第二十九話「創業!チハタン食堂」.
新章突入!
それから俺はマッケンジー商会が輸入した米・調味料・香辛料を即キャッシュで購入して定期的な買取契約を結び、ギルドに飛び込んで貯金を引き出し不動産屋へ猛ダッシュ(ギルドで声を掛けられたような気がするが今となってはどうでも良い事だ)。
アーコード商業区のこぢんまりした木造2階建ての家屋と横の空き地(家事で全焼した跡地らしい)を現金一括買いした挙句、再びマッケンジー商会へ飛び込んで家具一式とテーブルとイス、それから大型の調理器具を注文、即一階のスペースに搬入し設置。
家屋の購入契約を即決した後すぐご近似所さんに挨拶回りに行った上、同商業地区の呉服屋で旭日旗とのれんを注文し前金と謝礼を多めに出して直ぐに仕立ててもらった。
ここまででかかった費用は約6000万程度、時間は二日という電光石火ぶりである。
最後の総仕上げに横の空き地に九七式中戦車(47mm砲搭載型、新砲塔チハ)を召喚して砲身に旭日旗を括り付けて、入口にのれん(日本語で『チハタン食堂』と書かれている)をかけて完成である(のれんを掛けるのに手頃な棒がなかったため能力で『神槍グングニル』を召喚、代用しました)。
ちなみにチハの後方のスペースには倉庫を立てるべく木材が積み上げられている。
オーナーは俺ことミーシャ・ラダッド。
調理長はゴットン(なんと料理の腕は相当な物と見た目にそぐわないスキル持ちだった)。
そしてウエイトレスにニャルという布陣である。
ここだけの話、空き地に召喚したチハはニャルにちょっかいを出した炉利魂を完膚無きまでに殲滅する為なのだ(キリッ)。
ここに世界初の日本食の食堂『チハタン食堂』は開店するのであった。
・・・・・・と、ここまで我を忘れて突っ走ってしまったが、よくよく考えればガーデルマンから紹介された魔術の先生への挨拶もジュリーから渡された妹さんへの手紙も全く手付かずであった。
「あー、まずは魔法の師匠の所だよなぁ」
俺はカバンの中からガーデルマンからの手紙を取り出した。
「えーと?」
『ミーシャへ
〜〜〜略〜〜〜
アーコードには儂の教え子である『ニッキー・ノーズ』が住んでおる。
彼女を訪ねるが良い、儂の名前を出せば必ずや協力してくれるじゃろう』
・・・・・・・ん?
それだけ?
特徴は? 住所は?
女性である事と名前しか解らないじゃないか!
アーコードだって広いんだぞ?
「・・・・・・はぁ・・・・・・、とりあえずジュリーの妹を頼ってみるか」
俺はジュリーから受け取った手紙を開いた、コレは俺宛の手紙だ。
『お嬢様へ
この手紙を読まれているという事は無事にアーコードに到着された事と思います。
私の妹であるミナ・アームズはソーリアス家にお使えしていると聞いています。
ソーリアス家のお屋敷を訪ねてみてください、もう一通の手紙を見せればわかるはずです。
追記
くれぐれもご無理はなさらぬよう』
流石はジュリー、パーフェクトだ。
どこぞの老いぼれとは格が違った。
「お屋敷・・・・・・ねぇ・・・・・・やっぱり相当な金持ちかな? ・・・・・・ん? ソーリアス?」
ソーリアス。
よく思い出してみよう、このアーコードの正式名称を。
『イース王国ライシス伯爵領ソーリアス行政区』である。
そう、『ソーリアス行政区』である。
「・・・・・・領主様じゃないっすかーヤダー・・・・・・」
前途は多難である。
Side「ニャル」
主の様子がおかしい。
商人の荷物を見てから何かに取り憑かれた様に飛び回っている。
私はアーコードに到着してその晩に主が発した一言を思い出していた。
「野球をしよう、チーム名はリトル・・・・・・ごめんなんでもない・・・・・・」
主はたまに変な事を言う。
(ヤキュウってなんだろ?)
・・・・・・と、思い出したいのはこんな事ではない。
「この街で食堂を開きたいと思う」
そう、この一言である。
「厨房は俺と・・・・・・ゴットン頼めるか?」
「願ったり叶ったりでさぁ!」
もともとやむにやまれず野盗に身を落としたゴットンだったのでこれは即答だった。
住み込みで三食付きしかも週休1日制らしいのだが、これは普通ありえない待遇である。
あまりに良すぎる。
「そしてニャルだが・・・・・・」
私は主の言葉に体を硬直させた。
接客であるので喋る事ができない私に利点は無い、ハンターとして生活するには貧弱だ。
もしや奴隷商に売られるのでは・・・・・・。
そんな思いがよぎった時だった、主の口から思いがけない一言が吐き出されたのは。
「ウエイトレスをしてもらうから」
「は?(は?)」
ゴットンと私は思考が一時停止してしまっていた。
「旦那!? ニャルは喋れないんですぜ!?」
ゴットンが確かめる。
私は喋る事ができない、つまり注文をとって伝える事ができない。
奴隷の私には食堂と言うのがどういうものかは良くはわからないが主の説明から喋れないのでは仕事にならない事くらい察しがつく。
「もちろん考えがあっての事だ、いいか? まずはだな・・・・・・」
主の説明はこうだった。
まず水を客に出す、そのさい運んでいく丸い板(お盆と言うらしい)の裏に『ご注文は?』と書いておく。
それを見た客が注文をするのだが、私は喋れないので厨房に料理を通す事ができない。
そこで各机に番号を付け、厨房の壁にそれぞれの机の番号と料理名の書かれた札、数の書かれた札を掛けるスペースを作っておく。
私は注文の通りに札を壁に掛けていくだけで良い・・・・・・という事らしい。
「注文を通す際に音で知らせるために鈴か鐘を用意しておくからそれを鳴らしてくれ、まぁどのみち店員を増やすからがんばれ」
主は笑顔でそう言うのだった。
「・・・・・・ハァ」
私はため息をつく。
言葉が喋れなくても息を吐くのはできる。
ますます主という存在がわからなくなった。
今だって金貨一枚と言う大金を抱えて気が気ではないのだから。
絶対に落とさないように服に縫い付けてある。
主曰く、『開店準備が整うまでは休暇』との事で、私は今行く宛もなくぶらぶらと歩いていた。
決して主は悪い人という訳ではない。
逆に人が良すぎる節もある、言動は乱暴なところが目立つが。
私の事も気にかけてくれるし、普段乱暴に扱うゴットンの事もしっかり考えている。
主は乱暴な言動の所々からそんな心の欠片が漏れ出していた。
あれが噂に聞く伝説の魔王『クロ』とはあまり思えないのだ。
そんな事を考えながらフラフラと歩いている時だった。
ドンッ!
「ッ!?」
「きゃあ!?」
誰かとぶつかってしまった。
転んでしまった私は慌てて起き上がり相手に怪我がないか確認する。
「あいたた・・・・・・、ごめんなさい、少し考え事をしていたもので。大丈夫かしら?」
そこにいたのは絵に描いたような魔法使いのお姉さんだった。
主人公が物件を購入できたりしたのは、「支払いができるのなら問題なし」という意識がこの世界にあったからです。
13.05.19 一部修正 ご指摘ありがとうございます。
 




