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第七十六話「 意地」

バートンはゆっくりと覚醒していく意識の中で起こった出来事を確認していた。

三十騎のグリフォンを率いて戦うも壊滅した、飛び立った母艦も轟沈した。

バートンは波間で全てを見ていた。

帰る船も戦友も愛騎も失い、沈むまいと思い、代々受け継がれてきた軽装鎧まで海中に捨てた。


「……っぐぅ!?」


まどろみの中のバートンは腹部の痛みに現実に引き戻される。


「……暖かい?」


バートンは先ほどまで海の中にいたのだ。

死後の世界かとも思った。

しかし、違う様だ。

瞼を開ければ灰色の天井が目に入る。

痛む身体に鞭打って上半身を起こしたバートンは自分が簡素なベッドに寝かされていたのに気が付いた。


……狭い部屋だ。

周りは冷たい灰色一色。

窓もなく、ベッドと、壁によく分からない物があるくらいの部屋。

部屋は、魔法のランタンだろうか?

魔法力は感じないがランプの様な照明器具におかげで明るい。


「……どこ……だ?」


間違いなく帆船やグランドタートル級の船室ではない。


「ぐっ!?」


ベッドから降りようとすると激痛がバートンを襲った。

おそらく着水の衝撃で肋骨を折ったのだろう。

痛みで立ち上がることができず、バートンは床に倒れ込んだ。

すると、倒れた音を聞いて誰かが部屋に入ってくる。


「こら! 悪化するぞ、動くんじゃない!」


バートンが顔を上げると、そこには軍艦に不釣り合いな少女が一人。

よく言えば可愛らしく、悪く言えばちんちくりんな少女。

艶やかな黒髪を後ろでひとつに纏め、吸い込まれる様な闇をたたえた黒い瞳、そしてまた不釣り合いな左目の眼帯。


バートンが不思議そうに見上げていると、少女は訝しみながら一言。


「……ズボン履いてるからいくら見上げてもパンツは拝めないぞ?」

「!? ち、違う!」


少女の一言にバートンは跳ね起きた。


「……冗談だよ。意識もしっかりしてるし、大丈夫そうだな」


少女が何か言っているが、バートンは気にせず話し掛けた。


「……お嬢ちゃん、ここは何処かな?」


バートンは薄々気付いていたが、あえて目の前の少女にそう尋ねる。


「……記憶障害かな? まぁ、いい。ここは戦艦『サンライズ』さっきまであんた達が沈めようとしてた船さ」


少女は、つまりあんたは捕虜になった、と暗に言っていた。


「さて、居場所を知ってどうするね? ひと暴れでもするかな?」


「私は名誉ある騎士だ、そのような真似はせん」


「下等種族に囚われていても?」


「……教団の教えか。……くだらん、国民全てが信者では無い、信者のふりをしなければならないだけだ。それに、私が忠義を誓ったのは陛下だ、神では無い」


そこまで話したとき、バートンはばつが悪るそうに目をそらした。


「……お嬢ちゃん相手に言う事では無かったな」


「気にしないさ。……まだ名乗って無かったな。ミーシャ・ラダッドだ、聴取は私が担当する」


ミーシャはそう言って右手を差し出した。


「聴取? お嬢ちゃんが?」


「人手不足でね。手間は掛けさせないでくれよ? おっちゃん」


「……ティマー・バートンだ。お嬢ちゃん」


バートンはミーシャが差し出した手を握り返す。

こうしてバートンの取り調べは始まったが、名前の他に所属、年齢、家族構成、家系、食物などで拒否反応があるものの有無、今まで患った病気、などを聞かれて終了した。

これにバートンは待ったをかける。


「……お嬢ちゃん? 他に聞いて来いとか言われなかったのか? 仲間の居場所とか、軍の規模、数、兵力、武器兵器の性能とか、グリフォンの最大飛行距離とか積載量は?」

「特に無いな。喋りたいならどうぞ?」

「喋りたいわけではない!」

「ならいいんじゃないか? 仲間を売りたいわけじゃないだろ?」


ミーシャとバートンの間に沈黙が流れる。


「……お嬢ちゃん。とても見た目通りの歳には思えんな?」

「レディに歳を聞くとは失礼な騎士様だな?」

「……ふっ」


バートンは小さく笑うとミーシャを見つめた。


「……不思議なレディだ」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「ご自由に」


ミーシャはそのやり取りに少し微笑み、部屋を出ようとする、しかし、思い出したかのように足を止め振り返った。


「……あ、そうだ。ほいっ!」


ミーシャは小さな袋をバートンに投げた。


「?」


バートンはそれをキャッチして中身を確認する。


「これは?」

「この船の中だけの通貨さ。食堂や購買部で好きな物を買うといい。捕虜とはいえ客人だからな」

「客人?」

「この船はナナル王国所属じゃない、私達の国だ。ガゼル帝国と国交を繋げて、ナナル経由でもいい、君たち捕虜を返還するまで生活は保証される。あぁ、あとこの部屋から出歩く時は監視が付くが我慢してくれ」


そうしてミーシャは考え込む。


「……そうだ、取り調べがスムーズに行った礼だ。私が出来ることならしてやるよ?」

「世話でもしてくれるのか?」

「……ヘンタイ」

「バカっ! そう言う意味ではない!!」

「あはっはっはっはっ! 冗談だよ、冗談」

「まったく、とんだレディだな……」


「……で? どうする?」

「……」


ミーシャの問いにバートンは考えた。


「……ここが、この船が君たちの国ならば。私はこの国のトップに決闘を申し込みたい」


ミーシャは予想外な返答に面食らっていた。


「……なに、ただの意地だ。男としての意地。望むものなどない、負ければ首を跳ねられるのも承知の上」

「……不器用な男丸出しだな」

「かっこいいだろぅ?」

「……ちょっとな?」


「……お嬢ちゃんに言っても意味のない事だがな」

「いや、確かに聞いたよ」


ミーシャは少し嬉しそうに笑って部屋を出て行った。

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