表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/135

第七十五話「命の責任」

「……ふっ! ふはっ! ふはははははっ!! 見たか化け物共め! これぞ帝国の力ぞ!!」


時間はセンタープライズが魚雷で撃沈される少し前に遡る。

センタープライズ指揮所には高笑いを上げるザムスの姿があった。


「操舵手! 転舵だ! もう一度ぶつけろ!」


「これ以上は危険です!」

「グランドタートルの生命力低下! 持ちません!」

「魔道隊から伝達! これ以上は空気の膜を維持できません!」


部下たちから悲鳴にも似た報告が上がるが。


「ふははははは! 勝てる! 勝てるぞ!?」


もはやザムスには聞こえていなかった。


「どうした! 早くしないか! 命令違反はこの場で斬首にしてくれる!」


言うとザムスは腰の剣に手を伸ばした。


しかし、グランドタートルは衰弱しているうえ、司令塔を包む魔法も消えかけている。

このままではサンライズに体当たりどころか、直前でグランドタートルが息絶え格好の的になるか、水圧で司令塔がぺしゃんこになるか。

よしんば、体当たりが成功したとして、先ほどの威力は期待出来ないうえ、間違いなく衝撃でセンタープライズは沈没する。

今出ている速度は最後の悪あがきでしかない。


一人の若い兵士ザムスの前に出て声を張り上げた。


「司令、失礼ですが……ご命令は実行不可能です!!」


現在、ガゼル帝国軍の士気はガタ落ちだった。

狩る側から狩られる側に一瞬でシフトしたのだから。

虎の子のグランドタートル艦隊が一瞬で壊滅、味方艦艇もあと五隻。

この状況でまだ規律がある彼らは優秀であると言えるだろう。


「……貴様!」


しかし、ザムスがその言葉を聞くはずもなく、剣が大きく振り上げられた。


「……っ!!」


兵士は思わず目を閉じ、身体を強張らせた。


「…………?」


しかし、いつまでたっても痛みも衝撃も襲ってこない。

もしや、一瞬で首を跳ねられ自分は既に死んでいるのでは?

そうは思うも、恐る恐る目を開けた。

彼が見たのは……。


「……ぁがっ!?」


剣を振り上げたままの格好で口から血を噴き出すザムスだった。

ザムスの胸元からは血に濡れた剣が突き出ていた。


「か、艦長!?」


ザムスの後ろには肩から血を流す艦長が立っている。

肩の傷は深く、血は指揮所の床に溜まっていた。


「おおおお!!」


艦長は雄叫びと共に剣を横に振り抜く。

深々と突き刺さった剣はザムスの身体を斬り裂き、ザムスは勢いで横方向に投げられる。


ドサァッ!

ザムスの身体は血を噴きながら床に叩き付けられ。

ガランガラン!

と、貴族特有の煌びやかな装飾を施された剣は転がっている。


「……ハァ……ハァ! わ、私には……」


息も絶え絶えに、血の気の薄くなってきた艦長は言葉を発する。


「私には……っ! この艦の者を……帝国軍人を生かして帝国へ帰す……義務が、責任がある! 無駄な……無駄な死などさせてたまるものかっ!!」


艦長はそう吼え、船員を見渡した。


「……この件は私が責任を取る! 生きて帰れれば法廷に申し立てよ!」


その言葉に船員達は顔を見合わせた。

一人の兵士が立ち上がり、声を挙げた。


「艦長! 総司令は”先ほどの戦闘”で戦死なされました! ご命令を!」


見れば、他の船員達も艦長を見つめている。


「……司令塔を緊急離脱させよ! 本艦はグランドタートル本体を破棄する! 浮上して残存に撤退の支持を出せ!」


こうして、水中で突撃中のグランドタートルの背中から司令塔が切り離された。



******



そして、グランドタートルが魚雷を受けた時間に戻る。


「総統閣下! 海中から何か浮上して来ます!」


サンライズ指揮所

ミーシャは見張りの示した方向を確認する。

そこには船の上に砦を建てたかのような船が一隻。


「……ありゃあ、グランドタートルの背中にあった……離脱したのか?」


ミーシャが呟いた時。

浮上して来た船から光弾が打ち上げられた。


「攻撃!?」

「……いや、ただの信号弾だ。他の船の動きは?」

「先ほどのまで戦闘行動を中止し、救助に当たっていましたが、転進! 当海域を離脱する模様!」


生き残ったガゼル帝国の船は補給艦のキャラック級が三隻と護衛のガレオン級が二隻。

本隊より遅れて航行していたこれらの船は、先行していたグランドタートルを狙った砲撃に当たらず、ガスプの攻撃も受けずに残っていた。

先ほどまでガスプに狙われていたのだが、ガスプは魚雷で轟沈。

砲撃も第二射が無いとわかると救助活動を開始していた。


「……追撃しますか?」

「いや、ほっとけ。それより海に落ちたパイロット共を水揚げするのが先だ! まったく、網ですくい上げてやりたいよ……」


ミーシャは伊勢の周りで助けを待つパイロットを確認してこめかみを抑えた。


「情けを掛けるのか?」


一連の出来事にただ立ち尽くしていたティ・トークはやっと意識を取り戻しミーシャに問いかける。


「戦闘が終わってまで殺し合いしたいほど戦争狂いじゃないつもりさ……それに逃げる奴を仕留めたってな……”降り首は恥”って島津の殺戮マッスゥイ〜ンも言ってる」


彼らは降伏している訳では無いが……。


「まぁ、情報を持ち帰ってくれる方が良いんだよ。今は……な」


そう言ってミーシャはガゼル帝国があるであろう方角を見つめていた。



戦闘報告



ガゼル帝国損害


グランドタートル級一番艦『センタープライズ』魚雷二発の直撃により撃沈。


グランドタートル級二番艦『ガスプ』至近弾を受け暴走、味方艦隊を攻撃した後、魚雷二発を受け撃沈。


グランドタートル級三番艦『ロビンソン』45口径51cm砲一発が艦中央に直撃、魔法爆弾を撒き散らしながら轟沈。


艦砲射撃および飛散した魔法爆弾による被害

戦列艦五隻、キャラック級二隻、ガレオン級三隻。

ガスプによる被害

戦列艦二隻、ガレオン級三隻。


航空部隊損害

グリフォン雷撃隊二十七騎



大和帝国損害


超大和級『サンライズ』直撃弾一発、グランドタートルの体当たり一発。中破。


龍驤型空母『龍驤』直撃弾一発。中破。


航空部隊損害

九六式戦闘機三機

艦上爆撃機彗星二二型(一一型)一機

艦上爆撃機彗星二二型(一二型)四機

艦上爆撃機彗星三三型一機(たまたま龍驤の甲板においてあった為に落下)

水上戦闘機瑞雲一一型九機

水上戦闘機瑞雲一二型一機

水上戦闘機晴嵐四機(二機は着水に失敗)



以上






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ