世界にあのような魔物が他にいて、天候さえも操る魔法の力があると教えられ、戸惑いもせず、そうだろうねと納得した。


 道の先を、緑の体色を持つ、ちいさな動物の群れが横切っていた。

 リシスが言うにはあれも魔物であるらしい。

 よくみると兎に似ている。

 集団で生活し、魔力のある植物を餌にしているそうだ。

 とても臆病で、あまり人前にはあらわれない。

 彼らの移動する姿はまるで草原が移動しているようにみえるから、草原兎と呼ばれている、とリシスが説明してくれた。


 馬車の乗り心地は悪い。

 揺れがひどいのだ。

 尻の皮がごわごわした生地のズボンに擦れて、痛い。

 しかしおまえはその痛みが心地よかった。

 蒼狼の角を回収し、森を抜ける途中で、熟したマトラの実を馬車に詰め込む作業をしている時、久々に痛みのない状態にあった。

 それはとても懐かしく、ああこんなかんじだったなと、違和感があった。

 そして馬車に乗って、尻に痛みを感じて、ああ、ボクは生きているんだなと、そうおまえはおもった。


「日が暮れるまえに、王都に着きたいから、ちょっと急ぐよ」

 レントンはそう言って、馬の尻を叩いた。

 馬車の揺れはさらにひどくなる。


「半時もすれば王都だ。どうせ泊まるところも金もないんだろう?」


「そうだね」


「なら今夜はオレの部屋に泊まるといいさ。ベッドはひとつしかないから、床だけどな。それでもウルフの巣よりはマシだろ?」


「助かるよ」


「いいさ。気分がいいんだ。こんなに大猟なのはひさびさだぜ」


 丘陵の向こうに、大きな街が見えた。

 街は山に囲まれていて、中央に、一際大きい、城のようなものがある。その周囲を、山の際まで、家屋のようなものでびっしりと埋まっている。

 

「あの真ん中にあるのがミウス王の住まう、ポオルグリコの城だよ。すげー城だろ?」


 リシスは自慢げに言った。


「ああ、おどろいたよ。とても、良い城だとおもう。きっとこの国の技術の粋を凝らして建てられたんだろうね」


 おまえはリシスの欲しがっているであろう返答をした。


「そうだろ? おまえ、なかなかみるめがあるじゃねえか。よし、おごりだ。今夜、酒場でぱーっとやろうな!」


 リシスはとてもうれしそうにしっぽをゆらした。


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