第一話「灰色の空の下で」
冷たい風が頬をなでる。
体は毛布か何かに包まれていてあったかい。
俺はどうなったのだろうか、あれで命があっただけでも相当運が良かったのだろう。
なら、今は救急車で搬送しようとするところだろうか・・・。
にしては走行時独特の揺れはないが。
体からは特に痛みは感じない。
まぁ、人間許容量を超える痛みは感知しないからなぁ。
にしてはあたりが異様に静かなのも気になる。
サイレンとか聞こえてもいいのに。
俺はうっすらと目を開けてみた。
さっきと同じ灰色の空、搬送中ではない様だ。
だがどこかが違う気がする。
・・・そうだ、灯りがない。
ホームの灯りも、救急車の赤色灯も、ビルの灯りも、何もない。
まるで世界に俺だけになったような錯覚。
周りの様子を確認するために首を動かそうとする。
こんな時は下手に動かない方がいいんだろうが、それよりも周りが気になる。
・・・動かない、首も足も腕も動かない。
やっぱりかなりの重症なのだろうか。
そんな時、ガラガラと大きな音が聞こえてきた。
その音は俺の近くに止まる、同時にヒヒィ〜ンという馬の鳴き声。
(う、馬ァ!?)
既に訳がわからん、馬だぞ?馬!?
人参が好きなアレ!?
聞き間違いかと疑った、だって様子は変だけど駅にいたはずだ。
しかも現代日本で馬って・・・なんの冗談って話だよ!?
すると足音がこっちに向かってくる。
(誰でもいい、助けてくれ!)
声を上げようとするが口がうまく動かない!
「――?・・・―――――!」
すると足音の方から聞いたこともない声が聞こえてきた。
なんだ?何を言っている?日本語でおk。
どんどん混乱していく、状況は明らかに悪化してる。
足音がすぐ横まで来た、男性のようだ。
少し老けている、ジェントルといった感じがしっくりくる男だ。
鼻の下には白いヒゲ、シワが増えてきた顔、頭には短く切りそろえられて白髪。
修羅場でもくぐって来たのだろうか左目には大きな傷跡がある。
なんとなくだが歴戦の老兵とか英国紳士とかいうのがよく似合う人だった。
(すまない!状況を教えてくれ!!)
そう叫ぼうとした時だった。
「・・・うぁ、あうぁあっ」
(んあ?今の誰の声・・・・・・俺っ!?)
そう、それは自分の体から発声されたものだった。
するとそのジェントルメンは俺を抱き上げる。
ちょっと私22歳ですよ?腰やっちゃうよ?ギックリいっちゃうよ!?
そんな心配をよそにその老人は軽々と俺を持ち上げた。
(あ・・・れ・・・?)
抱きかかえられて老人の背後を見れるようになったとき信じられない世界があった。
馬車1台と鞍の付いた馬が2頭、それから林、舗装されていないむき出しの地面。
遠くには山々が見える、それから西洋の鎧を着込んだ男が二人、腰には西洋の剣だ。
馬車の横にはこの老人の奥さんだろうか優しそうなおばあさんがこちらを見ている。
(こ・・・ここ・・・どこだよおぉぉぉぉぉぉ・・・・)
声に出せない俺は心の中で大絶叫をしていた。
灰色の空からは雪が舞っていた・・・・・・
13.10.17 誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます。