第三十八話「疾走!棺桶戦車」
今回特に短いです、続きは明日。
登場兵器スペック
九七式中戦車「新砲塔チハ」
WWⅡの日本軍主力戦車九七式中戦車「チハ」の砲塔換装型、通称「チハ改」。
全長5,55m、車幅2,33m、車高2,23m、自重14,8t、移動速度38km/h、一式四七粍戦車砲一門、九七式車載機関銃二門、三菱製空冷V型12気筒ディーゼルエンジン搭載、定員4名
紙装甲と呼ばれる程の防御力、燃費の良さと安全性、鹵獲したM3戦車に坂道を引っ張り上げてもらう程の馬力とデカくなったエンジン。
どんどん強化・大型されていく周辺国の戦車、引き換えに小さいまま、装甲薄っぺらいままのチハ。
一部愛好家のあいだでは「チハたん」の愛称で親しまれる戦車です。チハタンバンジャーイ!
もっとも「棺桶」の汚名も頂いてますが。
「……ぐぅっ! 一体何が起きた!?」
バーニィは衝撃ですっ転んでしまい慌てて起き上がる。
先ほど動き出した鉄の塊は向かいの民家を破壊し大通りに抜けてしまっていた。
「状況報告! 急げ!」
同じように驚き尻餅をついていた憲兵達も次々と起き上がってくる。
ライシス・ソーリアス両家のご子息も無事だった。
「各隊員に大きな負傷者はいません! しかし、馬が驚いて役に立ちません!」
どうやら先ほどの砲撃音に驚いて馬が使用不能に陥ってしまったようだ。
これで彼らは追跡が困難になってしまった。
バーニィは大穴が空いた民家を眺めながらつぶやく。
「先ほどの攻撃……外れてくれたから良かったものの。いや、外してくれたと言うべきなのか?」
明らかに先ほどの攻撃は憲兵達ではなく民家自体を狙っていた。
「何より、周辺住人を先に避難させておいたのが幸いしたか……さて……」
バーニィは貴族二人に向き直る。
轟音が出ることを知っていたかの様に素早く耳を塞ぎしゃがみこんだ二人を。
「お二方には詳しくお話を聞かねばなりませんな? どうして……」
「伝令! 緊急にて失礼いたします!」
バーニィが問いかけようとした瞬間、一人の兵士がこちらに駆け寄ってくる。
今まさに疑問の正体を明かそうとしていたバーニィは若干不機嫌そうに答えた。
「今度は何事かね?」
その問いに伝令の兵士は息を切らし、若干上ずった声で答えた。
「ほ、報告、アーコード司令部より緊急命令!
ひ、東側よりアーコードへ進軍する軍団を確認、偵察の報告により、ま、魔王軍と認む。
アーコード周辺の全兵士は現在の作戦行動を中止、可及的速やかに防衛体制を取れ! です!」
「な、なん……だと……!? ここは国内だ、国境線ではないんだぞ!?」
アーコードは王都の比較的周辺に位置する大都市で商業の中心である。
東の魔界からここにたどり着くにはフェンゲルかスミテルの二つの領地を突破しなければならない。
しかも、アーコードから東側に進めば国王直轄の管理区域『イース領』がある、魔王軍は王都から進撃してきた事になる。
バーニィは先ほどの攻撃と今の自体とで混乱しそうになるのを必死に抑える、指揮官である自分が取り乱す訳にはいかない。
「全隊! 速やかに撤収作業に移れ! 犯人の追跡は後回しだ!」
どちらにせよ馬が使い物にならないのだ、ここは撤収するしかない。
兵たちが馬をなだめ、撤収の準備に掛かった時だった。
ズドォンッ! ズドォンッ!
「今度は一体なんなのだ!?」
アーコードの東門と南門の二箇所から轟音と共に煙が上がったのだ。
「一体この国に何が起こっておるのだ……」
彼のその問に答える者はいない……。
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一方、九七式中戦車『チハ』に乗るミーシャたちは商業区大通りから南門へ向かって走っていた。
「クソぅ、食堂の開店に6000万も使ったのに……」
ミーシャはぶつぶつとつぶやく。
「仕方ねぇさ、捕まるのは嫌だからなぁ」
操縦席からはゴットンが声を掛けて来る。
「これで学園入学、二度目の青春ともおさらば……はぁ」
「アルジ、元気出シテ」
ニャルが見かねて慰めていた。
それで少し元気になったミーシャはハッチを開け後方を確認する。
「よし、追手は来てないな。流石に追いつかれれば厄介だ」
チハの走行速度は38km/h、戦国時代の馬の速度は30km/h程度と聞いたことがある。
もしこの世界の馬の速度が早かったり、足の早い馬ならアーコード内程度の区間であれば追いつかれかねない。
最初の砲撃は脱出路の確保と馬の無力化が目的であった。
「よし、南門が見えてきた! ゴットン! 今の速度を維持! このままアーコードから逃げ出すぞ!」
進行方向にはアーコード南側出入り口である南門が見えてきていた。
門周辺には脱出を阻止する為か兵士たちが集まっている。
ミーシャは車内に向かって叫び、車内に戻ろうとしたその時だ。
ズドォンッ!!
進行方向、目的地である南門が吹き飛んだのだ。
「なんだ!?」
あわてて進行報告を確認するミーシャ。
南門のあった場所からは土煙がもうもうと上がっている。
周囲には衝撃で吹き飛ばされた兵士たちが倒れている。
「ガッハッハッハ! どうしたぁ、ここはこの国の商業の要だと聞いているぞ? この程度の防衛で良いのかぁ!?」
次の瞬間、煙の中から姿を現したのは日に焼けて黒光りする筋肉に覆われ、白いヒゲをたっぷりと蓄えた身長3メートル級の大男だった。
兵器スペック、戦国時代の馬の速度などは作者調べです。
間違いなどございましたらご指摘位だだけるとありがたいです。
13.05.15 一部修正しましたごしてきありとうございます




