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第百十四話「言ってなかったけど石の橋」


橋崩落のちょっと前。


「おーおーおー、好き勝手撃ちやがる……橋に当たるんじゃあ無いだろうな?」


「まるで地獄絵図ですね」


私が双眼鏡を覗いていると、隣でナターシャが呟いた。


まぁ、確かにアレだ。

あまり見たい光景では無いな。


相手方は対岸の斜面に布陣している。

それも10万の兵隊が橋を渡ろうとギュウギュウの密集隊形を取ってるもんだから、撃てば当たる。

なんか昔にあったストラックアウトてゆーの? 的抜きってゆーの?

なんかあんな感じで味方が吹き飛ばしたトコを避けて弾を打ち込む試合になってる。


相手は混乱してて魔法による攻撃も弓の斉射も無いのだから完全なワンサイドゲームだ。

まぁ、上級魔法の反撃ならともかく弓じゃあ戦車の装甲は抜けない。

一部、直上からの弓に弱いオープントップの車両は後方で援護射撃中で弓の射程外だし。


先頭車両なんか前に向かって適当にバカスカ撃ちながら進むだけだし。

多分あれ装填手の疲労パネェんじゃないかな?


しかし、第四師団は練度が高いな。

密集度が高い場所に的確に砲撃してる。

第二師団に至っては命中が高いとか以前に数の暴力で対岸の地形変えてるから比べるトコが違うし。

第一、第三師団は機銃掃射でバタバタと薙ぎ倒す方にシフトしていた。

一方、こっちの先行部隊は。


「だからちーがーうってば! もちょい下! ちゃんとシュトリヒ考えて! 違う違うもっと右! あー、なんつーかなぁ、その、砲塔の旋回にポリシーが無いんだよなぁ……。言っとっけど砲撃は哲学だよ? あやとりと一緒で」


新兵に砲撃練習させる位は余裕があった。

つっても目標は生身の人間、良心の呵責だかなんだかが無いわけじぁあないけど。


「……こんな、こんな戦いがあって良いんでしょうか。なにも無いじゃないですか、華やかさも誇りも、敬意さえも……」


ナターシャが不満気なと言うか、不安気なと言うか、渋い顔して問いかけて来るけど。

わかるけどさ、これ戦争で、ここ戦場なのよね。


「……遠距離射撃武器ってさ、無いわけよ、現実味(リアリティ)がさ。指先をちょっと動かすだけで、人が死ぬんだもんな。まぁ、この世に現実的な戦争なんてありゃしないんだろうけど。じゃなきゃあ、私みたいなパンピーが戦場で正気でいれるわけねーし。あるいはもう狂ってんのかもしんねーけど。


でも、それでも、誇りはあるさ。敬意だってある。

だからこそ、日頃から軍には言ってるんだ。

相手にだって家族も居るし、恋人だって居るかもしれない。結婚してるかもしれないし、子供も居るかもしれない、いや、今日この瞬間にも奥さんが産気づいてるヤツだって居るかもしれない。

お前達は猿やカカシを倒しに行くんじゃない、人間を殺しに行くんだ、いや、猿だって生きてんだから殺すからには猿にも敬意払えよ。ってな。

ま、だからって殺されてやる事は無いわけでさ。


昔、偉い人が言ってたじゃん、『国の為に死にに行くんじゃない、国の為に死にたい敵兵を彼らの国の為に死なせてやりに行くんだ』ってさ。


まぁ、要するにだ、自分でも何が言いたいかよく分かんなくなって来たって事だ」


「今までの話は何だったんですか!?」


「なんとなく察しなさいよ。誇りや敬意は大事に〜でも命と平和はもっと大事に〜的なニュアンスで何となくフワフワと受け止めときなさいよ」


「めちゃくちゃシリアスな感じだったじゃないですか!?」


「この私が真面目な事を言えるわけないじゃない、キャラじゃないの。そーゆーのは他の真面目な作品に任せりゃあいいの」


「作品って何ですか!?」


「何でもない何でもない。とにかく全員生きて帰る事。本国に帰ったら全員にスゲェ屋の牛丼特盛り、味噌汁とトロロワサビトッピングを奢ってやる!」


「あ、あの〜……」


ナターシャと空気を読まない会話をしていると戦車の中から声が聞こえた。

あ、忘れてた。


「あ、悪い悪い。えーと、砲術長ー! お手本見せたげてー!」


私は砲術長ことジェームズ・ランボーン中尉を呼んだ。

ちなみに砲術長とは本来軍艦の役職であり、これは彼のあだ名だ。

二つ名は『激怒』、ご存知特別訓練帰りのエリートである。

本来、彼は戦車兵では無いのだが、特別訓練のおかげで殆どの陸戦兵器は使いこなせる為に私の護衛として来ていた。

彼、ゲリラ戦が得意だから役に立つと思うし。


ランボーン中尉は僚機の八九式中戦車から無線で返事をして来た。


≪了解です。 おい半人前! よぉく聞け!

いいか! 俺とお前の八九式には特別にドイツ製の照準器が装備されている!

測距には『目標の大きさ÷照準器の(シュトリヒ)×1000m』だ!

敵兵は約1mの大きさで2シュトリヒにある! とゆう事は相手は約2km先に居る! 後は目標距離(レンジ)を合わせて照準が下がった分、仰角を上げる!

これで砲弾は山なりに飛んで行く!


後は予測射撃だ!

八九式中戦車の九◯式五糎七戦車砲は初速約355.3m/s。

つまり2km先に着弾するのは約6秒後だ!

重い鎧を着た兵士の時速を約10kmとすると着弾するまでの6秒間に16.68m進行方向へ移動する。

2000mだと1シュトリヒは2m、『移動距離(16.68m)÷シュトリヒ(2m)=未来位置(8.34シュトリヒ)』

つまり進行方向に8-9シュトリヒ程度ずらせばいい。


それと照準器は大体砲身の横に付いている。

このせいで着弾点がクリアランス分ズレるのを忘れるな!


後は勘と熱意の勝負だ! 気合い入れて撃ちゃあ必ず当たる!! よく見ておけ、橋の上で慌てふためいてる敵兵にぶち込んでやる! ≫


最後の言葉で今までの説明が台無しじゃないか!


今、私達は味方戦車の邪魔になると思って橋からだいぶ離れてる。

私が使ってる日本軍将校用KAIKOSHA6×24双眼鏡の1000m視界が110〜130m(つまり、1km先の相手が110〜130m先に居るように見えるって事)だから人間なんて識別出来ん。


「……ん? おい! ちょっと待て!!」


私が止めるのが遅かった。


≪往生せいやああああぁぁぁぁ!!!!≫


ランボーンの叫びと共に、八九式の砲身は既に砲弾を吐き出していた。

橋の上の敵兵を狙ったら橋にも当たっちゃうじゃん!

案の定、発射された砲弾は(弾速が遅いせいで肉眼で確認できた)山なりに飛んで行き、見事に壊走している騎兵隊に着弾した。


「ちょっと! 橋が砕けちゃいますよ!?」


ナターシャの叫びもよくわかる。

私も慌てて着弾点を確認する。


「大丈夫だ、橋はまだある」


貫徹能力の低さに定評のある日本製の戦車砲が幸いしたのか橋に大きなダメージは無いが。


「……ランボーン」


≪……はい≫


「減俸」


≪はい≫


「橋が崩れたらどうすんだよ! まだダメージが軽微で助かったけど……」


私は無線越しにランボーンを叱咤していたが。


「総統閣下、その橋ももうすぐ無くなりそうです」


「あん?」


見張り員その1の声に橋を確認する。

そこには……。


既に橋を渡り始めようかという超重戦車マウスがいた。

おい、馬鹿やめろ!

総重量100トンクラスの戦車が渡れる訳がないだろう!

つか、シュノーケル付けたら水に潜れるんだから川の中を渡れよ!


私の叫びも届かず、マウスは橋の上に乗り。


ゴシャアアアァァァァ!


とゆう壮絶な音と瓦礫と共に橋は崩壊した。

原因のマウスは橋から転がり落ちて勢いで『ズズゥンッ!』と車体を地面に埋めてしまっている。


「ちょっと待て! 100トンもあるアレ、どうやって引き上げるんだよ!!」


あまりの出来事に搭乗員の心配や作戦の心配より後片付けの心配をしてしまうのも無理はないと思う。


「閣下! これでは後続が渡れません! 敵兵が渡った直後の戦車に殺到してしまいます!」


「橋が無くても潜水して渡れる戦車は順次渡らせろ! 後続車両は援護射撃! 工兵は歩兵が渡れる程度で良いから崩落した部分を修復! 急げ!」


対岸を見ると川を渡り孤立した戦車が奮戦していた。




******




予想外の事態に川を渡りきった戦車達は一瞬呆然としてしまいました。

私達、第一師団所属Ⅳ号戦車J後期型通称『鮟鱇戦車』も川を渡りきったところでした。


「ちょっと! マズイよ!? 橋が落ちちゃった!」


通信手の眞鍋さんが慌てた声をあげます。


「西泉車長殿! このままでは包囲されてしまうであります!」


装填手の秋元さんもかなり取り乱していました。


「……私達はこの位置を死守し、味方の上陸を援護します! 電さん! 肉薄されない様に砲撃を緩めないでください! 霊泉さん! 魔法攻撃が予想されます、回避行動を!」


「足元が悪い、速度は出せないぞ?」


「構いません、相手の注意を引ければ大丈夫です」


「わたくしは魔導兵を優先します。機銃援護をお願いします」


「わかった! やってみる!」


こうして私達の孤独な戦いが幕を開きました。



毎回、感想欄を楽しみにしている作者です。

個別の返事は出来たり出来なかったりですが……。


オロチの見せ場は必ず有るよ!

もうちょっと待ってね!

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