表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/135

第八十六話「王都防衛戦④」

「おい! 皆大丈夫か!?」


アクシス傭兵団の団長、ドイチェ・ウォールはふらふらする体に鞭打って起き上がった。

艦砲射撃のせいで大地震もかくやとばかりの衝撃に爆音、飛んでくる瓦礫に襲われた為か体は埃でうっすら白い。

見れば通りの向こう、北側ではさっきまで睨み合いをしていた反乱軍がちらほら起き上がっている。

どうやら混乱しているようではあるが。


「うにゃあ~……お空がくらくらにゃあ~」

「ふふっ! 今何か! 何かをキャッチしそうだった! ふふふふ……」

「えっ? 何か言いました!?」

「まったく……やれやれだぜ」


猫耳少女でトラップ開発のエキスパートのモロッシア・ボー。

真っ黒なローブを身に纏い、不気味な笑い声を上げる根暗系天才魔法使いシーランド・ミクロネーション。

自らの上にのし掛かった大量の瓦礫を”吹き飛ばし”出てきたのが鋼鉄人アイアンマンセボルガ・ラ・スペランツァ。

徐々に起き上がり、奇妙な立ち方でカッコをつけているのが奇術使いワイ・デルプラ。

そしてアクシス傭兵団のボスにしてこのメンバーのパーティリーダー、火炎鉄剣のドイチェ・ウォール。


今、港の防衛ラインにいる戦力は、アクシス傭兵団の精鋭30人と防衛隊の100人。

たったそれだけの人数で反乱軍約千人に一進一退の攻防を続けていた。

モロッシアのトラップ、ワイの奇術、シーランドの魔法で足止めし、セボルガとドイチェで叩き潰す、怪我人が出ればヘターリオが治す。

そうして防衛隊と連携を取って膠着状態まで持ち込んだのだ。


ドイチェはパーティメンバーそれぞれを見渡すと直ぐに周りの状況を把握しようとした、そこで……。


「……おい、ちょっと待てよ? ヘターリオは何処行った!?」


ドイチェはトラップ解除の天才にして、回復担当のヘターリオ・イタリアーノがいないことに気づく。


ヘターリオは普段からあちこちふらふらする奴だった。

特に街中で女性を見つけたら約束の時間に遅れて来るのは当たり前に五時間くらい遅刻する。

話が通じない相手なら一目散に逃げ出す、話が通じる相手なら必死で白旗を振る。

なのに何故彼が団員で有り続けるのか、それは天性の勘による物だ。

その臆病でヘタレな性格からトラップや危機には凄まじい感知力を発揮し我先に逃げ出す。

回復魔法もなかなかの効果だし、何より飯が美味いのだ。


それがアクシス傭兵団でヘターリオが団長直属のパーティに居る理由だ。


「……へーちゃんならさっきのアレが起きる前にどっか走ってったニャ」

「路地裏にあった樽に頭から突っ込んだのは見ました!」

「それっぽい樽なら海の方に転がってったぜ?」


仲間達から上がる目撃情報にドイチェは頭を抱えそうになった。


「ま、まぁ、いつもの事か。 アイツは異常にラッキーだ、大丈夫だろう……」


ドイチェがつぶやくと。


「ふふっ、その樽にハマったおマヌケさんならえらく血色の悪い女性にホイホイ着いて行ったよ、ふふふ……」

「おまっ!? 早く言え!!」


シーランドは不気味に笑うだけだ。


「他のパーティは!?」

「もうあらかた復活してるよ……防衛隊もだ……裏切り者さんこっちに向かってるみたいだしね、ふふふ……」

「なっ!?」


ドイチェがシーランドに詰め寄ろうとした時。


ボゴォンッ!


近くの石造りの家に何かが激突した。

よく見ればそれは反乱軍の兵士である事がわかる、生きているかは不明だが……。


「それに、この区画はもう大丈夫そうだしね、ふふ……」


シーランドが眺める方を見ると、ドイチェは納得してしまった。


「ふんぬっ!」

ドゴンッ!

「せぇいっ!」

ボゴンッ!

「つぇやぁっ!」

ズガァンッ!


そこには全身鎧を着たかなり肉付き(あえてこの表現をする)のいい女性が彼女と同じくらいの大きさの金属製の大槌を振り回し、通りの向こうからやって来る敵兵を文字通り叩き潰していた。

周りの建物の壁に敵兵が”突き刺さって”いるのも彼女の仕業だろう。


「さすがは『アギト潰し』のねぇ様にゃ!」

「防衛隊の長か……やはり恐ろしい……」


尊敬の眼差しで見るモロッシアと畏怖の眼差しを向けるワイ。


「お前達! 何をぼさっとしている!」


すると彼らの頭上を一頭の白馬が飛び越えた。

その白馬に乗った女性がドイチェ達を叱咤する。

驚いた事にその女性は長い黒髪をなびかせている、瞳は藍色だが。

その人物を見たドイチェが嫌なものを見たような表現で唸った。


「げっ!? チェ、チェリー……」


それを聞いた女性はうんざりした顔でドイチェを見る。


「サクラだ、『サクラ・スケーロック』。チェリーは昔冒険者をしていた時の名前ではないか……」

「団長! 『朱槍のチェリー』と知り合いにゃ!?」

「「腐れ縁だ」」


ドイチェとサクラと名乗った女性の声が重なる。


「そんな事より、敵が迫っているのだ! ぼさっとするな!」


そう言うとサクラは馬を走らせ敵に突っ込んでいく。


「せいやあぁぁぁっ!」


サクラの掛け声と共に長い朱槍が振るわれると約20人程の敵兵が宙を舞った。


「あいからわず非常識、ふふ……」

「……えぇい! とりあえずこの場を納めるぞ!」

「っ! ……ちょっと待つにゃ!!」


ドイチェも駆け出そうとした時、モロッシアからストップがかかる。


「今度はどうした!?」

「何か来るにゃ! すっごいうるさくて! やっばいのが来るにゃ! てか臭いにゃ!!」


見れば耳をたたみ、鼻を抑えてうずくまるモロッシアがいた。

一体何が、と聞こうとしたドイチェの耳におかしな音と聞き慣れた声が届いたのはそのときだ。


「だんちょー! 助っ人連れてきたよー!!」


路地裏から爆音と共に現れたのは奇妙な塊に乗って能天気に手を振るヘターリオだった。




******




一方、サンライズでは。


「……以上が陸軍からの報告です」

「どこのラテン息子だよ!?」


ミーシャは思わず立ち上がって叫んでいた。


「思いっきり、砂漠でパスタ作って壊滅する彼じゃん! ダーティーの下りから思ってたけどやりすぎると怒られるよ!?」

「あ、あの? 総統閣下?」

「あ、いや、ごめん取り乱した」

「い、いえ、お気になさらず」


ストレスとは気付かぬうちに溜まってしまう。

これもそれだろう、落ち着いたら休みを取ってやる。

などと考えながらミーシャは眉間を揉んだ。


「ナターシャ王女は?」

「は! 防衛艦隊の警戒は続いていますが、旗艦らしき船が近づいています、おそらく成功かと」

「反乱軍艦隊は?」

「そちらも成功です。全艦停船し武装解除中であります。扶桑、伊勢が警戒監視中、乗組員は甲板に整列させて拘束しています」

「……ふぅ」


陸戦隊が勝敗を決するまで気は抜けないが、それでもこの報告はミーシャにとって安堵のため息を付かせる物だった。


「……! た、大変です! ナナル城から何かが飛び上がりこちらに向かっています!!」

「なにぃ!?」


やはり気を抜いてはろくなことにならない。


「すでにかなり接近されています!」

「索敵ぃ!!」


ミーシャは思わず怒鳴ってしまった。

この前の海戦から怠慢が過ぎる気がする。


「すみません! 対地砲撃中に接近された様です!!」


ミーシャは急いで双眼鏡を手にしてそれを確認した。

そこに見えたのは……。


「お、オーニソプター!!?」


某天空の城に登場する虫型羽ばたき飛行機であった。

違いを挙げるとするなら、着地用だろうが機体下部に六本の虫型の脚が収納され、羽ばたく為の羽は六枚ある。

それはすでに肉眼で見れる位置まで近づいていた。


「フラ○プターだ!」

「天空の城はあったんだ!」

「じっちゃん!」


一部兵士たちがうるさい。

視聴覚室で旧媒体の天空の城を上映するんじゃなかった、とミーシャは後悔した。


そして、驚く事はなぜ『オーニソプター』が存在しているのかと言う事だ。

ミーシャの前世ですら研究、実験がやっとで実用化など夢のまた夢だった筈だ。


そのオーニソプターから聞こえてきた叫びに更に混乱する事になる。


「お姉様ぁぁぁ!!」


「誰!?」


思わずミーシャはツッコミを入れる。

そして周囲の視線が自分に集まっている事に気付いた。


「違うわ!!」


ミーシャはとりあえず後部甲板に誘導するように伝えるのが精神的に精一杯だった。


14.01.26 一部修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ