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第百九話「陸軍戦車祭り開催中!」



「……いやー、いきなり連れてかれた時は人攫いかと思ったよなぁ、ははは」


ハナが後頭部を掻きながら笑う。


場所は大和帝国中央司令部応接室。

帝国中枢の応接室とは言っても高級な調度品があるわけでもなく、3人掛けのソファーとガラス製の机、対面に1人掛けのソファーが二つあり、部屋の隅には植木が置いてある様な一般企業の応接室まんまな部屋だった。

しかし、王国の一般市民から見れば派手派手しい装飾こそないもののどの品を見ても一級品だ。

たとえこの品々がミーシャによってポンと出された大量生産品であり、もとは倒産企業の処分品であってもこの世界の人々から見れば超が付くほどの高級品なのである。

少年二人はソファーの柔らかさに興奮気味だ。


「その件については申し訳ない。完全にこちらの不手際だった」


メアリは頭を下げて謝罪をするが、ウィルダーが逆に驚いて声を上げる。


「いやいや、飛び出したのはこちらですし。医者に見せてもらったうえに我々まで此れ程の高待遇を受けるのは申し訳なくも思います」


王国では馬車などで人身事故が発生した場合、過失は馬車の前に出てきた方が悪いのが常識だ、馬車に乗るのは貴族か富豪、歩いているのは平民なのだから。

しかし、帝国では現代日本の様に歩行者はか弱き弱者であり車輌はそれに危害を加えぬよう注意をはらわなければならない。


ちなみに、運転手の彼女だが、アイシーの飛び出し行為にも多分に非がある為に注意処分程度の罰則だった。


「我が国では当然の義務だ、気にするな。それに君達をここに呼んだのは別件がメインだ」


「別件……ですか……」


そう言ってウィルダーはちらりとアイシーを見る。


「……なによ、気が付かないそっちが悪いんじゃない?」


「……確かにそうだが……聞かれてしまった以上は作戦終了までの間は帰す訳にはいかん」


「か、帰す訳に行かないって、そんな……」


「なに、短期戦になるだろうから一年以内には帰れるだろう」


「い、一年もシーアさんに会えないんですか!?」


「いや、あんた、学校のことを心配しなよ」


衝撃の事実に愕然とするウィルダーに冷めた目線を飛ばすハナ。


「しかし、一年もこっちに住むなんて飯と宿どうすっかな……」


「衣食住のことは大和軍が見よう。収入が必要なら軍から斡旋する。実際、人手不足なのでな」


この話に食いついたのはもちろんハナだ、タダ飯タダ宿、願ったり叶ったり。


「……あとはアパートの細かい事は総統閣下(ミーシャ)に聞かなければならないな。今は陸軍に視察に出ているから、行きて聞いてみるか?」


その言葉にハナ達はどうせ機密を知ってしまい帰れないのだから、毒を食らわば皿までとフジ島に向かうのだった。




******




「使えるものは全部持ってけ! 総力戦だぞ!」

「イエス、サー!」


フジ島では戦車や資材が次々と港の輸送船や飛行場の輸送機に運ばれて行く、まさに宝箱をひっくり返した様な状態になっていた。


「総統閣下、Me323の数が足りません、あと10機ほど追加をお願いしたい」

「わかった、出しておこう、Ⅳ号戦車までなら詰めるだろ、ギリギリ」

「はい、今は空も海も総動員してピストン輸送してますから。ギガントは大活躍ですよ」


ミーシャに声を掛けた士官はそう言って走っていった。


「……思ったより忙しいな。ん? おい、そこ! 全部持ってけって言ったけどそれはいらないから置いてけ!」


視界の隅でヒラーVZ-1ポーニーとウイリアムズX-ジェットを運んでいた兵士に声を掛けミーシャは歩き出す。


今や演習場には所狭しと戦車が並び輸送の順番を今か今かと待っている。


「……おいおい、インディペンデント重戦車に巡航戦車Mk.Ⅰ、T-35戦車とNbFzに九五式重戦車って初夏の多砲塔戦車祭り開催中じゃねーか」


「あ、総統閣下」


ミーシャがほぇーっと戦車を見上げていると後ろから声を掛けられた。


「総統閣下、これも要るんスかね?」


若い兵が指差す先にはTOG2重戦車とシャール2C重戦車が鎮座していた。

二輌とも全長10mクラスの大型戦車だ。


「ああ、いざとなったらそれで橋の出入り口を塞ぐから持ってけ。……あ、カヴェナンターは訓練車にするから置いてけ」


ミーシャは隣のカヴェナンター巡航戦車を指差しそう指示した。

何を隠そうこの戦車、車体後方のエンジンに対し、冷却用の吸気口とラジエーターが車体の前にある。

その為、車内の温度は瞬く間に40度付近まで上昇、『エンジンより先に戦車乗りがオーバーヒートする』と魔族兵士にすら不評の欠陥戦車なのである。

一部、火の属性に強い魔族には『まぁ、乗れない事も無い』と評価されているが、常人なら車外気温10度でも30分エンジンをかけていれば熱で根をあげるだろう。


「ウッス、まぁ、どんな戦車回されても此奴乗るよりマシでさぁ」


兵士は苦笑いしながらTOG2重戦車とシャール2C重戦車の車長に話をしに行った。

車長達は出撃の報せにガッツポーズし、カヴェナンターを準備していた兵士はどこかほっとした顔をしていた。


「しっかし、まー、我ながら随分と召喚したもんだなぁ」


ミーシャは目の前の光景を眺めてみた。

メーベルワーゲン、ヴィルベルヴィント、オストヴィントの対空戦車が整備兵達にチェックされている。

クーゲルブリッツが砲塔の旋回チェックを行っている。

ヤークトパンターが徐行でノソノソと走っていく。

カヴェナンターがエンジン不調で戦車回収車(ベルゲパンター)に引っ張られていく。

重戦車のKV-2(ギガント)が輸送機のMe323(ギガント)に重くて乗らないから港に行けと怒鳴られている。

マウス重戦車がノソノソと走る横をオブイェークト279が走り抜ける。

出撃を前に金色のヘッツァーとピンクのM3中戦車を洗車している兵士がいる。


「戦車を洗車ってか、ふふっ……」


苦笑の様な笑いを漏らしたミーシャだが、『ん?』と考えた。


「………………な、なんつー色に塗装しとるんじゃコラァーーっ!!」


我に返ったミーシャはヘッツァーとM3Lee.Mk.Ⅳに走って行く。


「車長はどいつだぁ!?」


「あ、総統閣下」


戦車を洗車していた少年兵、少女兵がミーシャに気付いて手を止めた。


「そういや、うちの軍隊、半分はスラム上がりの年少兵だったね……。……じゃなくて、なんぞやこの塗装!!」


「カッコイイっしょ? ウチのヘッツァー百式。側面装甲の『百』の漢字が何ともイカしてるっしょ?」


「そうじゃ無いんだよアンポンタン! 誰が許可したのこんなん!」


ミーシャの言葉にM3の車長が恐る恐る声をかける。


「たしか、ヴァルヴェルト元帥が演説で『武功を挙げたいやつは戦場で自分を見わけさせる為に派手な格好をしたほうが良い』って。……言ってたよね? クワトロちゃん」


「そうそう、言ってた、言ってた」


「あ、そっちの意味で金色なのね……ってそーじゃねんだよっ!!」


ミーシャは地団駄を踏んで怒った。


「見ろ! このⅣ号戦車J型後期仕様を! 灰色とか茶色とか緑とかならまだいーの! ほらシュルツェンまで着けて、実用的でしょうが! ちょっと車体横にステッカー張るくらいなら目を瞑るよ! ほら、この鮟鱇なんてかわ……って鮟鱇はダメェーーっ!!」


「あら、鮟鱇ダメなんですか?」


「鮟鱇も亀も兎もダメ! 怖いから! つかあんたダレ!?」


「この戦車の砲手の五十鈴電(いすずでん)です。皆んなからは『デンたん』って呼ばれてますので総統もお気軽に『デンたん♪』って呼んでくださいね♪」


「いや、ちがうから! それ丘じゃなくて海だから!」


「嫌いな場所は牧場です♪」


「今なんで嫌いな場所言ったの!? ねえ!?」


何時もの如く部下に振り回されるミーシャであったが、隣の区間からの大ボリュームの合唱に声を止めた。


「今度は何だよ、もう!!」


「第二師団の皆さんですね。暇があると『祖国は我らのために』か『カチューシャ』を歌ってますから」


「あぁ、あそこのソビエト戦車軍団か……歌うのはいいけど、なんで?」


「エカテリーナ師団長の趣味らしいです。あっちの第三師団も音楽好きなんですよ?」


「……もう好きにしてくれ」


目の前を爆音を鳴らしながら走る、超大型スピーカー搭載のM4中戦車(シャーマン)を見たミーシャは肩を落として呟くのだった。


「あぁ! こんなところに居たんですか総統!」


すると、こちらに走ってくる女性が一人。


「……あ、あー、あれだ、えーっと……誰だっけ?」


「ズコッ……オリヴィアですよ! 技術部のオリヴィア・マイ!」


「あぁ、研究島の研究長か。……んで、何?」


ミーシャの問いにオリヴィアは意味ありげな笑みを浮かべる。


「ふふっ、この機会です。我が技術部の新兵器も戦場にと思いまして」


「却下」


「早っ!? ちょっとくらい聞いてくれてもいいんじゃないですか?」


「どうせろくなもん作らないんだもん」


「まぁ、まずは見てくださいよ! ちょうどすぐそこに新兵器が置いてあるんです!」


言うとオリヴィアは近くの布がかかった物体に近づき、布を思いっきり引っ張った。


「じゃじゃーん! 『クワトロ・パンジャンドラム』です!!」


「お前帰って寝ろ」


「だから酷っ!? 見てくださいよこれ! ツインがダメだったんで縦横二列の四つにしたんです!」


「んで?」


「溶接が甘かったのかちょっと走ったらバラバラに転がっていきます、まさに散弾爆弾!」


「んで、バラバラになった普通のパンジャンドラムがあっちこっち飛んでくと」


「はい」


「ボツ」


「んぐっ、では次はコレ!」


オリヴィアは次の布を引っ張っる。


「じゃじゃーん! 『パンジャンスネーク』です!」


「せめてパンジャンドラムから離れろよ!!」


「見てください! パンジャンドラムを縦に繋げて関節部を作りました。ここにあるのは10連パンジャンドラムです。最大20連まで作れました! 一列に敵陣に突っ込んでく様子はまさに敵に食らいつく蛇の如く!」


「んで?」


「先頭が方向転換すると全部味方に突っ込んで来ます、あとこれも一部溶接が甘いです」


「ボツ」


「次! 『フライングタンク改』です。アンノトフA-40を参考に改良し主翼にレシプロエンジンを搭載。自力で飛行できる双発飛行戦車です!」


「んで?」


「燃料の関係で航続予定距離が物凄く短く、着陸後に燃料不足で戦闘に移れません。てか、まず飛びません」


「ボツ」


「次! 『試作遠隔操作Ⅱ号戦車』です! ゴリアテからインスピレーションを受けて作りました! これで戦車兵は安全な場所から戦車を操れるでしょう!」


「んで?」


「操縦、砲撃、砲塔旋回など操作が複雑でコントローラーもごちゃごちゃと複雑になっちゃいました。あと、自動装填装置が無いと車輌によっては弾があっても装弾できず撃てません。あと、有線で線の長さは最大10mです」


「おとなしくボルクヴァルトⅣに砲塔付けなさいよ。ボツ」


「次! 『対戦車ケッテンクラート』ケッテンクラートの後ろに3.7cm対戦車砲または5cm対戦車砲を搭載しました! 軽快な走りで敵を翻弄し戦場を走り回るでしょう!」


「んで?」


「砲身が邪魔で運転手がすごい格好になります。あと砲手が乗るスペースもなく、弾薬も積めません。対戦車砲が重いせいで速度もガタ落ちです」


「てゆうか、発砲したら真っ先に運転手が死なねえ? そんなんだったら75mm無反動砲搭載ベスパでいいわ、ボツ」


「じ、じゃあ次! 『陸上戦艦ハウスラーテ』! ラーテを超える火力を! モンスターを超える手数を! 脅威の45口径51cm3連装砲一基三門! 副武装に128mm KwK 44 L/55単装二基二門! 対空装備に65口径10cm連装砲三基六門!! どうです!?」


「……ちょっと待て、45口径51cm砲なんて出した覚えないぞ?」


「現在、超長期修理中のサンライズから主砲と高角砲を失敬してきました。テヘッ♡」


「テヘッ……じゃねーーっ!! さっさと返して来いこのバカーーーっ!!」


戦争の準備中なのに大和は今日も平和だった。


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