第二十七話「能力と解釈と」
Side「商隊の護衛:ヘレン・カーテル」
私は目の前の現実が信じられなくなってしまっている。
ここはアーコードの目と鼻の先、こんな所で盗賊などが現れれば直ぐにでも討伐隊が編成されすっ飛んでくる。
そんな事は猿でも、いや、脳みそが腐っているであろうアンデットですら解るだろう・・・・・・と、そうたかを括っていた。
「ヒャッハー!!! 男は皆殺し! 女はお楽しみだァー!!!」
居た。
アンデッドの、ゾンビの腐った脳みそ以下の思考能力しかない盗賊が、目の前に、その数は15人程。
慢心、油断、奢り、そんな護衛として、いや、冒険者としてあってはならない心がこの悲劇を招いた。
連れていた護衛のうち一人はいきなり斬りかかってきた盗賊の一人に斬り殺された。
すぐさま応戦しようと剣を抜いた一人は敵の魔術師の火炎魔法の一撃で腕を吹き飛ばされた。
私は右足に弓を受け行動不能に陥った。
残った戦力は中堅冒険者が一人と最近冒険者になったばかりのヒヨっ子が二人。
俺は初級だが火炎魔法で支援をしてはいるが戦況は明らかに絶望的だ。
二台あった馬車は一台が魔法で炎上している。
襲撃のポイントは確かに愚行とも取れるような場所である、が、その計画性に相当な頭脳を持つ者がいる事は明白だ。
我々はアーコードに戻るため見晴らしの良い街道を移動していた。
街の方向から来る商隊とすれ違うも任務終了を目前に気が緩んでいた我々はなんの警戒もせずにアーコードを目指す。
するとすれ違った商隊はいきなり後方から攻撃を加えてきたのだ。
相手方の馬車は二台、そこそこの装備を整えた護衛役が数人と商人を演じる男が一人。
二台の馬車には男たちが潜んでおり、その全てが盗賊の一団だった。
完成された偽装と驚くべき統率で我々を欺き背後から襲いかかる、恐ろしく頭の切れる頭目、もしくはそれに準じる者がいるのは明白だ。
しかも、盗賊の中には遠距離からの支援を目的とする弓兵と魔術師が潜んでいた、多勢に無勢と言うやつである。
どこか別の場所で商人を襲い馬車を入手、護衛の装備を剥いで偽装するなどよもや盗賊などが行うなど夢にも思わない。
すると後方から少女の悲鳴が聞こえた。
炎上していない方の馬車、別動隊であろう盗賊が3名ほどその馬車に手を掛け、一人は剣を突き立てていた。
その瞬間、私はありえない物を見る。
馬車に今にも乗り込もうとする盗賊たち。
その盗賊たちの背後に『突然現れた』黒尽くめの謎の存在。
『ソレ』は素早い動きで盗賊たちの首に手刀を叩き込んで気絶させていた。
「ヘレンッ!!!」
「ッ!」
仲間の声に私は我に返る。
一体私は戦闘中に何をやっているのか。
「あ」
情けない声が漏れる。
目の前には敵が放ったであろう炎の塊が迫っていた。
このまま飛んでくれば間違いなく頭部への直撃コース、私の体は硬直してしまって動かない。
おそらくあっという間に私の頭部は爆散してしまうだろう。
その一瞬で私は死を覚悟した。
ドォンッ!!
爆発の衝撃が私を襲う。
しかし爆発は私の頭を吹き飛ばす事はなかった。
私に直撃する前にどこからか飛んできた何かに当たって爆発したのだ。
私は物体が飛んできた方向を確認する。
するとそこにはこちらに向かてくる大男が居た、風貌から盗賊の一味かと身構えるが、そうだとすれば私を助ける必要がない。
「おい! 援護するなら集中しろ!!」
大男は私に向かってそう叫んだ。
Side「ミーシャ」
俺は時間を停止して馬車に襲いかかる三人を無力化していた。
ゴットンが斧を投げ付けて攻撃を相殺したのは少し驚いたが。
ゴットンには道中作戦を指示してある。
ゴットンを主力部隊の前衛と派手に戦わせて注目を集める。
その間に俺は後方に控えるであろうリーダー格と厄介な魔道士、弓兵を戦闘不能にする手はずだ。
この戦闘で俺に与えられた『幻想を具現、使役、行使する能力』を試そうと思う。
ここまでの道中にもちょっとしたテストはしていたが戦闘面でどの程度使用が可能かは不明だ。
この能力は大まかに言うと『俺の思う幻想を召喚する又は自身の能力として使用できる』という能力だ。
具体的には
『過去に存在した忘れられた存在』
『今はまだ存在しない未来の物(空想や妄想)』
『都市伝説やホラー・怪談などの化物の召喚と下僕化』
と言った物だ。
こう聞くと『僕の考えた最強の〜』的な能力かと思うがそうでも無い。
『質量、大きい物を召喚するにはかなりの魔力を消費する』
『未来の武器や兵器などの空想の産物を生み出そうとすると正常に使用できなかったり、暴発・爆発を引き起こす、しかも魔力消費が尋常じゃない』
『妖怪などの生物を使役する場合は召喚中ずっと魔力を消費し続ける』
『大まかにしか理解していないものは魔力の消費量が増加する』
等である。
しかし、いい面も存在する
『材料が揃っている物は魔力の消費量が減少する』
『第二次世界大戦程度の時代の物なら忘れられた(忘れられつつある)幻想として召喚可能』
『「戦車」という幻想では無い物は召喚できないが「三式中戦車」と言う個体名なら召喚が可能』
『召喚された車両は新品であり、弾薬、燃料等は満タンの状態で召喚される』
『物体に関しては召喚時の魔力消費だけで永続消費は無し、魔力を使用する事で物体を消すことができる』
『召喚された物から一度でも脱着された物は別の物として認識されるので個別に消さねばならない』
等である。
召喚するたびに新品が出現する(それでも骨董品だが)為に整備の必要がない事。
弾薬などは一度積み下ろしをすればいくらでも補充が可能な事。
じいちゃんが孫の俺に特殊部隊や諜報員も真っ青な技術、知識を叩き込んだ為に操作に問題はない事。
じいちゃんが元帝国軍人の為に第二次大戦時の陸海軍の武器兵器に精通していること。
すでにマントの下、ズボンのベルトには召喚した南部式大型拳銃(弾倉に8発+1発)が差し込まれているし、腰にくくりつけた袋には予備の弾倉が3つと九七式手榴弾が2つ入れられている。
さらに恐ろしいことに戦車や船舶の可動部以外の装甲に時間停止を施せば九七式中戦車の紙装甲だってドラゴンの一撃をも耐え凌ぐことができる(まぁ、質量的に良くて横転、最悪空の彼方に吹っ飛ばされるとは思うが)。
魔力さえ増えれば妖怪と兵器をを大量召喚して軍事活動も夢ではない。
この能力は境界線があいまいだったりで俺の意思や解釈でどうとでもなる。
個人的にはせっかくのファンタジー世界なので『魔法使って俺TUEEEE』がしたいのだが現状通常の魔法が使用不可能なので諦めるしかあるまい。
残りの盗賊は10人程度だが油断はできない。
側面に伏せていた弓兵がゴットン達に向かって弓を射る。
しかしそれは無意味だった。
ヒュッ! スカンッ!
飛翔した弓は空中で見えない何かに弾かれ地面に転がる。
他の奴らには見えていないだろう。
『そこ』には俺が召喚した日本妖怪「ぬりかべ」が立ちふさがっているのだから。
某妖怪漫画では当たり前の様に姿を現しているが「ぬりかべ」は街道などに現れ『見えない壁』として旅人を邪魔する妖怪なので姿は見えない。
とりあえず俺は混乱する弓兵に接近し手刀を叩き込んでおいた。
13.10.17 誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます。




