狩るモノ、狩られる者
6
状況は悪い。
チュッパチャップスの示す方向へと歩いていたおまえは一本の角を持つ青色の狼に遭遇した。
その数は五匹であった。
五匹の一角狼は釣り上げた口角からよだれを垂れ流し、うう、うう、と唸り上げながら、じりじりと間合いを寄せてきた。
食われる。
おまえの本能が恐怖した。
恐ろしかった。
じぶんが捕食される可能性なんて、いままでかんがえたこともなかったのだ。
おまえはおまえの本能の命じるままに逃げた。
息が切れる。
べっとりとしたイヤな汗が、背中や首から分泌している。
足場が悪い。
石や、罠のように地中から浮いた樹の根っこに足を取られて、なんども転びそうになる。
一角狼の足音が聞こえる。
追ってきている。
こわいくわれるころされる、おまえはぶつぶつとつぶやきながらそれでも逃げた。
しかしおまえは足を止めざるを得なかった。
おまえの行く先を、おびただしい数の狼が塞いでいた。
「ああ、あ」
くちから音が漏れた。
一角狼は狡猾だった。
おまえは獲物だったのだ。
これは狩りだった。
おまえは罠にかけられた。
そうだ、そもそも人間の足で、狼から逃げることなどできるはずがない。
ようやくおまえはそのことに気付いて、じぶんを責める。
「……くそがあああ!!!!!」
おまえは叫んだ。
ぶるぶると震える手で、鞘から刀を抜こうとした。
それに気付いて、ひときわ大きな体躯を持つ鋭い眼の狼がおどりかかった。
おまえの顔をめがけて角を突き出した。
脳みそが沸騰するような、強大な怒りがわいた。
こいつらはおれを食おうとしている、そう思うと許せなかった。
おまえは怒りに身を任せ、恐怖が沈んでいくのを感じる。
もはやおまえは冷静だった。
さきほどのチュッパチャップスの木を切った動作、その動作を、放った。
閃光を纏った抜刀は、一角狼を首をはねた。
血を吹きちらしながら、首が舞った。
地面に落ちた身体はぴくぴくとうごめいている。
「ふうぅぅぅ」
おまえは息を吸って、吐くと同時に、仲間の死に動揺して足踏みをしていた狼を、襲った。
上段から、頭頂に振る、と同時に電撃のような痛みを感じた。
痛みを辿ると左の足に狼が噛み付いていた。
おまえは反射的に足を振るうが、離れない。
軽く、刀を振って胴を両断するが、別の狼がおまえの左腕に噛み付く、その狼の眼をめがけて、柄頭を叩き込む。
眼球の潰れる音がして、脳みそをえぐる、ぬちょっとした感触が手に残った。
あたまを潰された狼の、その頑強な顎は、反射を起こしたのだろう、おまえの左うでから離れようとしない。
おまえは右手に強く力を入れて狼の脳みそをかき回した。もうほとんど死んでいる狼がうめき、落ちていった。
戦闘は膠着していた。
おまえはおまえを囲む狼たちを睥睨する。
一角狼たちはときにうめき、威嚇するように叫ぶ。
しかし襲いかかろうとする個体はいない。
ふと、足やうでの痛みが消えていることに気付いて、傷を足を動かした。
なんら異常がないかのように足は動いた。
そういえば、超回復能力だかをくれた幼女がいた。
おまえはそのことをおもいだして、口角をつりあげた。
「殺す」
殺してやる。
じぶんを捕食しようとした者たちへの怒りを発して、おまえは言った。
駆け出す。
目についた狼へ、後ずさったその狼の眉間へ、切っ先を突入れ、そばにいた別の狼の尻へ、刃を走らせる。
おまえの攻撃の隙をついて、身体に噛み付いてくる狼を、嬲る、なぶりつづける。
しかし、数が多すぎた。
刀を握る手に噛み付かれ、思わず取り落としてしまう。そこにそれまで、様子を伺っていた一角狼たちが襲ってくる。
足をかまれ、胴体をかまれ、首をかまれた。
おまえは自分の血しぶきを見た。