懐かしの町で
かつて過ごした町で懐かしのドリンクを飲む。この辺りでしか手に入らないレトロなデザインの黄色い紙パックはときどきメディアでも話題になるが、色んな思い出とその話が重なる。戻ってきて、あわよくば願っていた人に会えるかもと若干の期待はあったが、そこは流石にという感じ。自分のことをまっすぐに見つめて親身に話を聞いてくれたその人の連絡先をあのとき訊いていたらと今でも思う。新聞に載っていた占いでは、『待ち望んでいた事が起こる日』と断言されていた。どこかしらそういう不確かな何かに身を委ねてみたい気持ち。
「変わらない味か…」
たしかに記憶にあるのと同じ。うまく言い表せない独特の風味で、「何処にでもありそう」でここにしかない味。無性に恋しくなるのは老舗企業の狙いどおりなのだろうか。
しぐれ虹の出ていた『その日』、映画館に併設するカフェでその人が言葉少なに話したことは一つ一つがとても印象に残っている。珍しく気になる洋画の存在を知り、思い切って一人客席もまばらなスクリーンで鑑賞したその上映でなぜか偶然隣の席に座った同じ世代くらいに見えた女性。感動の場面で思わず目頭を熱くしていた時に、女性もハンカチで目元を拭っていた。よくある話なのか彼女がエンドロールで立ち上がった際にその青いハンカチを落として行った為、慌てて追いかけてカフェの前で「落としましたよ」と声を掛けた。
「ありがとうございます。隣に座っていらっしゃったんですね」
「はい。いい映画でしたよね」
「もしよかったらここで映画について少しお話ししませんか?」
思わぬ提案だったけれどハートフルな映画の温かい余韻に包まれていたのもあり、了承して雨上がりの陽が射し込んでくる窓の席に二人で座った。価値観が合うのだろうか映画で心に残った場面が大体一緒で、他の誰とも共有したことがなかったような『ふわっとした感覚』の表現も通じ合えた。
「『映画』の中にしかないものってあると思うんです」
彼女の何気ないその言葉がとても記憶に残っている。ある意味でそれは彼女の信念に似た何かだったと思うし、たしかに『情熱』の表れだった。サブスクを契約して気になった作品をチェックするようになってから、彼女の言った『映画の中にしかないもの』を自分なりに見つけ出そうとしている。哲学的にはなるけれど、映画の中にそれがあるのか、それとも映画の中に人がそれを「見つける」のか、どちらなのだろう。少なくとも、自分がその日彼女に話した洋画の主人公の『生い立ち』と重なるプライベートな部分…周りにあまり理解されない繊細すぎる心とか、そういうものを多くの人が感じ取れる何かとして映画は語ってくれる。
「映画って出会いがありますよね。自分に合った作品に出会えることは幸せだと思います」
「そうですよね。わたしもそう思います」
最後にそんな会話をしてその人と別れたが、あのとき見たような洋画には結局出会えていない。
所用があってビジネスホテルに一泊して帰るだけの日程だったので時間的にタイトではあったけれど、蕾がいくらか綻びかけている桜の通りの向こうにある映画館へ久しぶりに足を運んだ。あの当時と少しだけ設備は変わってはいたが施設自体の懐かしさに浸っている。上映中の作品を眺めてみるとちょっとした「縁」なのか、あの時見た作品の主演俳優の最新作が目に留まった。ポスターの触れ込みではハートフルというより、少し奇妙なコメディーで自分の肌に合うのか未知数ではあったけれど思い切って入場してみた。当然ながら、客層的に『偶然の再会』は期待できないどころか、終始ガヤガヤとした様子のこれまた違う雰囲気に包まれた鑑賞となった。
『ミカエルさん、俺はどうやって彼女にアプローチしたらいいんでしょうか?』
『そういうことはあんまり手助けするなって言われてんだよ』
何をやってもダメな主人公の熱烈な祈りによって呼び出された天使『ミカエル』の力を借りつつ難局を乗り切る展開の作品。何故か天使ミカエルは性格がドライで、最小限の手助けしかしてくれない。作品後半でそれは主人公の成長を促すための方法であったことが判明するものの、恋愛ごとについては終始一貫してノータッチ。
『自分の力で振り向かせなきゃ意味ないだろ?』
成長を実感し、作品の最後でミカエルさんのその言葉に奮起させられ憧れの人にアタックしに行った場面。結末は語られなかったけれど、とても爽やかな終わり方でちょっとした感激があった。何より『ミカエル』さんのキャラの仕上がり方が自分の琴線に触れてしまったので、上映後改装されたらしいショップで『ミカエル』さんグッズを探してみることに。
ニッチな商品になるからそもそもグッズが存在しているとは限らなかったけれどピンポイントで『ステッカー』を発見。「へぇ〜」と感心しながら商品をレジに持って行った際、店員さんから
「『こういう作品』も好きなんですね」
と言われた。怪訝に思って顔を見上げると…『あの人』が満面の笑みを浮かべてそこに立っていた。想像していなかったことに心臓は早鐘を打ってはいたが、
「そうみたいですね。『ミカエル』さん気に入っちゃいました」
などと気の利いた台詞を言う自分がいたとかいないとか。




