第五十二話「お伽話と歴史の真実」
「じいさんも、オヤジも。一族は皆、ひいじいさんの無実を訴えた、西の島を目指して旅立った者も居た、帰って来た者はいないが」
メアリはそう言って近くの椅子に腰掛けた。
「あたしは西の果てに向かえるなら喜んでついて行く。しかし、これは私以外の船員達の問題でもある」
「お、おい! 待てよクイーンの! おめぇ、マーティの子孫なんて言ったらそれだけで罪人だぞ!? おい、他の奴らは知ってたのかよ!」
1人の船長がクイーンの船員に問いかける。
「あたい達はもともと海になんて出れなかったんだ、船長の家の事だって承知のうえさ!」
船員の答えにクイーンのみんなは頷いている。
その時。
「な、なぁ? マーティの子孫を、クイーンの連中を領主に突き出せば俺達助かるんじゃないか?」
ある船員の一言に場がざわついた。
「そ、そうだ! こいつらを突き出せば俺達は見逃してもらえるはずだ!」
どこから出てくる根拠かは一切謎であるが、多くの船乗り達は助かりたい一心で武器を手に立ち上がった。
「なんだおめぇら!? やろうってのかい?」
負けじとクイーン側も武器を持って構える。
勢力的には4対1でクイーン劣勢だ。
すると。
「おまえら!?」
「すまんな、クイーンには借りがある」
数隻の船乗り達がクイーン側に参戦。
戦力差は無くなり、拮抗状態に陥ってしまった。
「てめぇ! 助かりたくねぇのかよ!」
「恩人売って助かるかもわからねえ話に乗るなら、恩人助けて怪しい話に乗った方がマシだ」
まさに一触即発である。
「……なぁ? マーティって頭に栗かなんか乗ってたのか?」
「うぇえ!? なんですかいきなり!? 頭に栗なんて乗ってませんよ? どこの世界に頭に栗乗っけた人が居るんですか……」
「いや、『偉大なる』が付く航路とかには居るらしいんだが?」
「いやいや、奴は栗など乗せてはおらなんだが……酔うと食べ物を頭に乗せて酒場を練り歩いておったわ」
「いや、それどこのカツサンド……って、うぇ!?」
バカな話をしていたミーシャは突然後ろから聞こえた声に飛び退く。
「ふはっはっはっはっ! 我、参上である!」
「マシリー!? なんで……つかどうやってここに!?」
「ふはっはっはっは! 我は吸血鬼であるぞ? この身を霧に変えるなぞ造作もない、あの『せんこうてい』とらやに入っておったのだ。 少しばかり狭かったがな」
その吸血鬼は無い胸をはって威張っている。
「うん、すごいすごい(なでなで)」
「うなーっ! なにをするー! 離せー!」
とりあえず頭を撫でておいた。
「そ、それより! さっきのって?」
ラビーがマシリーに詰め寄った。
「ん? 我が吸血鬼であることか?」
「そうじゃなくて! その前!」
「……ヤツは頭に食べ物を乗せて?」
「それです! 何故それを!?」
「ふむ、それを説明するにはまず、この場を納めねばな……」
そう言ってマシリーは……。
「静まらんか貴様らっ!!」
「「「っ!!?」」」
マシリーの一喝に両陣営の船乗り達は動きを止めた。
「おい、またガキが増えてやがる!」
「なんだいあんた! 邪魔すんじゃないよ!」
マシリーに注目する。
「……」
そして、目線は背中の羽に動き……沈黙。
「「「げぇ!? 魔族!!」」」
さっきまでいがみ合っていた両陣営が驚き後ずさった。
「なんで魔族がここに!?」
「そのような些細な事はどうでもよいわ! ……さて、マーティのひ孫よ」
「……なんだ?」
ギャラリー達を無視して、マシリーはメアリに語りかけた。
「お伽話の真実は知りたくないか?」
「……なんで魔族がそんな事を知っている?」
「質問に質問で答えるでない! まぁ、よい。それはな……我がかの島へ着いて行ったからよ!!」
「「「………はぁ!?」」」




