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第六十六話「コンタクト」

「見ろ! 奴ら尻尾巻いて逃げてくぞ!」


見張り員の声にナナル王国海軍旗艦『グリム』の船上は喝采に包まれた。


「馬鹿者っ! 我々に友好的とは限らん! この艦が手負いであるから後に回された可能性もある!」


艦長は湧き立つ部下に檄を飛ばした。

とりあえずは帝国軍からの脅威は去ったが、向かってくる『アレ』が次の脅威になり得るのだ。


「……もしや、外洋の老龍が目覚めたのか?」


艦長はナナルの船乗りに伝わる『海神』を思い出した。


東の海の果てには灰色の鱗で覆われた巨大な老龍が住む、と。

とすれば、帝国海軍など赤子同然だろう。


「不明艦接近! で、デカイ!? 200m以上はあるぞ!?」

「あの船のケツ! さっきの怪鳥だ!」

「小舟を下ろしてる! おい、あれ海に落ちた奴を助けてるぞ!」


「不明艦、本艦と並びます!」


謎の船はグリムと並び、船足を揃えた。


「こ、これが人工物?」


ナナル王国第一王女『ナターシャ・ナナル』はそう呟いた。

ナターシャの乗艦する戦列艦『グリム』は全長80m、それもナナル王国の技術の粋を集めて作り上げた最新鋭艦だ。

目の前のそれは素材、規模、技術、フォルム、どれを取っても、まさに規格外。

船体は鉄だろうか? 200m以上ある鉄の巨体はなぜ浮いているのだろうか? 風を受ける帆など何処にも無いが何を推進力にしているのだろうか?

この船の疑問は尽きない。


「……美しい船」


ナターシャは思わず呟いていた。

灰色の船体は独特の冷たさを感じ、その圧倒的存在感は海を支配するかの如く、しかし流線型の流れる様なフォルムは言い表せない芸術性を感じさせた。


ナターシャがその船を呆然と眺めていると。


<……ザー……、ザーザー……>


灰色の船から不快な音が聞こえて来た。

船員達は瞬時に臨戦態勢をとり、身を固くした。


<ザー……。……ぁ、これマイク入ってる? あぁ、入ってる入ってる。 んんっ! あーあー、マイクテス、マイクテス、本日は晴天なり本日は晴天なり>


拡声の魔法だろうか、船員達は呆気に取られている。

しかし、次に発せられた言葉は緊張とはかけ離れたものだった。


<……ヒソヒソ(なぁ、何て言えばいいんだ?)……ヒソヒソ(挨拶すれば良かろう)……ヒソヒソ(てか、言葉通じるのかよ?)……ヒソヒソ(我に聞くな)……ヒソヒソ(『ハロー』とか言えばいいか?)……ヒソヒソ(いや、あえて『ジャンボ、ハウバディ』のが良いやも知れん)……早よ言えやっ! どーでもええねん! 見てみぃ、相手さん固まっとるがな!>


一連のやりとりに呆気にとられる一同。

ナターシャは扱いに困って悩む。


「……え~っと……『言葉は通じております!!』」


「ひ、姫!?」


驚愕で提督が叫ぶが、それを手で制しナターシャは声を張り上げる。


「『本艦はナナル王国海軍所属戦列艦グリム! 危ないところを救っていただき感謝いたします!!』」


「姫! なりませんっ!」


「…………」


ナターシャは返答を不安のこもった顔で待った。


<……これは、お見苦しいところを失礼しました。我々は……あ~……えっと……新国家『大和ヤマト』! 本艦は大和海軍所属戦艦サンライズ! 本艦は当海域にて人命救助を行います、貴国の領海に侵入した事は深くお詫び申し上げるが、どうかご理解をいただきたい! 内火艇を下ろしますので本艦にて会合の場を設けたく思います!>


ナターシャは不明艦があまりに丁寧に接するので少し驚いた。


「……『重ねて感謝いたします! 申し出を謹んでお受け致します!!』」


こうしてミーシャ率いる大和とナターシャ率いるナナルのファーストコンタクトは行われた。




ナターシャの返答から約十分後、サンライズから一艇の内火艇がグリムに向かってくる。

これもまた鉄製の小船で、オールを使わずに進んで来る。


グリムから梯子が降ろされ、一度サンライズからの使者がグリムに乗り込んだ。


梯子を登り一人の女性が上がってくる。

彼女は真っ白な服に身を包み、帽子をとって手を差し出してきた。


「あたしが大和帝国海軍所属戦艦サンライズの艦長、メアリ・ノックス大佐相当官だ」


ナナル王国海軍提督は一瞬躊躇するが、後方から見つめるナターシャの視線に気付きその手を握り返した。


「わ、我輩がナナル王国海軍提督、ティ・トークだ。……して、大佐や相当官とはなにかね?」


「あぁ、階級らしい。軍内で細かくランクを区切っているんだ。なんでも軍艦の艦長は大佐が務めるらしいんでな。相当官ってのは、もともとあたしは軍属じゃ無くてね、だから呼び分けてるのさ」


「らしい?」


「うちの大将が発案者でね、詳しくはそっちに聞いておくれよ」


「うむ。……艦長直々に出迎えとは恐れ入るが。『ヤマト』とは始めて聞く名だな」


「まぁ、最近旗上げしたばかりでね。そっちも大将から話があるさ。……それでだ、この船に怪我人が居るならサンライズで治療したい、一緒に連れていっても構わないか?」


トークはナターシャを横目で見る。

ナターシャは申し出を受ける様に、と合図を出した。


「ありがたい、しかし、重症患者のみお願いしよう。選別があるので、もう一艇、船を出してもらえると助かる」


「わかった、サンライズに戻ったら手配しよう。そちらからの乗艦者は貴方だけか?」


「いや、後ろの二人もだ」


トークがそう言うと男性が一人前に出た。


「戦列艦グリム艦長のトッケンです、よろしく」


「メアリだ、よろしく。それで? そっちのお嬢さんは?」


メアリの問いにトークはナターシャを見る。


「ごほんっ! こ、これは我輩の秘書だ。会合記録の為に同行させる」


その言葉にメアリはナターシャを見つめた。


(王族であることがばれたか?)


内心三人は焦ったが、メアリは「まぁ、良いか」と視線を外した。


「わかった。では内火艇に乗ってくれ、艦までお連れしよう」


そうして、三人は内火艇に乗り込んだ。




******




内火艇に乗りサンライズに向かうナターシャ一行。

グリムからは少し距離があったが、近づくにつれてサンライズの巨大さがはっきりとしてくる。

停船しているそれは、まさに海の覇王であった。


「……まるで、島だ」


トークは口をぽっかりと開けて呟いた。


「あたしも始め見た時はそう言ったよ。さて到着だ、足元に気を付けてくれ」


サンライズに到着した内火艇は舷側のタラップに四人を降ろした。


「さすがに、この高さを梯子ではキツイな。しかし、船の側面に階段を付けるとは……」


タラップを登り甲板へ上がる四人。

甲板は治療を受けた者達が集まっている。

民間人とおぼしき人々が食料や包帯、タオルを手に走りまわっている。

珍しそうに見回していたナターシャ達の視界に魔族の兵士が入った。


「な!? 魔物!?」


とっさに腰の剣に手が伸びそうになったトークだが、ナターシャが腕を抑えとどまらせる。


「(いけません、ここで抜刀すれば取り返しのつかない事になります)」


ナターシャの耳打ちになんとか気を取り戻したトーク。

すると一人の魔族兵士が近づいてきた。

その兵士は右腕をあげ掌を額に垂直にあてがうという奇妙な行動を取る。

ナターシャ達は何事かといぶかしむがメアリもそれを見て同じ動きをしている。

なのでナターシャ達は、これは異国風の挨拶であると位置付けた。


「メアリ艦長、お帰りなさい。ナナル王国の方々も、ようこそサンライズへ。総統閣下はこちらです」


兵士が歩き出した時、一人の少女がタオルを抱えて走って来た。

少女は兵士とぶつかりタオルを撒き散らしてしまった。


「おっと、ごめんよ。大丈夫かい?」

「兵隊のおにーちゃんごめんなさい。このタオル、『さんばんほうとう』に持ってかなきゃなの」

「『三番砲塔』ならあっちだよ、気を付けてね」

「ありがとー」


素早くタオルを拾い集め、少女を送り出した魔族兵士を見てトーク達は呆然としていた。


「し、失礼しました! こちらです」


魔族兵士はすぐに謝罪し、四人を艦内に案内する。


「子供が乗っているのか……」


「今、この船は難民船みたいなもんさ」


トークはメアリの言葉に眉を顰めるが、目的の部屋に到着したのか兵士が止まる。


コンコンコン


「ナナル王国の方々をお連れしました!」

「わかった、入ってもらえ」


鉄のドアが開き、ナターシャ達は室内に入る。

ナターシャ達は室内を見て驚き、そして、その部屋の一番偉い人物が座るであろう席を見て再度驚いた。


その部屋はまるで艦内ではなく、屋敷の一室、それも応接室ではないかと見紛うほどの美しい室内、間違いなく高価な調度品の数々。

そして、部屋の中央に鎮座する会議室テーブルの向こう、上座に位置する席には。


「ご足労をお掛けして申し訳ない。お……ごほんっ! 私が『大和ヤマト』国家元首、ミーシャ・ラダッドです」


およそ国家を率いるとは思えない年齢の、7歳程度の少女が居た。

沈黙的にヤバイ気がしたのでちょっと修正。

潜水艦じゃないし、超国家軍も作らない(国連組むけど)から大丈夫だと思うけど。

漢字で書いて、カタカナで読む感じで大和ヤマト

一応、国号は『帝国』にしたい。

『超大和帝国』とかにしたい。

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