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第百二十話「私だってたまには街で遊びたい」


「いや〜、なんかあっさり来ちゃったね」


私は今、アイシーの実家がある地方都市の前に居る。

もちろん、ズボンにシャツ、上着といたって普通(そこ、イモいとか言うな。私はスカートが嫌いなんだ)の格好だ。

もう二度と魔王少女なんてするものか。

サニーが国家社会主義労働者党の党首のおじさんみたいな服を用意していたが丁重にお断りした。


この地方都市は要塞都市のようで中央に領主のいるだろう砦のような屋敷、周りに民家や商館などの家屋、それらを囲う円形の壁と四方に出入り口という感じだ。


周りにはアイシー、シーアさん、アイシーの付き添い、ナターシャ、サニー中尉がいる。

ちなみにわざわざ用意した馬車の前に一度降車して話し合っている。


味方もちゃんと居て、武装親衛隊の戦車5輌とバイク部隊が離れた場所の林の中に潜んでいる。

さすがに戦車で街に近づいたら大騒ぎになるからな、街の外で待機してもらっている。


ちなみにラーテは植物の汁まみれになった為に本国へ送り返された。

キャタに植物巻き込んでたしね。


本隊は未だ戦場で後片付けの真っ最中だ。

いや、だいたい予想はしてたけどあれほどの大惨事になるとは。

先の戦いは史上最大、最悪の戦死者数を叩き出した。

敵側の管理にも問題があるが敵兵の大半が爆発四散しているので身元の特定が出来ず、死者・行方不明者共に集計不能。

戦場はあちこちが陥没し、血肉が散乱し、人肉の焼け焦げる臭いとか内容物の臭いが漂っていた。


今頃は重機が総出で死体をかき集め、火炎放射器や火炎放射戦車が燃やす作業に追われているだろう。

彼ら彼女らがPTSDに陥らないことを祈るばかりだ。

一応、首が残ってる者は全部集めて弔って首塚も建てるように言っておいた。

捕まえた司令官と副司令官には酷だけど死者の身元確認をしてもらっている。

彼らにとっては拷問と同じだろうから拒否するなら拒否したで無理にはさせないように言ってある。


「しかし、堂々と表から入って大丈夫でしょうか……」


「大丈夫だ。こんなこともあろうかと……」


私はナターシャに一通の手紙を渡した、といってもこれは写しの方だが。

内容は今回の件について王女自ら出向く旨を書いてある。

原本は既に配達済みで相手方も待ち構えてるんじゃないかな?

勿論、速達(航空機を使って使者を送った)。

しかもちゃっかり王家の印もパク……ゲフンゲフン……(無断で)借り受けて押してあるのでまさに本物。

こ、国家絡みの場合は犯罪にはならんのだZOY!


「いつの間にこんな物を……」


「んふふ、戦いとは二手三手先を読まねばな」


「ノリと勢いだけで人生を生きてる様なヤツがよく言うわ」


アイシーがなんか言ってるが。

まぁ、とりあえずだ。


「つーわけで、ナターシャ達は表から堂々と入ってね。私は裏から入るから。中尉はこれ」


そう言ってある物を渡す。


「閣下、コレは?」


「ガスマスク。顔とか肌とか見られて魔族ってバレたら大騒ぎになるでしょ?」


手渡したのは顔全体を覆う全面タイプのガスマスクだ。

口元にキャニスターが付いて眼の部分にのぞき穴が空けてあるアレ。

それを見て中尉は微妙な顔をしていたが……。


「はぁ、しかし、閣下。刺客である三人組に情報を聞き出さなくてよろしかったのですか?」


中尉の言葉に私は思いっきり顔を顰めた。

だって長男が変態なんだもん。

弟達は兄の魔法で喋れなくなってんだもん。

いろいろ聞き出そうとはしたが、言葉だけでは口を割らない。

仕方なく肉体言語での会話を試みたがあの変態である、喜ぶだけだった。

しかも肝心な時に限って、ヴァルヴェルトのヤツが草の汁塗れになって風呂に行ったので居ない。

逆に疲れ果てた私は適当な部下に丸投げして来たのだった。


「ヤダ、アイツ、ツカレル」


「なぜ片言なのです?」


「とりあえず! 二時間後くらいに騒ぎを起こして爺を連れ出すから、ナターシャ達は領主達の注意を引いて。できれば決定的な反逆の証拠でも掴んどいて!」


そう言って私は結界で作った足場を蹴って都市の中に飛び込んだのだった。


「ちょっと! どこ行くのよぉぉぉ〜!!!」


アイシーが叫んでいたが。

気にするな!




******




「あっはっはっはっはっ! これでやっと自由に探索が出来るわぁ! あっはっはっはっ!」


私は大笑いしながら大通りを闊歩していた。

周りにいる人からの『なんだ、こいつ……』的な視線も全く気にならない。


東の大陸を追い出されてからこの方、ヤマトでは書類仕事に追われ、学校に行けば何故か教師として働き、またヤマトに帰っては書類仕事に追われていた。

いわばこれは、ちょっとした休暇のようなものである。


え、じいさん?

多分、大丈夫じゃねーの?

もとはといえば、妹姫を止めようと剣を抜いて謹慎処分を受けてた権左ェ(じいさん)がのこのこと敵地に乗り込んだのが原因だし。


聞くところによると、家老として煙たがられてはいるけどかなり慕われてるらしい、あのじいさん。

だから、反逆罪で打ち首にならずに謹慎処分だったみたいだけど。


だからこそ、ここの領主にとって価値がある。

ヤマト・ナナル連合が敵を押し返し始めた今、じいさんはナナルと取引する丁度いい人質だ。

殺されることは無いだろう、多分。


そんなことを考えながら歩いているとふと一軒の店が目に入った。

店先には大きな檻が備え付けられている。

なにか獣でも売っているのかと中を覗いてみると、ソレと目が合った。


歳は8か9くらい、髪は黒く、目も黒い。

ずいぶんと薄汚れて痩せ細っているが、どこかで見たような美少女だった。

目のハイライトが消えた死んだ目の少女は幽鬼の様に檻の向こうに佇んでいる。


あれ?

これ私じゃね?


「「……………」」


見つめ合うことしばしば。

私はスッと右手を上げる。

すると少女も手を上げる。

左手を上げる、少女も手を上げる。


「あ、鏡か……あっはっはっはっ」


あきらかにクリソツな少女を見て私はそう判断した。

しかし、こんなにやつれて、薄汚れて、みすぼらしいんだろうか私は。

あれか?

仕事のし過ぎか?

やっぱりたまに休まないとこうも酷い感じになるんだな。


腕を組んで私がため息を吐くと檻の向こうの少女は首を傾げた。


「………………」


それを見て私は恐る恐る檻に手を突っ込み少女の頬を引っ張る。

あ、痩せてるわりに頬はもちもち、ぷにぷにだ。


「……いふぁいれふぅ(痛いです)」


試しに自分の頬も引っ張ってみる。


「……あぁ、いふぁい(痛い)」


思考不能に陥った私はただただ立ち尽くすだけだった。

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