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第九十六話「偉い人の話はだいたい長い」

「ーーーーーーーであるからして、諸君らには学生としての責任を果たして欲しいわけである、私も学生の頃はーーーーーーーー」


もはや、八回目に突入する同じ内容のスピーチ。

無限ループって怖くね?


私は今日、晴れてミスカミトミニック学園に入学する。

今は演説会が行なわれる学園大ホールにて入学式の真っ最中だ。

目の前で演説しているのは理事長のおっさんだ。

何とかだか言う貴族らしい、ちなみに校長は別に居る。

校長の話しは『いろいろあると思うけど、頑張って』見たいな事を言われて一瞬で終わった、多分理事長の話が長いのがわかってるからだと思う。


私はと言うと。

一、二回、居眠りをしつつ学園生活に想いを馳せていた。

まぁ、二回も居眠りしたのにさっきと話が変わっていないので時間が進んでるかすら怪しくなってきたし、もう眠くも無いが。


学園生活に想いを馳せる、と言っても。

絶対、図書室にネクロノミコンかナコト写本があるな。

程度の想いだったけど。


ちなみにこの学園。

学習棟、研究棟、寮、大図書館と大ホールの四つの建物が四角形の頂点の位置に建てられ。

学園の中央には、レベルとしては最下級の訓練用ダンジョンを抱えている。


街の名前に学園の名前から、研究棟と大図書館の禁書保管棚付近には絶対に近づかない事を胸に誓った私である。



「…………以上、理事長のお言葉でした、ありがとうございました」

「え? ワシまだ喋り足りないけど?」

「ありがとうございました」


やっと理事長の話が終わったようだ。

いや、終わらせた、の方が正しいけど。


司会と思われる先生が、拡声の魔法だろうか、対して声を張り上げるわけでもないのに、ホールに響く声で式を続ける。


「では、これにて歓迎式を終わります。各生徒の教室の案内を……おっと」


そこで司会の教師が何かを思い出した様に言葉を切った。


「今から名前を呼ぶ生徒は担当教師の指示に従って移動してください」


そう言うと、エルフ族だろうイケメンの教師が羊皮紙を持って立ち上がった。

特別な奴がいるのか、もしくは問題児か。

私が誰が呼ばれるのか、見渡せる範囲で視線を動かした。


「では……『ミーシャ・Rラダッド・ライヒ』!」


「……ふぁっ!?」


やっべっ!

口から出ちゃった!

慌てて口を抑えるも、手遅れ。

周りの視線が痛い。

悪い事をした覚えは無いので特別なヤツ扱いか?

いや、大和帝国元首なのは極秘だ。

ナナル王国から圧力が掛ってるのを知ってるのは理事長と校長のみ。

それすら詳しく事は極力伏せ、学園に入学させるだけの内容だ。


理事長を見ると、唖然とした顔をしている。

国から圧力が掛かる様な少女をぞんざいに扱えば自分の首がヤバイのだから。


校長を見る。

彼は長い白髭を撫でつけ、さもありなん、と表情が語っていた。


「あ、返事をして起立してください。次、『ゴーマー・パイル』」

「は、はいっ!」


どうやら、私だけでは無い様だ。

ちょっと安心。

私は椅子から立ち上がり、呼ばれるメンバーを確認する。


さっき呼ばれた、ゴーマー・パイルは男の子だ。

名前がまんま『微笑みデブ』なんだが大丈夫だろうか。

あと、服のポケットから歯型の付いた食べ掛けのドーナツ(みたいなお菓子)が見えてる。


次に呼ばれた、アイシー・ルード・フィーリアは女の子だ。

銀髪をショートボブにして、活発そうな感じがする。

あれで剣やなんかを持ってたらまだ様になるんだが、腰に差してるのは飾り気の無い木製の杖だった。


次はジャック・デイヴィス、男の子。

見た目は特徴が無いのが特徴のような少年だった。

メガネでも掛けてればまだ特徴になるのに、それすらないから特徴が無い。

ちょっと目を離したら認識出来ないくらいに特徴が無い。

髪の色はくすんだ茶髪だが、それすらこの世界では無個性だ。


「……以上、四名は私について来てください」


私達は出口に向かう教師の後に続く。


「……ごほんっ! では、Oオー組が退場した所で、特別クラスであるGジー組の発表を……」


退場する私達の後ろからそんな声が聞こえてきていた。




******




大ホールを後にした私達は教室に向かっている。

……はずだよね?

なんで地下に降りるんですかねぇ?


私達は石造りの冷たい階段を降りて行く。

壁には松明が立てられ申し訳程度の灯りを供給していた。


「……着いた。ここ……だね……」


先生は手元の学園地図を見ながら目の前の扉……。

てか、完全に牢獄じゃねーか!!

扉でもなんでもねーよ、こんなん!

だって鉄格子だもの!

だって教室じゃないもの!

中に机すらないもの!


「な、なにかの手違いかな? ちょっと学園長の所に……」


そうだよ!

絶対に手違いだから!

もしくはアンタが絶望的に方向音痴かだから!


「……その必要はありません」


すると、私の後ろから声が聞こえた。

たしか、アイシーちゃんだったか?


「私達はO組です。この程度、教室があるだけでも破格の条件では?」

「…………」


先生は悲しそうな表情でうつむいた。

いや、だからO組ってなんなのさ!!

俺、何も悪い事してないよね?


「……皆はここで待っててください。学園長、いや、理事長に掛け合ってみます!!」


先生はそう言って階段を駆け上がって行った。

先生ェ……名前、何だっけ?

私は今更な事を考えていた。




******




ミスカミトミニック学園、校長室。


「学園長! 一体どういう事ですか!! 彼女をO組になど!」


そこには学園長に詰め寄る、理事長が居た。


「……至極当然でしょう。彼女の魔術特性はほぼ無い。しかも、入試も散々だったと聞く。今、教頭が答案を持って来ます。まぁ、あの場でO組と知れ渡った以上、他のクラスへ編入は不可能でしょうな」


学園長はそう言って紅茶を啜った。


すると入り口のドアが勢い良く開け放たれる。


「学園長! ご相……談……が?」


勢い良く入室したウィルダーだった。

しかし、目の前の状況に言葉は尻すぼみになる。


「き、君は……か、彼女はどうした!?」

「彼女?」


現時点で担任になっているウィルダーに詰め寄る理事長。


「何事ですかな?」


すると、開け放たれた扉から数枚の紙を持って教頭が入ってくる。


「き、教頭?」

「ん? ウィルダー先生?」


教頭は理事長に詰め寄られるウィルダーに気付いたが、さして気にする様子も無く、手元の答案を学園長に手渡した。


「君も大変だねぇ。ミーシャ……だったかな? なんとか入学出来たようだが、この回答……くくっ、とんだキチガイの担当になったものだ」


教頭は薄く笑いながらウィルダーに告げる。


「こんな、ワケの分からない方程式や理論、まったく理解に苦しむ」

「……あぁ、全く理解に苦しむな」


すると教頭の後ろから学園長が声をあげた。


「学園長もそう思われますか? ……だいたい……」

「私が理解に苦しむのはこの回答を見て何も感じない教師にだよ、教師」

「ひょっ?」


学園長の言葉に教師も理事長もウィルダーも唖然とするばかりだ。


「……これは、とんでもない化け物を抱え込んでしまったか……」


学園長はそう呟くと早足に部屋を出て行ってしまった。

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