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第百二十二話「西大陸のエルフ」


「タッケェっ!!」


「とは言われましても……ものがものですので……」


店主はお茶まみれの顔を拭いながら話す。

どうやら最初のアプローチ(成金ごっこ)がマズかったようだ。

たぶん金貨800枚PON☆っと出すと思われてる。


「お嬢様、こちらはかなりの優良物件ですよ? 頭数では人種には負けますが個別能力はピカイチです」


「エルフは好きだが……」


「エルフがお好き? 結構結構。ならばなおさら好きになりますよ。さぁ、良くご覧になってください。亡国の王女とその護衛騎士です。優雅で凛々しいでしょう? んあぁ、言わないで。没落した王族と没落した騎士、でも人属の騎士や魔導師なんて数だけで身体はヤワだわ、魔力は少ないわ、すぐ欲に走って裏切るわ、ろくな事はない。精霊魔法も属性魔法もたっぷりありますよ、戦闘から生活までどんな場面でも大丈夫。どうぞ近くに来て触ってみてください、良い肌のハリとツヤでしょう。余裕と自信の肌だ、胸囲が違いますよ」


「一番気になってるのは」


「なんです?」


「(女騎士の)腹筋だ」


「ああ、何を! ああ、ダメ! ここで抱きついちゃダメですよ! 待って!」


店主に羽交い締めにされた。

うわぁー、目の前に褐色肌のシックスパックがあるのに!

美女の腹筋があるのに!


「さーわーらーせーろー!」


「ダメですよ! あまり暴れないでください! 用心棒が働かなきゃならなくなる!」


すると壁際に佇んでいた筋肉質な男5人が近くに来た。


「嬢ちゃん、オイタもいい加減にしときな。小娘一人なます斬りにするくらいスライムを斬るようなもんだぜ」


「こら、お前たちやめないか」


「口と態度ばかりデカいド素人ばかり良くもまぁ集めたもんだ」


「「「「「なにぃ?」」」」」


「お嬢様、彼らは数多の修羅場をくぐった凄腕です」


「ただの飾りだな。私なら瞬きする間に全員無力化できる」


「まさか貴女の様なお嬢さんが、脅しですか?」


「いんや、事実さ。まぁ、いい。この二人、いや騎士のお姉さんをちょっと試させて貰おう。店主、彼女と手合わせしたいから広いところへ、それと発言の自由も許してやって。なんかいろいろ言いたそうだから」


「は、はぁ……」


店主は渋々ながら彼女達に発言を許可した。

そう、その彼女はさっきからめちゃくちゃ睨んで来るのだ。


『なんだ、この小生意気なちんちくりんは』


そう目が語っているのだ。

鋭い視線の彼女はゆっくりと口を開いた。


「なんだ、この小生意気なちんちくりんは」


「予想と一字一句同じじゃねーかぁっ!!」


はっ!

いかんいかん思わず惚れ惚れする様な手首スナップの効いたツッコミを入れてしまった。

ちょっと跳ねるのがミソな。


「こちらにおわす方、ヒルフェ様は大森連の姫君だぞ! この様な扱いが許されると思うのか!」


彼女、テュッケはかなりお怒りの様だ。


「ミーリャ、大森連ってなに?」


「……へ? は? えぇっ!?」


わからない言葉が出て来たのでミーリャに聞いてみた。

すると、なんで私にいきなり振るんですか!? とでも言いたげにテンパりだした。

この子からかうと面白いかもしれない。


「なんだ? 『なんで私にいきなり振るんですか? バカですか?』とでも言いたげだな」


「ぴゃっ!?」


私が言うやミーリャは変な声で鳴いた。

どうやら、言いたかったらしい。


するとエルフの白い方、ヒルフェが口を開いた。


「コホンッ! それは私から。大森連、正式名称『大陸森林組合連邦国』とは南部戦線上にあった大森林を国土に持つ森林連邦国家でした。最初はエルフの集落が集まって生活エリアである森林の整理と自衛を行う森林組合が生まれました。やがて組合が集まって組合を纏める連合会が生まれました。そして連合会は付近の国家と対等に渡り合う為に連邦国へと進化します。こうして大森林は国家になったのですがガゼル帝国の侵略の際に中小国家なら幾つも入る様な広大な大森林も焼かれ

各組合長もバラバラになり国家としては消滅しました」


「国家としては?」


私はヒルフェの言葉に疑問を覚える。


「はい、連邦の首都たる聖大樹の街は焼け落ち、国としての機能は消滅。大森林の大半は灰や煤で

真っ黒で、焼け焦げた木炭が乱立する廃墟になりました。しかし、エルフの大部分が今だ、灰に、木に、土に、廃墟に潜み抵抗を続けているのです」


「ゲリラ戦か……。上手く支援すればベトナム解放戦線みたいに行くか? いや、相手は帝政でしかも議会が弱いみたいだからな……世論が反戦になる事自体が無いか……」


「?? ヴィエッナーム? なんですそれ?」


「いや、なんでもない。つかなんでやけに綺麗な発音?」


「いえ、そう聞こえたもので……」


と、そんなことを言っていても始まらない。


「それより! 私はこの黒い方の実力が知りたいの!! じゃなきゃ買わないかんな!」


私はテュッケを指差して言う。

せっかく買うんだからちゃんとした人材を買いたい。

するとテュッケの眉間にキツイしわが寄った。


「ぬしゃ、アタイば女子(おなご)じゃ見うて勝てう思っとうか!?」


「……へ?」


テュッケの口から飛び出したキツイ訛りに思考が一時停止した。


「テュッケ、故郷(クニ)の訛りが出てますよ。えーっと『あなたは私が女の子だと見て、勝てると思っているのですか?』と言っています」


ヒルフェがすぐに翻訳してくれた。

(表現上エセ九州訛りですが異世界語です)


「いやだから実力を測りたいだけだって「やぜらしか! ギばっか言うな!」喋らせてよ!」

「『うるさい! 屁理屈を言うな!』と言っています」


「ぬしゃ、いい加減にしとけよ、だらが! そげにちびんちょか小娘ん相手に遅ればとるわけがなかか!」

「『あなた、いい加減にしなさい、馬鹿者! そんなに小さい小娘を相手に遅れを取る訳が無いじゃないですか!』と言っています」


「姫様、完全に翻訳する人になってるね。いや、助かるけど。しかし彼女口悪いね」

「テュッケは怒ったり気分が高まったりすると素が出るので」


「姫! いらんこつ言わんでよか! ぞげんこつどげんでもよかこっじゃ! おもさんうちあうど!」

「そろそろ落ち着いてくれない!? 鹿児島の人がアップ始めちゃうから!」


すると店主がゆっくりと口を開いた。


「お嬢様、宜しければ他の奴隷にされては? と言っても借金奴隷しか残っていませんが」


さすがに店主もテュッケを売るのを躊躇ったようだ。


「えー、借金奴隷ねぇ」


「ええ、最近一部で『チンチロリン』なるサイコロ博打が流行っていまして。それで負けて借金を作った者が二十人ほど、だいたい一人金貨二十枚前後、借金の多い者は金貨百枚もおりますが」


「チンチロ流行ってんの!?」


「ま、まぁ中庭に移動しましょう。借金奴隷の牢も道中ですので」


店主の言葉に私達はしぶしぶ(テュッケはやる気満々で)移動を開始した。


途中、借金奴隷の牢に立ち寄り中を見る。

私は瞬時に判断した。

『こいつらは買わない』と。

中に居るのは二十人、全て男。

奴隷なのだから目は死んでいるが、それだけではない、もっと強烈な邪気、負のオーラ。


「どうでしょうお嬢様。労働などには向いているかと」


店主のその言葉に男達が一斉に食いついて来た。


「この娘は金を持ってんのか!?」

「買え! 俺を買え!! 倍にする! 倍にして返してやる!!」

「ふざけるな! 金はな、金はこいつみたいなガキが持ってて良いもんじゃねぇ! 俺みたいなしっかりした大人が持ってるべきもんなんだ!」


男達から次々と上がる怒号。

やれ、俺を買えだの、倍にするだの。

次から次に……。


「黙れ……ひねり潰すぞ……クズども……!」


「「「「!!!??」」」」


「甘えるなよっ……! 貴様らが失った金は命と同義っ! 元来……貴様らの様な負け犬どもには価値も権利も……無いっ……! なにもっ! いっさいっ! 全てっ!!」


私は後ろの奴隷三人を示して続ける。


「見ろ! 彼女らには、私に買われるだけの価値が……奴隷と化した今でもまだ、存在する! それは容姿であったり、技能、存在であったり。 貴様らはどうだ、労働力としてもお粗末、何も生み出さず、成し遂げず……ただ……ただ食料と金を消費しつづけるだけの害虫っ……! 貴様らがすべきことは……媚びっ、諂いっ、主人の庇護欲を、利益を、快楽を与える……ただ、それだけっ! 貴様らはその全ての条件を満たしていない! 安くないんだ……金貨百枚……一千万と言う金はっ……! 世間は、私は、貴様らの保護者ではないっ!! 人間の……生物のクズを取り立ててやる必要など……ないっ!」


「…………」


「考えても見ろ商人を。幼少期から学び、コネを広げ、頭を下げてまわり、鉄火場に飛び込んで仕入れをして、街道を死に物狂いで商品を運ぶ。商品を持ち込んだ街では税を取られ、護衛には金を払い、所場代を収め、同業者とシノギを削って売りさばく。売り上げも税で多額が差っ引かれ、帳簿とにらめっこしながら節制する。そうやって何十年と掛かって貯まる金が一千万なんだ! 貴様らはその命とも呼べる金を……人生とも呼べる金を……サイコロと一緒にドンブリというドブに投げ捨てたのだ! 人間は平等などでは無い! 貴様らはその不平等の上にあってなお……自ら貧困に突き進んだのだっ!!」


困惑……圧倒的困惑っ……!


その場の誰一人として口を開けない程の威圧!


言い返せない……娘ほどの少女の暴言に……誰一人として……反論できないっっ……!


「くっ……悔しいっ……!」


悔しい!


「悔しい!」


悔しい!


「悔しい!」


だがそれでいい!


この屈辱こそ彼らを再起させる燃料であるのだ。


「店主……王都から船が出ている……そこならコイツらを買い取ってくれるだろう。その船こそが……最後の希望っ……希望(エスポワール)だっっ……!!」


私はそれだけ言い残し、その場を離れた。

背後からは奴隷達の嗚咽が聞こえてくる。


彼らが……奴隷が……皇帝を討つ時が来るのだろうか?


(皇帝って……私じゃね?)


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