童景
視界が黄色く、霞んで見えた。
高く昇った太陽が眩しすぎて僅かに眉を寄せた。
ここまで暑いと、少し苛立ちを覚える。
「一将。」
鈴のような可愛らしい声に振り返ると、ワンピースを着た少女が目に映った。
少女はその両手に、大きな向日葵のブーケを抱えていた。
俺はその女の子を知っている気がした。
「由利。」
名前は知らない。知らない筈なのに、無意識に口からその名前が出た。
少女は返事をしなかった。代わりににこっと笑って、俺の方へと歩み寄る。
歩いた衝撃に耐えられずに、向日葵の首が一つ落ちた。俺は落ちる向日葵を目で追っていた。
「行こ、一将。」
由利が、左手を俺に向かって差し出した。
繋いで一緒に行こうということか。
片手に納められた向日葵が、苦しそうに密着していた。
俺は少しも躊躇わずに、右手で由利の手を握っていた。
何だかおかしな感じだった。普段の俺なら、往来で美雪と手を繋ぐことでさえ躊躇ってしまいそうなのに。
由利の手は細くて、力を込めたらすぐに折れてしまいそうだった。
その細い手が俺の手を握り返して、俺の手を引いていた。
その時の俺はただ引かれるまま、全てを由利に任せていた。
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というところで 目が覚めた。
いや、目覚まし時計によって起こされた。