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百万点の青空を目指して  作者: 綜目月 梶才


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1/7

はいけいお母さんへ。

『青空を目指しなさい。西へ行くの、西に行けば青空に出会えるわ』


私の1番古い記憶。

 青白い光と白い部屋の中、お母さんの言葉だけを覚えてる。



 青空――見た事ないけどランタンのように明るくて。でもランタンと違って優しくて明るい光があるらしい。

お母さんがくれた手紙に書いてあった。



「あ〜! 何回読んでも気になる! 青空ってどんななんだろー!」


私は手紙を抱きしめながら飛び跳ねた。


この手紙は私の宝物。

 お母さんとの唯一の繋がり、そして憧れの青空について書かれている。

私の1番大切な宝物だ。



「あ、もう9時。早く洗濯物干さなきゃ」


飛び跳ねていると、チラッと時計が目に入った。

もうこんな時間。



昨日の服を水で洗って、絞って、竿に干して。

竿を持ったまま私は勢いよく玄関の扉を開けた。


今は朝の9時。

 家の外は夜の真っ暗闇なんて嘘のように、森は()()に包まれていた。


「わー!いい天気! 今日は一段と明るい! 20m先の植物だって、見えちゃうかも!」


 おでこに手を当てて遠くを見ると、本当に見えちゃった。

 こんな明るいの初めてだ!今日はなんかいい日かも!



 私は急いで洗濯物を干すと、家の中に戻って縄でバケツが両端に繋がれた棒を担ぎ上げた。


「次は水汲み、と」


 私の住んでる家は三方向が森に囲まれてて、東だけ開けた湖に繋がってる。

つまり家の周りは『コ』みたいな形って事。

だからこれから向かう先は東にある湖!



バケツおっけー。よし、出発。

――あ、そうだ忘れてた。

 念の為包丁も持って、と。心許ないけどないよりはマシ!



歩く事10分、湖にたどり着いた。

 そろそろ慣れてきたけど、相変わらずここに行くまでの時間は凄く怖い。


「わ、水冷た。今日は一段と冷えてる」


 私はゆっくりと二つのバケツに水を汲んで、右肩に棒を乗せて息を思いっきり吐きながら持ち上げた。


「んっググ……。やっぱり、重い……」


よし、今日も休み休み持っていこう。


「がん……ばれ、私……! 今日もがんばれ……!」



頑張っている間に少し話を戻そう。


 今はこうして森の中で気ままに過ごしてるけど、青空に会いに行きたいって本当はずっと思ってる。


今すぐにでも西に向かいたいぐらい。

でも――



ガササッ


「――ゎっ!」


 突然近くの草むらから変な音がして、思わず私は小さな声が漏れた。



もしかして、ヤジン……かな?



 私はゆっくりとバケツを地面に下ろして、音がした方向を覗いてみた。



 なーんだ。ただの野うさぎか。心臓が止まるかと思っちゃったよ。

よかった、ヤジンじゃなくて。



――でも、今の私じゃ西にはいけない。

理由は今言ってた()()()のせい。


 ヤジンは夜19時以降に活発に動き出す、森の中に住んでる大きな獣の事。

 色んな種類がいるけど、全部そのままヤジンって言うらしい。――お母さんの手紙に書いてあった――


 そんな化け物が沢山いる森の中に、私が挑んで生き残れる訳がない。

 私はまだ8歳だし、身長だって136しかないし、女の子だから力が弱いし、ヤジンを倒せるような武器だってないし。


だから、私はまだ青空に会いに行けない……。

 今はまだ我慢していつか大人になって、ヤジンが倒せるようになったら青空に会いに行くんだ。

そして、お母さんを迎えに行くんだ。



「ハァハァ……。よし、到着……。つ、疲れたあ……。」


 30分ぐらいかかったかな、私はようやく家に着いた。

こう見えて一昨日よりは2分は早くなってる。成長が凄いよ!


「よし、次は朝ごはん食べよっかな」


棚から昨日採った山菜を取って朝ごはん完了!――相変わらず苦くて美味しくない――


次は身長を測ろう。


「13……7!! やった、先週より1センチ伸びてる!」


1センチも伸びちゃった。

これは、青空は思ったより近いかも。


「さてと、次は何しようかな。今日の予定まだ何か残ってたっけ、メモメモ。えーっと……あ、ご飯採りに行くんだ。」


 キッチンの下から籠を一つとって、鋏も取って準備完了。

 私はドアを開けてすぐ目の前に見える森に向かって歩き始めた。


「ふぅ、ふぅ。……怖い。」


 ヤジンは朝や昼は比較的大人しいとはいえ、やっぱり森の中に入るのは凄く怖い。

 もし襲われたら私ができるのは包丁を振り回すだけ、多分傷を与える暇もなくやられちゃう。


でもご飯の為、頑張らないと……。


「これは、食べれる。これは……ダメ。これは……食べれる。これは、食べれる」


私は山菜を確認しながら一つ一つ籠に入れていった。





――うん、これぐらいでいいかな。

よし、今日の仕事はもう終わり。

急いで帰って貰った本で勉強しよっと。



私は籠を背負って家まで歩き始めた。

随分奥まできたから、帰るのに20分はかかるかも。


これが私の日常。

今の私にはこの世界を生きるのが精一杯。

 青空に会いに行くのが一体何年先になるか分からないけど、そのいつかの為に私はこの日常をずっと続けるんだ。



「家まで後少し。よーし、がんばろ。――帰ったら今日はどの本読もうかな。そろそろ新しい本とか来て欲しいけど、次いつだろう。前みたいに、お母さんが本届けて欲し――」


【グガァロロロアアァ】


「ヒッ!」


――だけど、そんなずっと続くと思っていた日常は突然崩れ去っていった。



 地面の石ころを蹴りながら歩いていると、突然の草木を押し除けるような咆哮が響き渡り、私は頭を抱えてしゃがみ込んだ。


 1秒ほどの短い咆哮。先程までのいつもの日常が、一瞬で崩れ去る音が私の耳にこだました。


トスッ


 耳を塞いでいると、籠から山菜が落ちる音が後ろから聞こえた。


「――ヒッ。……あ、山菜が。」


 私はその音に身を跳ねながらも、少し頭が冷えて正気に戻った。

 私は辺りを見渡してヤジンが周りに見えない事を確認した。


「ヤジンがなんで、こんな時間に……。と、とにかく逃げなきゃ……!」


 私はせっかく集めた山菜に目もくれず、ヨタヨタと這うように逃げようとした。


でも、思うように足が動かなかった。



あれ、なんで……腰が抜けちゃったの?

頑張ってよ私の足、早く逃げなきゃなのに。



動かない足にパニックになって、息が荒くなる。

 吸おうとした空気は、喉の痙攣で押し返されるみたいで吸いにくい。

 視界はちょっとずつ潤んだ、森の中が闇一色に見え始めた。


「動いて……お願いだから……!」


 私は動かない足を揺さぶりながら、周りを見てヤジンが来てないか確認した。

 あんなに明るく見えた暁闇は、今の私には漆黒に見える。


「うー。見つかる前に早く、逃げなきゃなの……に――」



あ、見つけた……。



ヤジンの姿を見つけてしまった。

ヤジンは――もう私のすぐ近くにいた。


 このヤジンは私と同じように二足歩行で動くタイプらしい。

 すぐ近く8m先の木の裏から、立って私の事を覗いてる。

私はすでに見つかっていたんだ。



もう怖いとか死にたくないとかは無かった。

私は悟ったようにヤジンと目を合わせ続けた。



大きい、6mぐらいはあるかな……?

毛むくじゃらの体なのに、膨れ上がる筋肉が見える。

――あの口を見て。

私の手のひらぐらいありそうな尖った歯。



私は腰にかけた包丁を取り出し、見た。


「私は一本なのに。あなたは包丁ぐらい大きい歯が沢山。ずるい、勝てないよ……!」



――頬を一筋の涙が伝ったと同時に、そのヤジンは私に向かって飛びかかった。



私は驚いて目を力一杯瞑る。



あ〜あ。

私の人生ここで終わりか……。

結局、西に向かう事すらなかったな。


――お母さんにまた会いたかったな。青空見たかったな。



ゾギュ

メギャ

ボギョ



いろんな骨が砕けて肉が抉れる音が聞こえる。

私、死んじゃうんだ。



ギャズ

ベギョ

バキ



あれ、おかしくない?

こんなにも音鳴ってたら、もう死んでるよ。

それに痛くない。



私は不思議に思って恐る恐る目を開けた。


――そこには。グチャグチャになったヤジンの死体の上に、私ぐらいの大きさの女の子が立っていた。


「え、え、え! どうなったの!」


 私が驚きの声を上げると女の子は反応してこっちを見た。



わ、髪ボサボサ。腰まで伸びてる。

身長は私と同じぐらいかな。

目つき鋭い、歯もギザギザ。

強そう。



 私が放心していると、女の子はこっち向かって手を伸ばしながらゆっくりと近づいてきた。



え、何、次は私って事?!

助けてくれたんじゃないの!!?



私は咄嗟に目を両手で覆って顔を背けた。


 殺される……!そう思いながら待っていると「メシ…‥」と、一言だけ背中に投げかけられた。


「え?」


 そしてそのすぐ後、私が振り向くより先に、女の子はその場で倒れた。

 私はすぐに駆け寄り――安心からか、足は自然と動いた――肩を揺さぶり始めた。


「どうしたの!大丈夫? ご飯、欲しいの? あ、後助けてくれてありがとう」


反応はない。



え、もしかして死んじゃった?!

息は――臭!何食ってるのこの子!

でも息はしてる、よかった死んでない。

とりあえず今は安全な家までいかなきゃ。



 私は山菜を拾って籠に入れると、女の子の脇の下に手を回して引きずった。

 色々思うことはあったけど、今はただ助けなきゃって思った。

 この感情は私の為なのかこの子の為なのかは分からないけど。



私は頑張って家まで女の子を引き摺っていく。

 ヤジンがやってくるかもしれないから、急いで運ばなきゃ。そう思うと不思議に力が湧き出てきた。


 私は引きずりながら、絵本に出てくるドラゴンにでも襲われたようなヤジンと、気絶してる女の子を交互に見た。


「強かったり、弱かったりでよくわかんない。なんなんだろ、この子。」


 多分私と同じ人間なのに、私と同じぐらいの身長なのに、歳も同じぐらいなのに、同じ女の子なのに、同じ武器のない子なのに、どうしてヤジンを倒せたんだろう。



疑問は尽きなかった。

でもただ一つ、私の中で確かな事があった。

この子がいれば、もしかしたら――


私は女の子を引き摺りながら、西の方向を見た。



――拝啓お母さんへ。

もしかしたら青空は、意外とすぐになるかもです。

お家紹介

だいたい5畳ぐらい


ドアから見て右奥にベッド、その下に棚。

ドアから見て左側に机と台所と戸棚。

終わり

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