第百二十六話「魔を奪う石」
「回想中逃げるなんて聞いた事ねーよ!」
「名乗り口上中に襲い掛かって来る並みにルール違反ですね」
「許せるっ!」
この時、ミーシャ意外に寛大。
なんて言ってサニー中尉
批難していたのだが、廊下の方から多数の足音が聞こえて来た。
老執事が兵士を率いてやって来たのである。
「旦那様、ご無事で……うぉっ!?」
執事と兵士達は部屋に入ると私が手に持っている箱を見て動きを止めた。
「な、何をしている!? 旦那様はどこだ!?」
「あぁ!? 知らねえよ? 急にいなくなった」
私は執事の上からな態度に若干機嫌が悪くなったので箱をポンポンと投げて遊びながらぶっきらぼうに答える。
すると執事は顔を真っ青にした。
この箱って何かヤバイ系?
「わ、わかった!
わかったから、とりあえずその箱を粗末にあつかわないでくれ!
ゆっくり、ゆっくりと下に置くんだ!」
「えーっ? せっかく手に入れたのに〜?
中尉、パス」
「はい」
「「「うわぁぁぁっ!?」」」
私がサニー中尉に箱を投げた瞬間、兵士達は我先にと部屋を飛び出して行った。
執事は腰を抜かしてへたり込んでしまっている。
「ふむ、何かいろいろ書かれていますが、私には普通の箱に見えますね。
術式は……制御系でしょうか?」
サニー中尉は受け止めた箱を眺めてそう言うが、それを見ていた執事は顔を白黒させて今にも死にそうだった。
見た目、気持ち悪い柄の箱なんだけどな〜。
「そ、それはただの箱でも、呪いの道具でも無い!
それの中身は魔奪石の高圧縮結晶体だ!」
「サニー中尉、魔奪石って何?」
「はい、魔石の原石と行ったところでしょうか。
原石は付近から魔力を吸収し、容量いっぱいに貯まれば魔石として魔力を取り出すことが出来ます。
但しこれには小さくとも数年からの時間を要します、これは石が吸収する魔力が微々たるものだからです。
しかし、稀に周囲から膨大な量の魔力を吸収する原石が見つかるそうです。
早い物でも数百年の時を掛けて魔力を貯蔵し、いっぱいになるまで周囲の物質、生物の区別なく魔力を吸収する為、原石の付近では魔法がいっさい行使できない、なので魔奪石または吸魔石と呼ばれています。
満タンまで吸魔した原石は超最上級の魔石として国宝に指定されているものが僅かにあるのみですが」
「そ、そうだ。しかし、この付近で手に入る魔奪石は魔法妨害など生易しいものではない!
最悪、付近の生物は魔力を全て吸い取られ死にいたる程だ!
死にはせずとも身動き一つ儘ならぬぞ!」
「ふ〜ん」
私はサニー中尉から箱を受け取り。
おもむろに。
箱を。
開けた。
「んなぁっ!?」
「今の話、聞いてましたっ!?」
しかし、ミーシャに電流走るーー!
「こっ、これはっ!?」
付近からは小さな悲鳴が聞こえるが、私の放った一言は……。
「なんか飛○石っぽい!!」
「「「そこ!?」」」
どんなヤバイ物が入っているのかと思ったのに小さな小さな鏡がついた蓋と飛○石ぽい小石が納められたコンパクトミラーもどきなただの箱だ。
ちょっと期待外れ、もっと悪魔ハンターのオーブっぽい感じの石をイメージしたのに。
この石、色は黒っぽい青だ。
「な、なんとも無いぞ? 術式の誤作動か? いや、そんなハズは……」
執事はブツブツと何か言っている。
しかし、現に周りの全員がピンピンしているのだから仕方ない。
ただ、気になることが。
「中尉、一ついいかな?」
「なんでしょう閣下」
「この石、なんかめっちゃ魔力吸って来るんだけど?」
この言葉にアイシーがズッコケた。
てか君、居たんだね。
「さっき話したでしょう!? ってどういうこと!? まさかあんたが周りのみんなの分まで負担してるってこと!?」
「そうっぽいわ。なんかピンポイントでガンガン吸い取ってくるもんコレ。 我慢出来るけど怠いわ」
そう言って私は箱を閉じて中尉に渡した。
アイシーは呆れ果てた表情で怒鳴ると言う器用な事をやってのける。
「あんたどんな魔力総量なの!? やっぱあんた化け物だわ!」
「いやぁ〜〜」
「褒めてないっ!」
そう言った瞬間、数回の連続した爆発音と揺れが屋敷を襲った!
部屋の窓から外を見れば屋敷の兵士や使用人達が我先にと逃げ出している。
「か、閣下!! まさか爆発物まで!?」
「ち、違うぞ中尉!? 派手に暴れろって言ったけどおまえらそんな物まで仕掛けたの!?」
「バカを言うな、ここに来るまで地下の牢屋とワインセラーでしか暴れてないだろう!?」
確かに、言われて見れば隠し通路の出口のワインセラーと地下牢以外は無視してここに来たのだ、爆発物を仕掛ける時間など無かった。
ではなぜ?
すると腰を抜かしていた執事がわなわなと震え出した。
「ば、バカ者!! そこはワインセラーなどでは無い!! 魔導爆弾の地下保管庫だ! 貴様ら、そこで魔法を使ったのか!?」
「そりゃあもう、バカスカと」
ここで説明をしておこう。
魔導爆弾とは魔石や特殊な素材を配合した、いわば魔法の火薬を使った爆弾である。
火薬と違うのは火がついても爆発はせず、濡れても湿気らない。
魔力の入力があってはじめて炸裂する爆弾だ。
しかし、付近の魔力には敏感なため、付近で魔法を使えば反応を起こして爆発する。
また、爆発しなくても付近の魔力が高いままで放置しても爆発する。
起爆には数秒の間がある。
つまり侵入時の戦闘のせいで今ごろ爆弾が爆発しているらしい。
「つか魔導爆弾ってガゼル帝国空爆隊の爆撃装備だろ! てめぇどっから仕入れた!?」
「旦那様が手に入れたものだ! 防衛時にカタパルトで打ち出す予定だった!」
「そのカタパルトの目標は帝国軍じゃなくて王国軍だろうが!」
私は執事に詰め寄ろうと動いたが、その時、また大きな爆発が起きて倒れてしまった。
迫ってくる床に手をつこうと腕を伸ばしたのだが、腕は床をすり抜けた。
「んなぁっ!?」
驚愕に声を出しのも一瞬、そのまま緩く曲がった穴を転がり落ちる。
どうやら領主はこの滑り台のような抜け穴から逃げだようだ。
私は途中で手足を伸ばして何とか停止した。
「くそぅ、入り口を幻影の魔法で隠してたのか……」
『総統閣下ーーっ! ご無事ですかーーっ!?』
穴の上の方からサニー中尉の声が聞こえて来る。
「大丈夫だーー! 危険だから先に逃げろー!」
『しかし閣下がー!』
「私は別の出口を探すからー!」
『了解しましたーっ!』
サニー中尉の声を聞いてゆっくりと降りようかと思った時、また爆発が起きる。
すると上の方から何かが流れて来る音が聞こえてきた。
まさか。
そう考えた瞬間に私は水流に飲み込まれていた。
この時、私は知らなかったが屋敷にある小さな池の底が抜けて、水が地下に流れ込んだようだ。
(私は排泄物かーっ!)
悪ふざけでしていた大泥棒のマネが現実になった瞬間であった。
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「ゲホっ! ゲホゲホ! ……い、生きて……る? へっくしっ!」
私は薄暗い洞窟の中で目を覚ました。
どうやら水は一時的なものだった様で、その水も排水用の小さな横穴に吸い込まれていった。
洞窟内は自生しているヒカリゴケの様なもののおかげでぼんやりと明るく、天然の洞窟を人の手で補強したそれは比較的真っ直ぐに伸びていた。
私は緩やかな下り坂になった洞窟をゆっくりと降りて行く。
洞窟内を進むほどに魔力が奪われる量が増えている。
「くそっ、魔法や召喚はそうそう使えないか」
懐からモーゼルC96、つまり拳銃を取り出して構えた。
頼れるのは銃と己の体術だけだ。
洞窟内に銃弾を装填するジャキッという音が響く。
しばらく歩くとかなり広い空間に出た。
そこは地下空洞であり中央には地底湖があり豊富な水が鏡面の様になっている。
そして天井はまさに満点の星空に見える様な不思議な光景だった。
ヒカリゴケの光と湖面の光を受ける天井は複雑な形の鉱石が光を反射して煌めいている。
そして、ふと思い出した。
見たら死ぬ手鏡と地下宮殿の伝説。
つか手鏡の方は箱の蓋の裏側が鏡だっただけで石の方が原因だし。
しかし、これは確かに地下宮殿と言うべき美しさだった。
「き、貴様! 追いかけて来たのか!?」
突然の声にとっさに銃口を向ける。
そこにはフィーリア家当主である……あー……まぁ、領主が居た。
ヤツは呪文のびっしりと書かれたローブを着て壁際の岩を動かそうと汗だくで押していた。
押していた、と言うか、今まで頑張ったけと岩がビクともしなくてへたり込んでいたと言うか。
「なぜローブ無しで活動ができる!? この場所は魔奪石の鉱脈の様なものだぞ!」
どおりで魔力の減りが凄まじい訳である。
「しかし、私もおまえも、もう終わりだ。この空間に長く留まれば、神の呪いで命を落とす。脱出路が塞がっていなければこんなことには……」
領主が肩を落として落胆した時、洞窟全体が揺れた。
しかし、それは館の爆発にしてはあまりにも大きく、また中央の湖面も先ほどと打って変わって激しく波立っていた。
「まさか土地神様が戻られたのか!? 土地神『リンドヴェウグ』様が!」
領主の叫びと共に、湖底から浮かび上がる黒い影。
それは湖面を突き破り、水しぶきと共に姿を現した。
そこに現れたのは翼の生えた大蛇であった。
一瞬ペットのオロチと見間違いかけたほど巨大な蛇、リンドヴェウグは私を見て一目散に突進して来た。
咄嗟に回避をするが、リンドヴェウグはそのまま壁に突っ込み洞窟を揺らす。
「おぉ、神よ!」
「言ってる場合か!? 早く逃げねぇと二人とも生き埋めだぞ!!」
私は領主に走り寄り、襟首を掴んで走り出した。
なけなしの魔力で肉体を強化すればおっさん一人くらい引きずれるのである。
目指すは入ってきた通路だ。
「ぐ、ぐぇっ!? は、はにゃせ! 首が絞まる!!」
「うるせぇ! 出てこい『煙々羅』!」
さらに魔力を使って妖怪を呼び出した。
煙の妖怪、煙々羅である。
突然、何もない空間から煙が立ち上ったと思うとそれはリンドヴェウグにまとわりついた。
これでヤツは何も見えないハズだ!
しかし、次の瞬間、鋭い水の矢が私の左足を貫いていた。
「うあぁっ!?」
一瞬の激痛にもんどり打って倒れる。
領主のおっさんは勢い余って前に飛び出し地面に激突していた。
煙々羅によって視覚も嗅覚も失っているハズだ。
なぜ私の居場所がわかったのか、聴覚か!?
「り、リンドヴェウグ様は魔力を探り当て、さらに魔力を喰らう! だから私はリンドヴェウグ様には見つからないし、リンドヴェウグ様にとって貴様は生贄にしか見えぬだろう! 貴様の終わりだ小娘! はっはっはっはっ! ……はぎゃあっ!?」
「あぶねっ!」
高笑いしていたおっさんは、リンドヴェウグが放った尻尾の一撃がたまたま当たって通路まで吹き飛ばされた。
もちろん私は転がって回避をしたが。
多分、あのおっさんは気を失っているだろう、死んではないと思う、たぶん。
「くっ! 『震々(ぶるぶる)』!!」
さらに新たな妖怪を呼び出す。
リンドヴェウグはいきなりぶるぶるっと身を震わせたかと思うと仕切りに背後を気にし始めた。
妖怪、震々の仕業である。
背筋がゾッとするのはヤツの仕業なのだ。
また間違って食べたりすると凍死するらしい、ってネズミの半妖が言ってた。
さぁ、今のうちに匍匐前進で退却だ!
しかし、妖怪『震々』を向かわせたのは失敗だった。
背筋がぶるぶるっとしたリンドヴェウグはやたらめったら攻撃をし始めた。
天然の洞窟があんな水弾の嵐に耐えられる訳もなく、地下宮殿はあっさりと崩壊したのだった。
私と共に。




