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第六十二話「鋼鉄(くろがね)の」

「三番艦撃沈っ!!」

「両舷『魔筒』損傷率50パーセントを突破!」

「三番マスト大破!!」

「二番艦『グレーテル』より旗信号、<我、操舵不能。我、操舵不能>」


五隻に追撃を受ける三隻の帆船。

内一隻は航行不能、一隻は沈没し、自艦もメインマストに攻撃を受けて推進力を失いつつある。


ナナル王国海軍旗艦、戦列艦『グリム』指揮所には悲痛な報告が飛び交っていた。


ガゼル帝国に宣戦を布告され、陸戦では間に位置する国家が良く耐えている。

しかし、ナナル王国の担当する海戦で戦果は芳しくなく、敗戦に次ぐ敗戦、果てに王都まであと一歩、この海域を抜けられればナナルに打つ手無しの危機的状況に瀕していた。

そして、先ほど。

ナナル王国海軍対ガゼル帝国海軍。

軍艦50隻対20隻の艦隊決戦の火蓋が切って落とされた。

戦力は一目瞭然、数で圧倒するナナル王国艦隊戦の士気は高く、王都防衛は叶ったと誰もが疑わなかった。

しかし、その願いは脆く崩れ落ちる。

ガゼル帝国の投入してきた新兵器、『生物戦艦』である。

海獣を魔法で調教し戦艦に改造した生物戦艦は潜水能力と高い速力を誇る。

縦横無尽に動きまわり、艦隊の後方に浮上して奇襲、潜行して水中から攻撃、などの様々な行動で艦隊の陣は崩れ、ナナル王国艦隊戦は壊滅。

残るは敗走中の三、いや、二隻のみだった。

後方には追撃する五隻の軍艦と一頭の生物戦艦。


「艦長……もはや、これまで……降伏を……」


軍艦に似つかわしくない女性が声を上げる。

歳は15、6歳と言ったところか。


「なりません! 王女様、降伏をしては死んだ者が報われませんぞ!」


「提督、決戦に敗れたという事実が……」

「理解できぬ!」


提督と呼ばれた男性は艦長の言葉に耳を貸さず徹底抗戦を唱え続ける。


「……人の話を聞きたまえ。例え目の前の出来事が理解出来ずとも、船乗りは判断し、行動せねばならん……王女様の判断で我が艦や、沈んだ船の船員が助かる可能性があるのも、また事実だ」


「……艦長」


「……メインマストに白旗を掲げたまえ。帆を閉じて救助活動を優先せよ……」


艦長がそう告げた時だった。


…………ォォォォ


耳に飛び込んできた不快な音に、皆が空を見上げる。


……ブオォォォォン!!!


「……鳥?」


東の空から、鳥にしてはおかしな『何か』が三匹飛んできた。

それは艦隊の周りをぐるぐると飛び回る。


「怪鳥が屍肉を喰らいに来たか?」


艦長が呟いた時だった。


ドンッ!


後方の帝国艦から魔法弾が放たれた。

もはや虫の息の王国艦をいたぶるのにも飽きてきた彼らは怪鳥に矛先を向けたのだ。


「なんと下劣な……っ!」


その帝国艦艇を忌々しそうに睨む提督。

怪鳥たちも少しの間はされるがままに攻撃を受けていた。

けして逃げるわけでもなく艦隊の周りをぐるぐる回っている。


(監視されている?)


そう王女が思った時、怪鳥は一斉に飛び回るのをやめ、帝国艦艇に襲いかかった。

次の瞬間。


ドオォォォンッ!


耳をつんざく爆音とともに帝国艦艇三隻が跡形も無く消え去っていた。


自軍も敵軍も理解が出来ない。

ただただ、軍艦が沈んだ場所と、東の空へ飛び去って行く怪鳥を見守っていた。


「………? 光った? 今、東の方が光ったぞ。ほら水平線の辺り………なんだ? ありゃあ……」


一人の水夫がメインマストの上から何か叫んでいる。

すると。


ドォン!


辺りに爆音が響き、続いて。


ヒィィィィィ


口笛を吹くような音が響く、そして。


ドオォォォン!


並んで航行する帝国艦艇の丁度間に『何か』が降ってきた。

二隻の軍艦は衝撃に身をよじり、舷側は裂け、一番太いメインマストは小枝の様に宙を舞った。


ナナル王国海軍を追撃していた六隻の内五隻が一瞬にして海の藻屑と消えた。


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