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第百十八話「陸の帝王、前へ」


「来るのが遅いワァーーッ!?!?」


私は地平線からラーテが姿を現わすと、搭乗して指揮を執っているヴァルヴェルトを怒鳴ろうとするが、忌々しい触手がブンブン振り回しやがるもんだからまともに声が出せなかった。


上空で振り回されるもんだから気が気ではない。

しかも、格好がまだ魔王少女コスのままなのだ。

スパッツ履いてるけどスカートだからめちゃくちゃ恥ずかしい。

また涙目になってきた。


「わーんっ! やめろーっ! 降ろせーっ! 結婚できなくなるーっ!!」


(((あんた、結婚する気あったのか!?)))


「婿に行けなくなるーっ!!」


(((あんた女だろっ!?)))


「清楚でお淑やかなイメージが壊れるーっ!!!」


(((それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?)))


なにやら非常に不愉快な念を感じたがそれは置いておこう。

とにかく何とか逃げ出さないと、あの筋肉バカの事だ、下手したら化け物ごと主砲を叩き込まれかねない。


「なによ! さっきからドッカンドッカンうっさいのよ!! 何をしてたらそんなに……って、どーゆー状況これっ!?!?」


「あらまぁ、大っきな球根ですね」


「そ、それどころじゃないですよ!?」


ふと、下を見ると。

輸送車の中で休んでいたアイシー達がぞろぞろと出て来てびっくりしていた。

いや、びっくりしてないで助けてくださーい!


「またあんたは! 今度は何をやらかしたのよ! 3分に一回は厄介ごとを起こさないと気が済まないの!?」


「なんで俺がそんなこと言われにゃならんのだ!? 俺は悪くねぇっ!!!」


「ミーシャちゃん! 気を付けてください! こいつ多分、古代獣です!」


『アイエエエエエエエエ!!!』


「だからどんな鳴き声だあアアァァァァァッ!?」


ナターシャの言葉に反応したのか化け物が触手をいっそう振り回す。

つか、なんでこいつ魔眼の魔力探知に引っかからないんだよ!


「待っておれ! 今すぐ助け出してやるわい! ガッハッハッハッハッ! 副砲、射撃準備!」


やっぱり脳筋だったヴァルヴェルトはフッツーに副武装の128mm KwK 44 L/55(早い話が12.8cm戦車砲)の射撃準備に入ってやがる。


ラーテのぶっ壊れ性能を紹介しておくが、


主武装が戦艦の主砲を流用した

『280mm 54.5 SK C/34(54.5口径28.3cm2連装砲)』

副武装がマウスの主砲である

『128mm KwK 44 L/55(55口径12.8cm単装戦車砲)』

対空装備には

『20mm Flak38(2cm4連装対空砲)』

対近装備には

『15mm MG 151/15(1.5cm機関砲)』


全長39m、全幅14m、全高11m、重量1000t。

最高速度40km/h。


と、ここまでがナチス・ドイツの計画したスペックである。


大和帝国では技術部がかなり頑張って改造を施した。

実際は重量が重過ぎてまともに移動できる陸地が殆ど存在しない為、改造によりソヴィエト海軍のエア・クッション揚陸艦のようなホバークラフト機構を備えている。

その為、移動時はエンジン出力の殆どがホバークラフトに使用されており、基本的に味方戦車による牽引で移動する。

一応、前後分割式四列キャタピラが備わっているので(当てはまる条件の陸地が存在するなら)自走可能である(おそらく15km/hも出ればいい方だと思う)。


と、殆ど連邦軍の移動司令部じみた陸上戦艦がラーテである。

主砲の斉射なんて食らえば、いや、単発であっても私は化け物ごと消えて無くなるし、例え至近弾でもバラバラになる。

下手したら発射の衝撃波だけで死ねるんじゃなかろうか。

あのヴァルヴェルトならやりかねない、てか、既に128mm戦車砲がバッチリこっちに向いてる。


「……チッ!!」


私は舌打ちを漏らし、急いで空中に魔法を展開した。

触手に絡みつかれているせいでうまく身動きが取れないが、心配そうに見上げているナターシャの視界をジャックすればお目当の位置に魔法を展開出来る。


ちなみに、一定距離内なら障害物があっても視界をジャック出来る。

視界ジャックであっても見えていれば魔法が展開できる。

これを使って戦車の中でエロ本読んでたイタリア野郎から本を奪い取ったわけだ。


それはさておき。


「空間魔法【四重防壁】!」


空中に不可視の防壁が4枚展開された。

同時に予想した射角、弾道で128mm戦車砲が発射される。


もし、弾種が通常の榴弾(HE)なら防壁1枚で被害は止まる。

成形炸薬弾(HEAT)なら防壁は3枚目まで貫かれるだろう。

装弾筒付徹甲弾(APDS)なら最悪4枚目まで貫かれる可能性がある。


さて、ここで各種砲弾の説明をしておいた方がいいだろう。



榴弾(HE)とは、

要するに爆弾である(極論)。

弾は着弾と同時に爆発(炸裂)し破片をばら撒く事で広範囲を殺傷する。



成形炸薬弾(HEAT)とは、

榴弾が爆発の威力を四方八方に散らすのに対して、その爆発力を一方に集中させた物である。

一般にモンロー/ノイマン効果と呼ばれるものを利用している。


空き缶に火薬を詰めて鉄製のジョウゴを突っ込み、火薬を爆発させる。

するとジョウゴを突っ込んだ側の威力が一点に集中し対象に穴を開ける力が増す。

これがモンロー/ノイマン効果である。


ジョウゴを突っ込んだ時の火薬の形はすり鉢状になっている。

この形状だと爆発した時、すり鉢状の面の爆発力が一点に集中する。

これがモンロー効果である。


さらに、これにジョウゴを付ける(すり鉢状に合った蓋をする)とさらに爆発力が一点に集中し威力が上がる。

これがノイマン効果である。


二つを組み合わせたのがモンロー/ノイマン効果、つまり形成炸薬弾とは化学的エネルギーで相手に穴を開ける砲弾である。



装弾筒付徹甲弾(APDS)とは、

要するに重たい弾を早い速度でぶつければ装甲突き破れるんじゃね?

しかも先っぽ尖らせとけば突き刺さるんじゃね?

という理論から作られた砲弾である。

まず、空き缶に火薬を詰める。

そこに、重金属の棒を突き刺さす、棒の先は尖らせておく。

キャップを被して見た目を良くする。

これでAPDSは完成である。

発射された砲弾は重金属の棒だけが飛んでいく、しかも先っぽが尖らせてある為に空気抵抗を受けにくい。

凄まじく早い速度で撃ち出された棒はその運動エネルギーを持って相手に突き刺さるのだ。



まさか、生物相手にHEATやAPDSは使わないだろう。

さすがにHEだろ、まさか散弾をばら撒くキャニスター弾なんかは無いだろ、絶対。


発射された砲弾は予想した弾道で飛来し結界にぶち当たる。

すると空中で爆発が起きて辺りに轟音が響いた。


やはりただの榴弾だったか?


すると空中から大量の火の塊が降ってきた。


私は咄嗟に一枚の結界を頭上に展開。

燃え盛る塊を受け止める。


「あぢぢぢぢっ! 服が焦げた! あぢぢぢぢっ!」


付近には味方も居たが其方には被害は無かった様だ。

よりにもよって徹甲炸裂焼夷弾(HEIAP)かよ!


徹甲炸裂焼夷弾は爆破する火薬と燃える火薬、そして相手に突き刺さる芯を搭載した一つで三つの要素を持つ特殊な砲弾だ。

つか、いつの間に作ったんだそんな弾!

そんな弾をバカスカ撃たれたら丸焦げになっちまう!


すると火に驚いたのだろう、運が良い事に右手の拘束が緩んだ。

これはチャンスと右手に刀を召喚する。


「大和流剣術【無無明斬(むむみょうざん)】!」


刹那に放たれた多数の斬撃は絡みつく触手を一瞬で細切れにした。

拘束が解かれた身体は重力に従って落下を始める。


「よしっ! 脱出成こおおぉぉぉぉっ!?!?」


『アイエエエエエエエエッ!!!!』


と同時に後方からの衝撃に吹き飛ばされた。

古代獣の咆哮は衝撃波を産むらしい。


「ぬおああぁぁぁぁぁ!!!」


咆哮と重力によって落下する私は近くの林の中に落下…………しなかった。


私が接近するや、林は陽炎の様に身をよじると姿を消し、ただの野原が姿を表した。

そこには黒い様な紫色の様な微妙な色のローブを纏った人が3人。

そこで私は確信した。

いや、まぁ、球根お化けの視界がジャック出来なかった時点でアレがただの化け物じゃないとはうすうす感じてたけど。

どうやらアイツらが元凶の様だ。


身体を捻って体勢を整え、私は驚愕の表情を持って見上げるローブ集団の一人の顔面に着地した。



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