第四話 保証人
第四話 保証人
えりんとゆいの店がスタートして、ニカ月がたった。
森熊のお客さん達も、時々、
「あの店なんなん?!」とかの話になっていた。
「塚口で風俗ないっしょ〜」
「いや〜それがあるみたいやでぇ〜」って言う話が出て来たのである。
最初、ヨーちゃんも森熊も、ニタニタ笑って、
「秘密を知ってるのは俺らだけやで」的な感じで、ほんの少しだけ、嬉し恥ずかしで、面白かったのだが、
繁盛して来ると、三人で、「大丈夫かなぁ〜」と不安になって来たのである。
口の固い常連しか抜かないと言いながら、普通の一般の人まで、そんな話をし出したのである。
「実はあのマッサージ店は、マッサージして貰って、上品な対応していると、美人ママは黙って抜いてくれるんよ」、と、たまたま、居酒屋森熊で、隣に座った年配のじーさんが、そんな話をし出したのである。
「へーそんな店あるんですねぇ〜」と、自分らもニヤついて、最初は面白かったのだが、駅の北側のスナック行った時も、
「正ちゃん、凄い店があるらしいでぇ〜」と店の女の子に言われたのである。
ついに凄い勢いで、噂話が流れ始めたのである。
なので、三人組で、馬鹿話だけしに行くのが困難になって来たのだ。
しかも、満員の時は、自分たち三人でも断られるまでになっていた。
「あいた〜っ、行きにくくなって来たなぁ〜、お〜俺らのパラダイスはもうないな」と、ヨーちゃん。
「仕方ないやろ、まーあの娘らにとっては良かったんぢゃね?!」と、森熊は冷静だった。流石妻帯者だ。
「まあしかし、これでリョウちゃん一本でイケるから、安心したかな」と自分が言うと、ヨーちゃんに「おまえ贅沢だよ」と言われた。まあ、確かに別嬪二人が、近くに居れば、そう思われるのかも知れないが、
「結構、金使ってるぞ、ベースはそんなモテないから、金使ってなんぼやないないか〜」とヨーちゃんに言い返したが、
まー、一応、自分も四十代後半、ちゃんと正社員で会社行ってるし、家賃収入も、数字講師のお金も入る。なので使える金はあったが、そんな余裕もなかった。
そして、数学講師に関しては、殆どボランティアだった。
小学生相手にだって、数年、十年先を見据えた講義をやっていたのだが、母親連中には全く理解されず、後に廃校になってしまうのである。
そもそもが、じっと座れない子を預かっているのだから、
「座るきっかけで、数学以外の作業、例えば漫画など書かして何が悪いねん」
と言いたかったが、目先の学校の試験の点数が、全て優先の親達に、何を言っても寝耳に水だった。
なので、現実的には、収入が大幅に激減していたのだ。結構これはピンチだった。自分のお化けアパートを担保に入れて、金を借りようかとも思ったが、それは最後の手段だろう。
とりあえず、銀行のカードローンを三百万マックスまで設定した。これだけあれば、十分だろうと、この時はまだ思っていた。
次の非番の日、お化けアパートの自分の部屋をノックする音が聞こえた。「最近なんで来てくれないの」と、えりんが前に立っていた。
えっ、遠慮してんねんけど」と言うと、「なんで?!」っとえりん。
「いやお客さんいっぱいで、俺らがおったら邪魔になるやん」と言うと、
「正ちゃんひとりならいつ来ても、事務所で呑んでてくれてもいーのに」
「いや、ゆいに怒られたで、マッサージやらんのに何しにくんねんとか」、
「あなたは、わたしのお兄ちゃんだから、いつ来ても良いよ、でも時々はマッサージやってね、ゆいには言っとく」と言う、結局マッサージかい?!と思いながら、
「まー行くよ」と言うと、
「それとリョウちゃんを紹介して?!」と言われた。
「何故に?!」と言うと、
「アルバイトをして欲しいから」、
「いや、やらんだろ?!」と言って、ちょっと嫌な気分になってしまった。
「それはやって欲しくはないわ、自分の彼女が抜きのバイトなんて普通嫌だろう、一応リョウちゃんは俺の彼女やねん、だから駄目だよ」と言うと、
「わかった、でも同じ中国人の友達が、私はいないから、紹介して」
「まあ良いけど」と、なんだか嫌な気分になってしまったが、結局、また週末にゆいと、えりんと、リョウちゃんと自分とで飯を食う事になった。
次の週、
居酒屋『森熊』に行くと、
「お、リョウちゃん久しぶり、相変わらずの別嬪やん」、と森熊が言う。リョウちゃんは以前、『森熊』でバイトしていたのである。
「マスター久しぶり」とリョウちゃんは笑っている。
「もうすぐ、えりんと、ゆいって子が来るよ」
「福建の子ね」
「そう、でもゆいは何処の出身かは知らん」
そうこうするうちに、えりんとゆいがやってきた。三人は挨拶して、何か中国語で話し始めた。
全く何を言っているのか分からなかったが、三人はまあ意気投合までは行かなかったが、楽しく話していた。
一時間くらい話して、ゆいとえりんは仕事に行った。
「誘われたわよ、マッサージに」とリョウが言った。
「あー行かなくていーよ、時々お金あげてるぢゃん」
「行かないよ、あっ、それと、大阪に支店を出すとか言ってたよ」
もちろん彼女らが、中国語で話されると会話の内容が全く分からない。
「そんな事を話してたんかよ」と、色々と聞きたかったが、リョウちゃんは、
「明日レポート出さないと行けないから帰るね」と、言って帰って行った。
それから飲んでいると、カッパのヨーちゃんが来て、
「えっ、リョウちゃん、マッサージで働くん?!」とヨーちゃんがいきなり聞いてきた。
「阿呆か!!駄目に決まってるやん」
「えーっ、もし働いたら行きてー」
「おい!! 辞めとけよ」と横から森熊が言ってくれた。
「冗談やん、俺はゆいちゃん一途やから」
「嘘言うなおまえ、行くだろ!!」と言うと、ニタっと笑った。
ど変態ヨーちゃんが言いそうな言葉だった。
しかし、もう大阪に『支店』って、もうどんだけ稼いだんかよと思った。
翌日、えりんから電話がかかって来て、店に印鑑持って来てと連絡があった。
嫌な予感がしたが、全くその通りだった。
「ねえ、保証人になってくれない?!」「.......……」
呆れてモノも言えなかった。
「出来る訳ないやん、最初っからそのつもりかよ」
「大丈夫、絶対にあなたに迷惑かけないから」
「そんな訳ないやん、百万や二百万ちゃうやろ?!」
「ううん、お金ではなくて、お店借りる時の保証人よ、日本人じゃなきゃ駄目なの」「そりゃあ、必要かも知れないが、俺にはそんな財力ないぞ!!それに店舗の家賃いくらなん?!」
「七十万円」
「で、本職の連中にいくら払うん?!」「儲けの半分!」
「大丈夫かよ、そんなんでやっていけんの?!」
「大丈夫儲けるよ、やっていけるから」
正直、ゆいの腹の座った雰囲気に比べ、えりんは、ど素人感があった。
中国人の裏のネットワークがバックにあるにせよ、なんか、悪になりきれない感があったのだ。
レイレイと一緒の時など、まさに優しい母親だったので、大阪の厳しい世界でやって行けるのんかなぁ〜と心配になったのである。
「塚口の店どうするん?!」
「続けてやるよ、ゆいと交互に店長やる」「女の子も雇うん?!」
「うん、大阪店には新しい女の子が三人いる」
「えっ、もう開店してんの?!」
「来週から始まるの。それで、もうひとり日本人の保証人をつけてって、ビルのオーナーが」
「そーか、ヨーちゃんになって貰えよ、ゆいと仲良いだろ?!」
「あなたになって欲しいの、儲かったらお金回すし、人柄が良いから信用してるし、いずれ一緒になんか商売しない?!」
なんか騙されてんのか頼りにされているのか良くわからないが、無理でしょう。
「大阪進出となると、本格的にその世界に関わっていかなあかんし、俺は普通のサラリーマンやで」と言うと、
「大丈夫一緒にやろう」、と言われたが、「とにかくこの話は無理」と、流石に断って、『森熊』にやって来た。
「おう、正ちゃん」、とヨーちゃんが既に定位置で、新聞広げていた。
「炭酸くれよ!!」、と森熊に言うと、「あいよ」と、森熊が、五リットルの角と炭酸を出してくれた。
どーせ、毎日のよーに『森熊』に行くのだから、ボトルキープは巨大な方がお得なのである。
この店で、五リットルものウヰスキーを常にキープしている阿保は俺らだけだった。
三宮でも、デカい立ち飲み屋に行くと、焼酎五リットルボトルキープとか、良く見かけるが、ウヰスキーはあまりいないだろう。酒呑みとしては上級者かも知れないが、人生の落伍者一歩手前かも知れない。
何にもカッコイイ事はなかった。
飲み過ぎだ。
自分は途中からだいぶ酔って来て、
「あんなぁ〜大阪でさぁ〜支店出すねんて、ゆいとえりんが!!」
「凄いぢゃん」と、ヨーちゃんと森熊。
「それで、保証人!!」
「あちゃ〜」と、森熊とヨーちゃん。
「やっぱ見事に引っかかったんかなぁ〜今までの話、うますぎるやん」
「まーねぇ〜、でも店自体は儲かってるみたいやで、塚口の店は」
「でも保証人は、大阪やとやっぱいるんやろな?!」と、ヨーちゃんと森熊に保証人の話を始めた。
「実は、正ちゃん、俺な、送金頼まれてんねん。大丈夫かなぁ〜」と、ヨーちゃんが告白しだした。
「えっ、ゆいに?!
「早いなぁ〜 もうか?!、あっ、でも、それ大丈夫よ、送金くらいは。
ヨーちゃん、俺、四百万送金してるもん」
「え〜っ」と森熊と、ヨーちゃんはびっくりしていた。
「最近は地下銀行流行らないねん、人の良い日本人利用して、友達や家族の稼いだ分を、まとめて信頼できる人に送金させんねん。
中国人は大胆だよ、そのお金を受け取った人が持ち逃げしたらどうするんやろ?!って、聞いたら大丈夫、身内だからと言ってた。笑っちゃうよ」
「..........でも合理的やなぁ〜」とヨーちゃんが言った。
その後、ヨーちゃんも二百万と四百万の送金野郎になるのである。
「ヨーちゃん、保証人もなってやれよ!」と言うと、
「流石に無理っしょ」とヨーちゃん。
ヨーちゃんはその後、とか服とかも山程買わされるが、最後の詰めは、割と慎重だった。
「俺も断ったし、保証人は無理よ」と自分が言うと、
「そーやなぁ〜」と森熊。
「かっちり断る所は、断ろうや」、と自分が言い、
「でも、大阪の店、新しい女の子がいるらしいで」、と自分が言うと、ヨーちゃんと森熊は、
「行きたーい」と笑った。
やっぱり阿保だ。
笑笑
続く〜