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第十八話「実践ですよ」

 俺は襲われている馬車に向かいつつゴットンに指示を飛ばす。


 場所は林とそれに並行するように走った街道。一本だけ街道側に飛び出して成長した木に馬車が突っ込み、それをゴブリンが襲っている。


 馬車を襲っているのは緑色の肌をした頭でっかちのチビな化け物だ、おそらくRPGやファンタジーで言うところの『ゴブリン』というやつだろう。数は5、錆びた短剣とロングソードで武装したのが2、棍棒を握ったのが2、弓兵が1。相手の布陣は馬車を囲うように手前に棍棒が2、馬車の向こう側に剣が2、そのさらに奥、林の中に弓兵の配置だ。

 ゴブリンどもは襲った人間から奪ったであろう劣化した防具や布切れをまとっていた。


 馬車の周辺には護衛と思わしき冒険者が数人、鎧装備の長剣使い、足元にはさっきまで戦っていたであろう死体が1体、微妙にうごめいている怪我人が1人。あとはゴブリンの死体が少々。


 対してこちらの装備は


 ミーシャ武器:無し

        防具:網代笠(頭)、旅人の服(体)、黒のマント(肩)、普通の靴(足)

 ゴットン   武器:でっかい斧

        防具:盗賊っぽい服

                                          以上


「ゴットン、お前は手前の二体を殺れ。俺は先に奥の弓を殺る」


 相手はまだこちらに気づいていない、最初の弓矢はただの流れ弾だったようだ。


「だ、旦那!?・・・ええい!ままよ!!」


 ゴットンが武器を構え手前のゴブリンに突っ込んでいくのを見送った後、俺は近くに落ちていた尖った棒っきれを拾いちょっと細工を施しておく。

 俺と弓兵との距離は走って行くには遠すぎる、遮蔽物がろくにない街道、加えて弓兵の絶対的射程、ゴブリンの弓の腕はわからないが護衛の腕と足を射抜く程度には良いようだ。


「『ゲート』」


 俺は空間魔法を発動、自分の目の前の空間と弓兵後方の空間を繋げる。時間を止める魔法で近づくには範囲が広すぎる。

 目の前の空間にはポッカリと穴が空き、そこには無防備に後ろ姿を晒すゴブリンが写っていた。

 そのゴブリンの体を指差し違う魔法を発動する。


「『ウォール』」


 俺が発動した魔法壁は本来、防御の魔法である。しかしその内容がとてもエグい攻撃になる。


 『ウォール』は指定した範囲に全ての物を遮断する結界を展開する。『ボックス』の魔法と違うのは、形状、それから結界に付く設定の違いだ。『ボックス』は気体・個体・液体の通過・遮断を指定できる。

 そして『ウォール』で作成された結界はあらゆる物質に内側から割り込む様に出現する。


 つまり、壁としても万物を切断(分断)する刃とも使える。


「ッ!!!」


 結果、弓兵ゴブリンは体を真っ二つにするように形成された結界になんの対処もできず、縦にパカンと割れて死んだ。


 俺はゲートをくぐり、剣で武装しているゴブリンの後ろから突っ込む。

 体を強化し、『ヘビィ・グラビティ』で重くした足で短剣装備のゴブリンの頭を蹴り抜いた。

 蹴られたゴブリンの頭は首がちぎれ、ボールの様に地面と水平に飛んで行き木の幹に叩きつけられて紫の花を咲かせた。残された胴体は少し時間を置いて、思い出し方のように紫色の液体(おそらくゴブリンの血だろう)を吹き出す噴水となった。(もちろんそんなのが掛かるの嫌だから既に距離はとってある)


 護衛の冒険者達はまったく状況が分ていないのか呆けている。ゴットンの方を確認すると既に棍棒ゴブリンの一体の頭をかち割り、現在二体目のゴブリンの肩を叩き切っている所だ。すると護衛の一人が俺の後ろに目を向けて何か叫んだ。


 後方から残りの一体、長剣ゴブリンが斬りかかってくる。


「キギイイイィィィ!!!!」


 耳障りな叫び声。俺は手に持った棒キレを掲げ一撃を受け止めようとする。普通なら錆びていてボロボロとはいえ相手は長剣である、棒キレなどへし折られて俺は頭をカチ割られるだろう。


 しかし


 ガギィン!


 棒キレは見事にゴブリンの一撃を受け止めていた。

 護衛たちがありえない物を見るような目でこちらを見ている。

 まぁ、こんな『非現実』を見せつけられて呆けない方が珍しい、ゴブリンでさえ目の前の現象がありえない物だと混乱しているようだ。


「阿呆が・・・」


 そうつぶやいてゴブリンの剣を弾き飛ばす、ゴブリンはその衝撃で大きくよろめいた。

 俺は棒キレを逆手に持ち替え大きく振りかぶり・・・そして・・・。


 メギィッ!


 棒キレはゴブリンの眉間を貫通して後頭部から飛び出していた。

 ゴブリンはだらしなく口を開けたまま地面へと崩れ落ちていく。


 昔、「戦場では『恐怖』と『迷い』に囚われた者から死んでいく」ってじいちゃん言ってたっけなぁ。

 実際、5歳の時に裏山に放り込まれた時に「冬眠明けの熊VS大猪VS俺」なんて状況になった事もある。もちろん俺が真っ先に死にそうになったけど。


「戦場で呆けるとか・・・獣でももうちっとマシな行動するだろうよ」


 俺は崩れゆくゴブリンの胴体を蹴り飛ばし距離を確保する。

 じいちゃんが言ってた「例え相手が死んても、『既に死んでいても』警戒を怠るな」って。


「まぁ、呆けるのも無理はないんだけどねぇ」


 誰がクソ重たい剣撃を『ただの木の棒』で防げると思うのだろうか。

 俺は戦闘前にこの棒に細工を施していた。


 『時間停止』である。時間を止められた物体は『絶対に壊れない』、形状も変わらなければ、汚れる事も、もちろん朽ちることもない。絶対的な強度を誇る。つまり伸ばしたハチマキでも剣を受け止めれるし、腕力があれば叩きつける事も切り裂くこともできる。某一号生筆頭みたいな事ができる。


 俺はこっちを見て唖然としている護衛に一言。


「ボケっとしてないでけが人の手当なり周囲警戒なり動け」


 その一言を聞いた瞬間、護衛はハッとした様に動き出した、けが人の手当をする様だ。

 この場合一番怪しいのは俺なんだけど、・・・後で注意するか。

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