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第四十八話「思惑」


 ミーシャはラビーの話にゆっくりとうなずいて。


「なるほど、それで海をぷかぷか浮かんでた訳だ。……ってどんな生命力やねん!!」


 上半身をひねり、ちょっとジャンプして、きれいな角度で、指先をぴっちりと揃え、元気良く突っ込みを入れていた。


「はい、私も助かったことが不思議で……」


 それは嘘偽りのない言葉であった。

 そのとき。


コンコンコン


 医務室の扉を叩く音が、続いて。


「失礼します! 総統代行……、失礼しました、総統補佐官がおいでです」


 その兵士の言葉と同時に、マシリーが入ってくる。


「ふはっはっはっは! 我、入室であるぞ! して、ミーシャ今後の予定は決まっておるかの?」


「まぁ、待てマシリー。……なぁ、えーと……、ラビー?」


 ミーシャはラビーに声をかける。


「はい? なんでしょう?」


「その、クイーンが向かってたのはウエンズレイポートなんだな?」


「はい、そのとおりです。もしみんなが無事なら、ウエンズレイポートの『海鳴り亭』という宿屋に居るはずですが……」


「なんじゃ、意識を取り戻しておったのか?」


「いや、それ聞いて来たんじゃねーのかよ!? ……ま、まぁ、それは言いとして。 ごほん、ラビー」


 マシリーの言葉に突っ込みを入れたミーシャは、佇まいを直すとまじめにラビーに問いかけた。


「は、はい?」


 その雰囲気の変わり様にラビーも緊張した面持ちで返事をする。


「……水夫を募集してるところがあるんだが、働いて見るつもりはないか? 軍隊で……」


「たまには人間や魔物から追われる事も御座いますが」


「ん? 何じゃ? なんの話じゃ?」


 その会話に着いていけないマシリーが疑問の声を上げる。


「そこのジイさんは同じ意見にいたったようだがな」


「まさに、そのとおりで御座います。このような巨大な船、動かすにはミーシャ様が仰られた人数『1500名』の水夫が必要で御座います」


「それなら我が軍が『魔王軍』がおるではないか」


「だからこの前も言っただろう? 魔王軍に航海の知識が在る奴は居ない」


「そこで、彼女、……いや、ミーシャ様はその『クイーン』の船員すべてを隊列に加えるおつもりとお見受けいたしたので御座います」


「ザッツライト! まったくもってそのとおりだゴーザス」


「恐縮で御座います」


「という訳で、我々はウエンズレイポートに潜入、クイーンの船員のスカウトに出かけようと言う訳なのだ」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 その会話を横で聞いていたラビーが声を上げる。


「まだ皆が無事だと決まった訳じゃありませんし、あの船長を説得するのは難しいと思いますし!」


「まぁ、やってみなけりゃわからないさ」


 そう言うとミーシャは立ち上がり医務室のドアへと向かう。


「ミーシャ様? どちらへ?」


「ちょっと外の空気を吸ってくる」


 そういい残してミーシャは医務室を出るのであった。



***************************************************



 ミーシャが医務室を出ると、通路に寄りかかった人影が一つ。


「おぉ、出てきたか。話はまとまったんか?」


「なんだ? 盗み聞きでもしてたのか?」


「アホ抜かせ! 誰がそないなことすんねん!」


 魔王軍作戦参謀ヴィーナその人であった。


「ったく、おい、ミーシャ・ラダッド、マシリンが認めたからしゃーなく着きおうたるけどな。妙な事しくさったら……、魔王であろうと容赦せんで?」


 その言葉にミーシャは肩をすくめて見せた。


「おぉ、こわいこわい。……へいへい、肝に銘じておきましょうかね」


「ふん、かわいげのないやっちゃ。……なぁ、あんた自分の出生しってんのか?」


 その言葉にミーシャの動きが止まった。


「……知らないね。ただ生まれてすぐに捨てられて、そしたらラダッド家に拾われただけだ。『捨てる何チャラあれば拾う何チャラあり』ってな」


「なんやそれ? まぁ、そんなことはどないでもええねん。あんた、その秘密、知りたないか?」


「……まるで教えてくれるような口ぶりじゃないか? いったいどこまで知ってるんだか」


「そやなぁ、全部とは言わんけど……」


 ヴィーナはあごに手を当てて考える。


「80%や」


「えらく強気な数字を出してきたもんだ」


「あったり前や、これでも魔王軍の大軍師様やねんで? それでしりとうないんか?」


「教えたくてうずうずしてるくせに」


「うっさいわ! まぁ、ええ! 耳の穴かっぽじってよぉ聞きや」


 その続きにミーシャは黙って耳を傾ける。


「あんたこの国のお姫様やってんで?」


「はぁ? おいおい、冗談や嘘にしても大軍師様がかなり頭悪い内容だぞ?」


「……冗談やないで?」


 ヴィーナのいたってまじめなその面持ちにミーシャは黙って見つめ返すしかなかった。


「あんたはな、この国の王族の生まれやねん。その髪と瞳の色で処分されそうになっとたんは事実や」


「処分だと?」


「そう処分や。王族、いやこの国にはあんたは生きててもらっては困る存在やっちゅう事や」


「……」


「うちら魔王軍はその処分されたってとこまでの情報、実は掴んどってん。せやけど反魔王派の手前、公表はせぇへんかったけどな」


「じゃあ、なんで今頃、公表したんだ?」


「好きでした訳とちゃう、誰かがこっち(魔界)に持ち込みおったんや。うちはそれが誰かまで掴んでる、それはな」


「それは?」


「……あんたを拾った、ラダッドの部下や」


「!?」


「ええか? ラダッドが何であんた拾ったか、気にしたことが無かった訳とちゃうやろ? ならそういうこっちゃ。あのジイ様なんやら、企んでる」


「……」


「ラダッドが昔この国で何してたかは知ってるか? 特殊部隊っちゅー奴や。昔は情報操作なんかもしてたみたいやからな」


「……」


「あの家の事なら気にせんでええっちゅう事でもある。この国に、あのラダッド家を突こうとする奴はよっぽどのバカか死にたがりやないとせえへんわ」


「……分かった」


「なんや? ショックやったか?」


「いいや、違和感の正体が分かった気がしただけだ。確かにちょっとだけショックだったけどな」


 そう言うとミーシャは外に向かって歩き出した。


「おいおい、どこ行くねん」


「空気吸いに行くんだよ。もともとそのつもりだ」


 ラダッド家の真意はいまだ分からない。

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