第十九話「ダークエルフちゃん いあいあ」
今回、悪ふざけが過ぎたか?
怒られたら直す(´・ω・`)
「どうしてこうなった・・・」
俺はただ一言そう呟いていた。
まず状況を説明しよう。
戦闘が終わったと見るや馬車の中から商人と思わしき小太りのおっさんが飛び出してきた。
そのおっさんは俺とゴットンを交互に見ると
「ば、馬車は差し上げます!わ、私は近くの村に向かいますので!さ、さよなら〜!!!」
とか言い残してすっ飛んで行ってしまった。
護衛も残したままでだ。
まぁ、早い話が
『ゴブリンに襲われてたと思ったらもっとおっかない盗賊に襲われていた。な、何を言ってるかわからねえと思うが、俺も何を言っているかわからねぇ』
状態である。
で今に至る。
とりあえず死んでしまった護衛を埋葬して、怪我をした護衛の様子を見てやった。
回復魔法で矢が刺さっていた傷は既に塞がっているが疲労のせいか眠っていた。
「で、どうする?」
俺は残りの護衛に声をかけた。
まだ若い(俺が言うのもなんだが)青年だ。
「お、俺は次の村に向かう。とりあえず落ち着けるところまで一緒させてくれないか?」
青年の言うことも最もだ、こんな所にけが人と二人でほっぽりだされたらある意味『死ね』と言っている様な物だから。
「・・・わかった、じゃあ次の街まで護衛を頼む」
とりあえずは同行を許可する。
「だ、旦那!!」
すると馬車の中身を確認していたゴットンが大きな声を上げた。
「なんだ?」
俺は馬車の中を覗き込んだ。
そこには一人の少女(いや幼女か?)5、6歳位の女の子が座っていた。
髪の色は銀色、瞳の色は燃えるような赤で肌は褐色、とんがった耳が印象的だ。
首には文字の掘られた首輪が付けられ、ボロをまとい、手を縛られている。
「ダーク・・・エルフ・・・?」
そこにはファンタージでお馴染みのダークエルフが座っていた。
「旦那、こいつ奴隷だぜ」
「奴隷・・・」
俺がそう呟いた時だ、護衛の青年(名前をカッシュというらしい)が後ろから声をかけてきた。
「そいつはさっきの商人の商売道具だ、馬車の所有権をあんたに譲ってたからその奴隷もあんたのもんだぜ」
この国では奴隷は珍しい物ではない、犯罪を犯して奴隷に落ちた者、金を作るために自ら奴隷に落ちた物、または盗賊や戦争で奴隷にされた者、奴隷の子として生まれた者、多種多様だ。
もと現代日本人である俺には縁の無かった存在に少し戸惑いを覚える。
「おまえ・・・名前は・・・?」
俺は少女にそう問いかけていた。
しかし、少女は答えない、ただ首を横に振るだけ。
「?」
「無駄だよ、首を見てみな」
カッシュに言われ少女の首を見てみる、そこには刃物で付けられたであろう大きな切り傷があった。
申し訳程度に治療されているそれは大きな傷ではあるが既に生命活動に支障はない程度に回復している、しかし声を発することができなくなっているのだろう。
こうなってしまっては魔法による回復はできない。
もともと回復魔法は細胞を活性化させ治癒能力を強化するのが一般的だ。
腕を切られれば、切られた腕をくっつけて回復魔法で繋げる事もできるが、あくまで繋げるだけ。同じように動かせる様になるにはそれなりのリハビリが必要になる。
折れた骨を治すにはその骨があった形になるように向きを修正してやらないといけない、折れたままで魔法を使えば折れた向きにくっついてしまう。
切り傷や傷穴であれば活性化で塞ぐことができるが、もう治ってしまっている首の傷は魔法ではどうにもならない。
「あんた、この子の事をどれだけ知ってる?」
俺は情報を得るためカッシュに聞いてみることにした。
「ああ、そいつは生まれながらの奴隷なんだよ。親が奴隷だって商人が言ってた。奴隷の子なら名前なんてもんは無いし、首がそれなら魔法も期待はできないだろうな。ただ、ダークエルフは能力として『無音』と『隠れ身』それから『鳥類使役』の技を持っているらしいからそのへんは使わせてみないとわからない。読み書きなら奴隷としてある程度は教えられてるはずだが」
「なんだそのダークエルフの能力って」
聞いた事のない能力が出てきた。
「『無音』はそのまま、術者の周囲の音を消す能力だ。『隠れ身』は周りに溶け込んで姿を見えなくする。『鳥類使役』は周りの鳥なんかに命令ができる能力だな、術者によっては意志の疎通ができるらしいが」
それを聞いて俺は少女に向き直る。
「ちょっと能力を使ってみてくれるか?」
そう言うと少女は頷き、おもむろに馬車の床を叩き出した。
「?」
たしかに少女は床を叩いている、しかし叩いている音は聞こえてこない。
俺はこれが『無音』かとカッシュに確認を取ろうとするが。
「―――。ッ!?」
口がパクパクと動くだけで音が出ない、喉は震えているはずなのに口から出た瞬間に消滅するような感覚だ。
このままでは声が出せないので少女に止めるようにジェスチャーする。
すると少女は床を叩くのをやめた。
「・・・あ、あー。うん、声は出るな。今のが無音か。他には何ができる?」
すると少女は目を閉じて集中しだした。
「マジか・・・」
俺の目の前で少女は少しずつボヤけていく、おそらく魔法で認識をボケさせているのだろう。
最終的にはほとんど認識できないくらいまでわからなくなってしまった。
「もう、いいぞ」
そういうとフッと目の前に少女が現れる、ちょっと心臓に悪い魔法だな。
「あとは・・・」
他の技を聞こうとしたとき、外から二羽の鳥が舞い込んできた。
灰色と黒の鳥、二羽は少女の肩に乗ってひと鳴き
「カー!」「ミー!」
「あー、鳥類使役も使えると・・・」
俺は飛び込んで来た二羽の鳥を観察する・・・。
あれ?これは・・・ほんとうに鳥なのか?
黒い鳥はまず間違いなくカラスだ、明らかにデカいのと足が三本ある以外はカラスだ。
・・・つか、これどう見ても八咫烏だよね?太陽神の使いだよね!?
そしてもう一羽。
灰色のウロコに覆われた体に、コウモリのような羽、馬のような頭・・・ちょっとドラゴンっぽい・・・。
どう見てもシャン○ク鳥じゃねーかあぁぁぁ!!!
不用意に乗って飛んだりしたら『語るも悍ましく、冒涜的で名状し難いフルートの音』が聞こえてくる事間違いなしである。
い、いかん、今頭痛どころか正気を失いそうになった・・・SAN値が減るってこういう事か。
果たしてコレは有りなのだろうか・・・教えて偉い人・・・。
「わ、わかった・・・えっと他は」
そう問いかけると少女の手首から先が変色し始めた。
おそらくだが皮膚を別の物質へと『変化』させている様だ。
「なるほど・・・変化の魔法か・・・あれ?」
少女の手首から先は黒色に変化しており硬化している。
つまり炭素を・・・・・・。
「待て待て待て待て!!!!どこの人造人間!?それ強欲の人だよねぇ!?」
「だ、旦那?落ち着いて!」
「お、おう・・・」
この少女が行っているのは『変化』の魔法の一部である。
例えば食塩水を分離して塩と水に分離して塩を沈殿させるなどの変化を起こすのがこの魔法。
逆にこの世界では食塩水を作るのに塩を水に入れて混ぜるのではなく『合成』の魔法を使って混ぜるのが一般的だ。
魔法が一般的な世界だからこその常識であろう、逆に現代日本の常識は非常識にあたる事になる。
要するにこの少女にただしい知識を与えれば、電気分解を電気なしで行うことができるし、蒸留するための道具もいらない、物体から不純物を取り出すのも魔法を使えば一発だ。
「人体に使用すれば某顔に傷がある男みたな攻撃も可能なわけだ・・・」
なにげに凄まじい逸材を拾ったのではないだろうか。
「旦那、名前でもつけてやっちゃどうだ?」
忘れていた、奴隷には名前が無いんだった。
「ダークエルフに付ける名前なぁ、ダークエルフってどんなイメージなんだ?」
俺の問いにカッシュが答える。
「あぁ、まぁダークエルフの特殊能力がアレだからなあ、一般的にはコソ泥とか隠密とかあんまり大きな声じゃ言えない仕事をしてる奴が多いな。一部では『這いよる〜』とか『闇夜に蠢く〜』とか言われてるな」
明らかにアレじゃねーか!
「・・・はぁ、わかったよ、コイツの名前は『ニャル』だ」
いあいあ言ってる教団に目を付けられたり、見たら気が狂う様な本読んだりとか、勘弁して欲しいんだがねぇ。
こうしてまた一人仲間が増えてしまった。
(ニャルはニャルで喜んでるし・・・まぁ、いっか)




