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6 銀色の衝突

 とてもなめらかな動きだった。

 二振りの刃を伴って、あまりにも自然にソレはやって来た。

 

 なんとか躱し、凌ぐ為の蹴りでサリを引き離す。大きく吹っ飛ぶ彼女だが、着地の音がまるで聞こえなかったことに驚きを隠せなかった。


 サリは着地後もすぐに飛び出してきた。しかし今度は分かっていた。素早く刀を取り出しながら勢いよく抜き放った。


 抜刀と短剣が重なり合う。

 勢いはこちらの方が勝る。夕暮れ時の校舎に金属音が響き渡った。


 サリは弾かれた攻撃をも流れに変える。

 そこから更に何度も切り込んできた。冷静に一刀ずつ剣を切り返す。そこからはまるで手合わせをするような、切っては躱し、刀身で流したかと思えば弾き返す。その繰り返しだった。


 流れを変えたのは、彼女の方だった。


 一瞬だけ手が緩んだその瞬間、目の前に何かボールのような物を投げつけられた。何かするだろうとは思ったので、慌てず切り払った。

 しかし、そのボールが真っ二つになった瞬間だった。


 「なんだ……?」


 ボールの切り口から煙が出た。吸い込んでしまったが特に害はなかった。ただの煙玉だったからよかった。これが火薬だったら大変なことになっていた。


 (……いや、流れを変えられた)


 辺りを漂う目くらましのせいで、サリの姿を見失ってしまった。


 移動して煙から出ようとしたその瞬間、足元に何かが突き刺さる音がした。冷静に足で叩いてみると、それは彼女の持っている短剣よりも、一回りほど小さいナイフだった。

 きっと投擲用のナイフなのだ。


 (不用意に出れば狙われるな)


 サリは煙の中にいる僕の位置を把握している。だから正確にナイフを投げられたのだ。だとすれば、流れは完全にサリの方にある。


 刀を腰に構え、深く腰を落とした。魔力が刀身に宿り、鋼色の刃に熱が走り始めた。頭の天辺から足の先まで、意思を持った力が体中に充足していた。


 (さぁ……肚を括れ!)


 地面を強く踏みしめ、刀を切り払う。薙ぎと同時に放出。熱を持った魔力が意思を持って放たれる。


 天源一刀流、火伝ノ二 焦大刀(コガシタチ)


 魔力は火炎となる。その形は刃。火炎の斬撃は煙を突き破り、一直線に空を裂いていく。ロビンは火炎を放った後、すぐにその後を追う。飛んでくるナイフは全て炎の斬撃が払い、溶かしていく。技を盾にして進みながら、サリの策を破ったと確信していた。


 「まだ……!」


 声は、後ろから聞こえた。一体どこから現れたと過ったが、サリの双短剣に魔力が宿っているのが感じられた。

 それも、ありったけの力だ。


 「っ!?」

 驚きはもちろんあった。

 しかし、真後ろでうねりをあげる短剣と、凄まじい速度で迫るサリにロビンは諦めた。逃げるのは無理だと。それならば……


 (真っ向からねじ伏せる!)


 再び魔力を急速に高めた。この技は何十、何百とやってきた技だ。どんな体勢でもどんな窮地でも、その魔力の疾走に淀みはなかった。

 地面を思い切り足で削り、方向を変える。振り返り様に刀を上段に構えた。


 天源一刀流、火伝ノ一 日輪一刀(ニチリンイットウ)


 上段から渾身の一刀を放つ、たったそれだけのシンプルな技。

 火炎を纏った斬撃が天を突き、そのまま真っ赤な半円を描きながら叩き込まれる。


 対するサリの短剣が二刀、横合いから振り抜かれる。

 刀身に纏わりつく風の力は、さながら嵐のようだった。


 火炎の一刀と、嵐の二刀がぶつかり合う。

 刃から放たれる魔力の衝突は、二人を中心に衝撃波を生んだ。目の前を焦がす炎が風によってかき乱され、まるで魔力が爆発したかのような力に、二人は突き飛ばされた。


 倒れたままではいけない。受け身を取り、すぐさま体勢を治そうとして、


 「……そりゃないだろ」


 同じように、なんともなさそうに構えなおすサリが目に入ってきた。口から思わず出たのは、呆れだった。

 

 自分が唯一誇れるもの、その中で何年も何年もかけて鍛え上げた一刀だった。それが、自分よりも小さなサリの技と、互角だなんて……立ち上がり、ようやく刀を構えなおしながら、そうこぼしてしまった。


 「……それは、わたしだって」


  少し遠くで少女の呟きが聞こえた。魔力で強化された身体能力がその声を拾った。……あまり表情に出さない少女は、初めて顔を歪めていた。

 「……でも、少しわかった」

 少女は短剣を鞘に戻した。見れば全身を流れる魔力が穏やかなものに変わっていっていた。

 ……これで終わりだという事だろうか?


 「……今日はこれで。さよなら」


 次の瞬間、彼女はあどけなさの残る表情を見せて、そのままこちらに背を向けた。

 軽い足取りで別れを告げ、そのまま野戦用グラウンドの入り口まで……その背が小さくなるのを見て、ようやく我に返った。


 「……一体、何だったんだ」


 その呟きに応えてくれる者はいなかった。

 だだっ広い野戦用グラウンドに、たった一人。

 顔をなでていく春風が、妙にさみしかった。


 刀を鞘に収め。鞄を取りに行こうとして……先程までの戦いの場所を振り返った。


 地面は突風で荒れ果て、炎による熱で草木が焦げ付いていた。まるで焼け野原だ。これは自分だけでなく少女と一緒に引き起こした惨状だ。


 (あの子……強かったな)

 謎がこれでもかというくらいに残る戦いに、溜め息をついた。鞄を持って自分もグラウンドから去るのだった。


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