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一将
道路沿いに並ぶ木々が風に揺られ、
その葉の集まりに烏が飛び込んだ。
辺りは余りに静寂で茫然と立ち尽くしていると
夕日に照らされた美雪が、振り返って笑った。
「一将くん、またね」
気がついた頃には美雪はバスに乗り込んでいる頃だった。
「あ、じゃあまた明日」
急いで声をかけた頃にはもう遅く、
美雪を飲み込んだバスはゆっくりと動き出して行った。
俺はバスが小さくなるまで見ていた。
そうしているうちに、やっと道路に車や人が居ることに気付いた。
美雪を見送って、チャリに乗って自宅のマンションへ帰り、母親にただいまを言う。
母親は奥の部屋から顔を出し、疲れたような目でお帰りと言った。そして夕飯置いてある、と付け足すとまた奥の部屋へ引っ込んでいった。
俺は何も言わずに自室へ戻るとベッドに横になった。
誰しもそうかもしれないが、こうして横になっている時間が最も心の安らぐ時間の一つだった。
別に今日、何か特別嫌な出来事があったわけでもなかった。けれどこれは習慣になっていた。
ぼんやりと部屋の天井を見つめながら、一人脱力するようにため息をついた。