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第九十一話「ヤツが来る!」



「落ちたぁっ!!?」


 指示や後の処理に追われていたミーシャは部下からの報告に椅子から飛び上がった。

 積まれた書類が崩れ、コーヒーがこぼれるがそれどころではない。


「見張りの兵が見ています、間違いないかと」


 それを聞いたミーシャは椅子に崩れ落ちた。


「……状況は?」


 ミーシャは頭を抱えて呟いた。

 今、ナターシャに死なれたりしたら大変な事になる。

 対ガゼル、対ナナル、どちらもやりにくくなるのは目に見えている。


「は! 上陸部隊からの情報ですと、避難誘導に向かった一個小隊の移動ルート付近に落下。早急に救助指示を出す、との事です」


「とにかく急がせろ。こちらからもなにか救援を……」


 ミーシャの脳裏に一つの選択肢が浮上する。


「アレを使えば……だけど、乗り手が……でも、アイツしか……」


「閣下……事態は……」


「……わかってる、ビリーを」


 ミーシャは机を睨みつけながら命令を出した。


「ビリー・キルゴス中佐を呼べ! 出撃だ!」




******




 ナターシャは目の前で頭部が消し飛んだ反乱兵を見て、そして吹き飛ばした元凶をみて固まっていた。

 体長二メートルを超え、三メートルに届くかという筋肉の塊に包まれた巨体、緑色の肌。

 紛う事なき、オーガ。

 普通の人間ならショックのあまり気絶していただろう、豪傑ですらこの距離と状況なら悲鳴くらいあげる。

 若い女性ならショック死しても可笑しく無い状況。

 しかし、ナターシャは落ち着いていた。

 なぜなら、そのオーガは彼女の見知った服装をしていたのだから。


「……(ぽりぽり)」


 そのオーガはナターシャを見て困ったように頬を掻くと、後ろを振り返った。


「隊長、生存者ヲ確認! 怪我人ガ一名!」

「よくやったガストン伍長! 大丈夫か!?」

「……あ、い、妹が!!」


 しばし、呆然としてしまったナターシャだがすぐに思い出す。

 ジャンヌは瓦礫に足を挟まれていたが足はつぶれているわけではない。


「……うぅ」

「落ち着け、見せてみろ。……左足を骨折しているな……あとは、打ち身。墜落したにしては奇跡的軽症だ。とても運がいいらしい。だが、早くちゃんとした処置をしないと」


 言いながらサニーはその辺にあった折れた木材を添え木にしてシーツで固定する。


「ガストン伍長、このお嬢さんを抱えろ。ポーキー伍長、裏口に向かう。状況は?」

「入ってくるときに始末した四人の他にまだ居るはずですが、あたりに気配はありません」

「よし、ポーキー伍長は後ろを警戒しろ。私が先行する。歩けるか?」

「だ、大丈夫です」


 そのとき、裏口の方から発砲音と悲鳴が聞こえてきた。


「残りはあっちに行ったのか」

「変更は無い、私たちも裏口に回る。後ろからやつらを無力化するぞ」

「アイサー!」


 サニー達は移動を開始する。

 目指すは裏口、クリアリング(安全確保)しつつ進む。


「ハァハァ……あっ!?」

「……っ!」


 ダダダダダッ!


「あぐぁっ!!?」


 途中、裏口から逃げてきたであろう敵兵と遭遇するもサニーの一〇〇式機関短銃の銃撃であっさりと絶命した。

 サニーは倒れた敵兵が死亡しているのを横目で確認しつつ屋外への扉をくぐった。

 そこには銃弾に貫かれた複数の兵士が横たわっていた。


「隊長! こちらです!」


 物陰で待機していたバードマンが手を振る。

 サニー達はバードマン達の元へと走った。


「リーフ伍長! 負傷者だ! 応急処置はしたが詳しく診てやってくれ」

「了解」


 サニーの言葉に衛生兵であるリーフがジャンヌに駆け寄る。


「隊長! 本隊から無線連絡! 『墜落した小型機の搭乗者二名を保護せよ! 本部より救援を送る、広い場所まで移動せよ』です!」

「わかった! ドイチェ、いい場所はあるか?」

「ここから二件隣が空き地だ!」

「移動するぞ! リーフできるか?」

「問題ない、でも出来るだけ振動やショックは与えない方がいい」

「よし、周囲を警戒しつつ移動!」


 サニーが号令を出したそのとき、先ほど出てきた家屋の壁が吹き飛んだ。


「何だ!?」


 小隊全員が武器を構え振り返る。

 そこにはガストンより少し大きな”石の兵士”が佇んでいた。


「魔道兵だ! ゴーレムを使ってるぞ!!」


 ドイチェが叫ぶ。

 ゴーレムは手近にあった大きな瓦礫を掴み投げつけてくる。


「っ! 隠れろ!!」


 サニー達はとっさに物陰に身を隠した。

 動きが遅いナターシャと動けないジャンヌもガストンとリーフが抱えて逃げ込む。

 その間にもゴーレムは次々と瓦礫を投げつけて来る。


「どうにかできないのか!?」

「火力が足りない! 小銃や機関短銃じゃ足止めにもならない!」

「隊長! 手榴弾は!?」

「だめだ! 吹き飛ばしても術者が居る限りは手足を吹っ飛ばした位じゃすぐに再生する!」

「術者の居場所は!?」

「こっちを見れる場所に居るのは確かだが……くそ! 瓦礫が邪魔で場所が特定できない!」


 時々あたる至近弾に身を竦ませながら、ゴーレムを撃退する案を考えるサニー達。


「……足止めくらいにはなるか!? 手榴弾!!」


 サニーは物陰から身を乗り出しゴーレムに向かって九七式手榴弾を投げつける。

 ゴーレムは小石を投げつけられたと思ったのか大して気にする様子もなく、手榴弾は足元に転がった。

 投擲してから7秒後、手榴弾は炸裂する。

 しかし、ゴーレムは足元を少しえぐられた程度で気にも留めていなかった。

 損傷した足はあたりの瓦礫を材料に元に戻っていく。


「三式手榴弾があればバラバラにしてやったのに!!」

「無反動砲か像撃ち銃でもぶち込んでやりてぇよ!!」


 サニーとポーキーが機関短銃でけん制するもこれも効果が無い。

 ゴーレムは止まっているとまた爆破されると思ったのか、瓦礫を投げながら距離を詰めて来ていた。

 後退しようにもこう瓦礫を雨あられと降らされては移動もままならない。


「……もうちょっとにゃ」

「なに?」


 サニーの影から様子を伺っていたモロッシアがつぶやく。


「楽しい楽しいおまじないにゃ! セボルガ! あのでかいのをちょっと左側へ誘導するにゃ!」

「わっかりましたー! ぬぅおらぁ!」


 モロッシアの言葉にセボルガが落ちて来た瓦礫を持ち上げゴーレムに投げ返す。

 瓦礫はゴーレムに当たるも多少損傷させただけに収まった。


「おしい! もうちょっと左にゃ!」

「ガストン!!」

「了解」


 次はオーガのガストンが瓦礫を掴んで投げる。

 セボルガが投げた物より大きな瓦礫はゴーレムに危機感を抱かせるのに十分だった。

 ゴーレムは瓦礫を避けようと左へ動く、すると。


「ビンゴにゃ!!」


 モロッシアがガッツポーズをした途端、ゴーレムの足元に魔方陣が出現、足元が陥没する。


「あれは!?」

「大型生物用の魔法トラップにゃ! さぁさぁ、逃げるのにゃ〜!!」

「い、移動だ! 移動!!」


 これ好機と小隊は撤退を開始する。

 しかし、ゴーレムが苦し紛れに放った瓦礫が撤退するドイチェに迫っていた。


「危ない!!」

「うぉ!?」


 それを見たサニーは咄嗟にドイチェに体当たりで突き飛ばす。


「がぁっ!?」


 一番大きな物体の直撃は避けたが、空中で分離したそこそこの大きさの破片が背中に命中したサニーは地面に崩れ落ちた。


「お、おい! しっかりしろ!!」


 ドイチェがサニーに駆け寄ったとき。


「……マジかよ……」


 罠から抜け出したゴーレムは岩を抱えていた。


「万事休すか!?」


 ドイチェはサニーに覆いかぶさる様に身構える。

 あの岩が投げつれられたら二人ともミンチ肉よりひどい有様になるだろう。


「………?」


 しかし、いつまでたっても予想した衝撃は来なかった。

 不思議に思いゴーレムを恐る恐る窺うドイチェ。

 そこには岩を掲げて固まるゴーレムも姿があった。

 視線(目は無いが)は空を向いている。




〜〜〜♪




 少しして微かに聞こえた音。

 その音はだんだん大きくなり。


バタバタバタバタバタバタ

〜〜♪ 〜♪ 〜〜♪ 〜〜〜♪


 耳障りな爆音と。


「……音楽?」


 東の空から聞こえてくる爆音と音楽。

 異世界の空にワーグナー『ワルキューレの騎行』が響いていた。

14.02.16:誤字を修正しました、ご指摘ありがとうございます。

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