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第百二十五話「彼女は自由な押し込み強盗」


「では、主人がいらっしゃるまで、少々お待ちください」


 老執事はそう言って退出しました。

 私達、王女一行は今、領主の館で領主との話し合いを前に応接室でお茶を飲んでいます。


「王女が来たならば普通は玄関まで出迎えに来るのが常識だろうに」


 背後に控えるサニー中尉はそう言って怒っていました。

 この家の姉妹は緊張した面持ちでこちら側の椅子に座って待っています。


 そして予想外の出来事が。


「ちょっとミーシャちゃん? 本当に救出作戦の方、大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫」


 この自称魔王の少女はひょっこりと帰って来たのです。

 しかも奴隷を連れて。


「大丈夫大丈夫」


「それはさっきも聞きました!」


「まぁまぁ」


「ヒルフェ様も何で奴隷なんかになっているんですか! しかも何で普通に奴隷として買われているんですか!」


 もう一つの予想外はミーシャちゃんが買って来たのが他国の王族だった事、しかも知り合い。

 かなり前にですが、私はヒルフェ様と私の誕生パーティーでお会いした事があったので。


 するとドアが開き、中肉中背の中年が入って来ました。

 彼はゆったりとした足取りで対面のソファに腰を下ろしました。

 ハゲかけた頭部以外は特徴のない貴族です。

 この男こそ、フィーリア家当主にしてフィーリア領主。

 その名前は……。


「……あ〜。お名前なんでしたっけ?」


「はっはっはっ。姫様、お戯れを」


 私の言葉に領主のこめかみがピクリと動きましたが、彼は話を続けます。


「この度は我が家の娘を見つけてくださり感謝いたします、姫様」


「それはついでですよ。本題は侵攻した敵軍がこの領地を素通りした事、家老であるゴンザエモンがこの街で消息不明になっている事。この二つについてお聞きしたい」


「はて、どちらも分かりかねますな。敵軍の侵攻は当領では無く隣の領では無いのですか? 私は増援依頼も受けて居りませんし、当領地に敵軍が侵入した事実もありません。その証拠に我が領地では必ず発生するはずの敵軍の略奪も無ければ、小規模な戦闘すら行われていません。他領の話であれば我々は相手領主の許可が無い限り他領への兵士の出入りは厳しい罰があるので増援も出せないのです」


「白々しい、敵国からラウ大橋まで一切の抵抗がなく、敵軍の侵攻速度から物資の提供までしていたのではないか? この周辺全ての領主に国家反逆の疑いがある。貴殿の場合は既に証拠も上がっているがな」


 サニー中尉の言葉に領主は鼻で笑うとこちらを睨み付けて来ました。


「一体何を。第一、君は何者かね? 貴族に向かって気安く話しかけるなど」


「今は王女の護衛任務中だが。反逆者を捕らえるのも私の任務だ」


 そう言って中尉が一枚の紙を差し出し、机に置きました。


「これは?」


「数日前、この街を上空から偵察したものだ。これがこの街、ここがこの館。そして街から離れたこの位置、街からも街道からも地形の影響で死角になる位置に謎の集団が写っているだろう? この写真ではわからないが、こちらの拡大した写真には敵軍の軍旗がはっきりと写っている。敵軍は間違いなくこの街に接近し、近くで野営していたはずだ」


 安全保障上、我々はナナル王国領空の飛行を許可されている。

 この偵察飛行も安全保障の為の必要な行為であり、我々の義務だ。


 その後にサニー中尉が言った言葉を要約するとこうでした。

 そんなに国内を飛び回られると困るんですが……。


「では、フィーリア辺境伯。貴方の言い分を聞こうか?」


 サニー中尉の言葉にフィーリア辺境伯の顔が歪みます。


「……仕方ありませんね。しかし、こうなるのも又必然でありましょう」


「何を……っ!」


 サニー中尉がホルスターから拳銃を抜こうとした瞬間。


「”動くな”」


 辺境伯がそう発した途端、我々の身体はピクリとも動かなくなってしまいました、まるで金縛りです。


「敵地で勧められた椅子に座るなど、言語道断。仕込んだ魔方陣は上手く機能したようだ」


 辺境伯は座ったまま、勝ち誇った笑みを向けて来ます。


「姫様、貴方は我々にとって姫様でしか無いのですよ。国王陛下の病死で、なあなあの内に王女の椅子に収まった貴女などね。だから付近の貴族は皆、見切りを付けた。今更、訳のわからん連中を味方に付けたところで、この大勢は変わりますまい。ならばこちら側が有利なうちに……そう考えるのは当然でありましょう」


 辺境伯は机に置かれたベルを手に取り、鳴らしました。

 これでこの家の者がすぐにやって来るでしょう。


「姫様は手土産として利用させて頂きますよ。他の者は、そうですな。土地神様の生贄にしましょうか。本来なら我が娘と不足分に奴隷でも充てようかと思っていたのですがね。ちょうど良かった」


 辺境伯は懐にスッと手を入れました。


「抵抗などはしない事ですな。怪しい動きをすれば、この木箱の中身が貴方たちに死を振りまくでしょう」


 取り出したのはびっしりと魔方陣が書き込まれた小さな木箱でした。


 私達がその木箱を怪しんでいると入り口が勢い良く開き、一人の幼いメイドが飛び込んで来ました。

 金髪の少女は慌てて辺境伯に駆け寄ります。

 あれ、あのメイドの少女、どこかで……?


「だ、旦那様! 大変です!」


「何かね、騒々しい。兵士はどうした?」


「そ、それが地下牢に侵入者が! 兵士は皆さん侵入者の撃退に行きました!」


「何だとっ!?」


 途端、入り口のドアが水平に吹き飛びました。

 するとそこには。


「ゴン爺! ……あっ、動ける!」


「姫様!?」


「ジョーカー! パイル! あんた達ついて来ていたの!?」


「「あの黒髪に無理矢理連れて来られたのっ!!」」


「くそっ! 衝撃で拘束の魔方陣に歪みが出たのか!? き、貴様ら動くな! 動けばこの箱を……」


 辺境伯が慌てて小箱を私達に向けました。

 しかし、次の瞬間、さっきのメイド少女がその箱をヒョイとひったくります。


「何をするっ!? 貴様、何者だ! 我が家にお前の様なメイドは居ない!!」


「喚くな喚くな、変態伯。火傷すっぞ?」


 そのメイド少女はおもむろに髪を掴むとソレを放り投げました。

 そして、フワリと揺れる黒髪が現れます。


「おぉ〜れの名は◯パ〜ン三世〜!」


「み、ミーシャちゃん!?」

「総統閣下!?」

「えっ!? でもこっちにも居るじゃない!?」


「ボケは総スルーっすか……。フッ……。そいつはタダの……ソックリさんだ!」


「「「えぇ〜〜〜っ!!?」」」


「いやー、ジョーカーは流石にちみっ子ながら泥棒してないよねー。中々の変装術だよ。いやホント。そこらにあるもんでサクッと金髪カツラ作っちゃうんだもんな」


「よせやい」


 ジョーカーと呼ばれた少年は照れ臭そうにしていました。


「おまえ、ウチの諜報部に内定確定だから」

「ふざっけんな! 誰も頼んでねーよ!?」


「きっ、貴様ら、いい加減にしないか!」


 とうとう辺境伯がキレました。


「貴様らどこから入って来た!? 兵士は何をしている!!」


「この屋敷の警備ならそこのジジイとデブガキとマッチョエルフが美味しくいただきました。あと入って来たのは隠し通路からね」


「なにぃ!?」


「秘密の抜け道なんて造るのが悪いのさ」




******




 ナターシャ達が館に向かうちょっと前。

 街の入り口付近の路地裏。


 薄汚いボロ屋の前に二人の人間の姿があった。

 片方はそれなりに良い鎧を身に纏い、片方は分厚いコートに身を包んでいる。

 鎧の方はまさに男装の麗人、コートの方は深く被った帽子のせいでよく見ないが女性の様である。


 鎧の騎士がボロ屋のドアをノックした。


「すまない、貴族御用達の酒場とはここか?」


 するとドアに付けられた覗き穴が開き店員がこちらを見た。


「すいません、ウチは会員制になります。お引き取りください」


「まいったな。奴隷商のホーデクから紹介してもらったんだが。辺境伯に贈り物をと思ってね。ここなら誰にも邪魔されないで品質のチェックが出来ると聞いたんだがな」


 騎士はそう言って隣のコートの女性を見た、


「……どうぞ」


 ただそう言うと店員はドアを開けた。


「いやぁ、助かる。中々デリケートな品でな。こういう落ち着いたところで無ければチェックも出来ない」


「失礼します。店内では武器の所持は禁止されています。腰の剣をこちらへ」


「あぁ。わかったよ」


 騎士は腰の剣を素直に差し出した。


「そちらのお嬢さんも」


「おいおい、冗談だろう? 大切な商品だ。そう気安く触られては困るな」


「しかし、規則ですから。せめて上着の下だけでも改めさせいただきたい」


 店員は真面目そうに言うが、その目にはいやらしい光が見える。


「仕方ないか。おい、見せてやれ」


 騎士がそう言うとコートの女が上着に手をかける。

 店員はその様子にニヤけた顔を晒した。


「きっとびっくりするぞ?」


「えぇ、きっとびっくりしますね」


 コートの女はそう言うと不敵な笑みを浮かべる。


「なんたって、出血大サービス。鉛玉でおたくのドル箱イッパイにしてやっからよ!!」


 女性が脱ぎ捨てたコートの中から肩車をした子供が現れた。

 そう、私がミーシャちゃんなのだー!


 一番上に私が、下にジョーカーとパイル。

 下二人の手にはシカゴタイプライターでおなじみのトンプソンM1927マシンガン(100連ドラムマガジン)が握られていた。


「ダンスパーティーだ!」


「「レッツパーリィー!!」」


 瞬間、酒場の中を不可視の暴力げ暴れまわった。

 鳴り響く銃声、店内の石壁に当たる鉛弾の音、弾けて飛び散る木製のコップ。

 カウンターの向こうの酒樽は穴だらけになってジョロジョロと酒を垂れ流す。

 天井から下げられた灯りのランタンが無惨にも弾けとぶ。


 店奥の扉が開き、用心棒共が飛び出して来た。

 私はズボンに差したモーゼルC96二丁を抜き、用心棒の腕や脚に弾丸を叩き込んでいく。

 用心棒というにはあまりに統率が取れ、尚且つ上等な装備のそいつらは次々と無力化されていった。


「やめろ! やめてくれ!! お願いだぁ!!!」


 店主とおぼしき太った男がカウンターの下から悲鳴をあげていた。


「撃方やめー! 撃方やめーっ!!」


 私は下の二人を大声で止める。

 すると店主が這い出して来た、他の店員や疎らにいた客は蹲って震えている。


「な、なんだ! 何が目的だ!? 金なら無いぞ!!」


「トボけるんじゃねえや! ここに領主の館への抜け道があるだろう!?」


「な、何のことだ!?」


「だいたいおかしいとは思わないか? この店は街の出入り口の近くで見つかり難い裏の道にある。そんな怪しい酒場に私服姿の領主の兵隊が昼間から出たり入ったりするなんて怪しさ満点だろうう?」


「な、何でおまえがそんなことを知っている!?」


「さすが奴隷商も商人だ。ちょっと握らせたら満面の笑みで教えてくれたよ。この酒場からちょっと言えない様な奴隷を領主の館へ送ってるってね。地下の抜け道もバッチリ」


「あのクソ野郎!!」


「まぁ、そう言ってやんなよ。店主は雇われで店はアンタのだって事も聞いてる。これ以上荒らされたくはないだろう?」


「冗談じゃない! 俺が殺されちまう!」


「う〜ん。テュッケさ〜ん!」


「うむ」


 私が名前を呼ぶとテュッケはあるものを取り出した。

 テュッケがスライドを引き、ガシャっと音がする。


「な、なんだそれは!?」


「チャイナレイク。グレネードランチャーってもわからないだろうな」


「なに、いやに風通しの悪い店なのでな。ちょっとした善意で通気穴を開けてやろうと言うのだ。なに改装費は必要ないぞ?」


「テュッケ。そっちの壁なんて良いんでない? 弾は3発もあるんだから天窓もこしらえてやろうか」


「なるほど、それは良い」


「良いわけあるか! ふざけんじゃねぇぞ!!」


 店主が吠えた瞬間、テュッケは躊躇無く引き金を引いていた。

 あまりに躊躇がなさ過ぎてちょっと引いた。

 シュポンっと気の抜ける様な音を立てて飛び出したグレネードは放物線を描いて飛び、店の一角で炸裂した。

 残念な事に当たったのは石の壁、他の場所なら木製の壁だったのだが、多少壁を削った程度であった。


「思ったより硬いな」


「RPGもパンツァーファウストもあるぞ? 大穴が開くまでぶちかましてやれよ」


「わかった、わかったからやめてくれ! 入り口は地下室の本棚の裏だ! 何処へでも勝手に行ってくれ!!」


「人間素直が一番だよね」


 店主が泣きながら教えてくれたので皆で地下へ向かう。

 しかし。


「あと2発あるし、壁に穴を開けてからでもいいか?」


「テュッケ、勘弁してあげなよ」


 不服そうなテュッケを引きずりながら領主邸を目指したのだった。




******




「ということがあったのさ」


「相変わらず派手ですねぇ」


「ちょっと! お父様が居ないわよ!」


「あのハゲ、回想中に逃げやがった!!」


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