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武勇伝  作者: 真田大助
95/111

教え_参

短めです。

カンカンと木を打ち合う音が響く。

大柄な青年、武雄の持つ木刀は小太刀を模したもの。小柄な二人の少年、長瀬十兵衛と葛西清隆の持つ木刀は太刀を模したもの。

不釣り合いな獲物を持った三人が人気の無い細道で打ち合う。


「切っ先が揺れているぞ、迷いなく振り下ろせ!」「刀に身体を持って行かれるな!またその辺走を走らせるぞ!」「声が小さい!たった半刻で声が枯れるなんて武士として情けないぞ!」


疲れ切った顔をしながらも必死に木刀を握る二人に声をかけ続ける。

自分が発している言葉がどうにも重光の言葉と重なるような気がして複雑な心境だ。


ヘロヘロになりながら振り下ろされた長瀬十兵衛の一刀を受け、弾き飛ばす。十兵衛の木刀は天高く飛び、それを見送った十兵衛の胸倉を掴んで路肩に投げ飛ばす。

その隙をついたつもりか、同じくヘロヘロにりながらも葛西清隆が木刀を突き出して来る。相当疲れているのか、足元が覚束ずに俺と打ち合う手前でつんのめって転んでしまった。うつ伏せになった清隆の頭頂部を俺の木刀が小突き、手合わせは終了。これで三十五勝ゼロ引き分けゼロ敗だ。

打ち合いし始めは大分良くなったが、体力がまだまだ足りないな。戦場じゃ鎧兜を着て走り回ることになるし、もうちょい基礎練習の時間を増やすか。


砂まみれになってなんとか立ち上がった二人を見て今後のトレーニング計画を練る。

この二人は山王屋から連れて来た六人の中でも武将向きだと思う。

長瀬十兵衛は短気だが素直で真っ直ぐな性格だ。討ち込まれてもすぐに起き上がり、果敢に挑んでくる姿勢は嫌いじゃない。まぁ俺ほどのタフさは無いが。

葛西清隆は口数が少なく無表情に見えるが、その実はかなりの負けず嫌いだ。俺の攻撃を見切ろうと癖を探し、一手先を読もうとしているのは中々に良い心掛けだ。まぁ俺は二手三手先を読んでいるので効かないが。


十兵衛は地面を殴って悔しそうにしていたが、グッと歯を食いしばって俺を見上げた。前向きで良い眼をしている。


「武雄様。どうしたら体力が付くのでしょうか。」

「十兵衛、体力をつけるより一撃必殺を会得した方が勝機はあるのではないだろうか。」

「儂と清隆の腕じゃ一撃必殺を会得する方が大変だろう。それに武雄様のような武芸者には一撃必殺など効かんぞ。」

「武雄様のような武芸者だからこそ、私達のような弱者が勝つには隙を付くか一撃必殺で倒すしかないと思うのだが。」


十兵衛と清隆が胡坐をかいて頭を捻っている。うんうん、良い傾向だ。

一乗谷で重光にしごかれていた日々を思い出す。どうやったら重光を倒せるか。海衛門と幸千代、九郎兵衛とよく相談したものだ。あぁ、春蘭軒も九郎兵衛の後ろに隠れるようにして座っていたな。

その時の事を思い出しつつ二人に向き合う。


「いいか、敵を倒すにはいくつかの条件がある。一つは己の強さ。もう一つは環境だ。」


俺も地面に胡坐をかくと、二人がこちらに向き直る。


「己の強さは言うまでも無いな。日々身体を鍛え、体力をつけて健康を維持する。武芸を学び、実践して身体に叩きこむ。」


重光と小次郎にはひどい目にあわされた。いや、よく教えてもらった。

子供相手に容赦なく一撃を入れていたが、よく耐えられたものだ。


「二つ目の環境ってのが大事でな。例えば今なら何がある。」


あえて漠然とした質問を投げかけると、十兵衛と清隆はキョロキョロと辺りを見渡すが、手にした木刀くらいしか思いつかないようだ。


「相手を倒すのは太刀だけじゃない。その辺に転がっている石で殴っても良い。砂を掴んで目くらましをしても良い。噛みついたって股ぐらを蹴り上げたって良い。何としてでも生き残るのが戦ってもんだ。」


地面の砂を掴んでパラパラと落とす。十兵衛と清隆は落ちる砂を真剣な表情で見つめている。

『~朝倉宋滴の言葉~』と言っていたのを思い出す。武士道なんて言葉はまだ存在していないようで、勝つためにはなんだってする精神は戦場では当たり前に行われている。腕比べの場では正々堂々と戦うことが求められるようだが。


「俺は座学は苦手だ。兵を率いて戦ったことなんて殆どない。だが戦場の空気、生き残る術は教えてやれる。まずは生き残れ。そしてそこから学べ。」

「武雄様は何度も戦に出て生き残られたのですよね。良き将とはどのような方でしたか。」


十兵衛が目をキラキラさせて聞いてくる。

良き将か。殿様を思い出しながら少し教えてやるか。


「まずは分け隔てなく話せることだな。身分や出自にこだわりすぎて情報源を絞ってしまうと、急ぎの知らせや些細な兆候を見逃してしまう。何かあればすぐに知らせてもらえるような関係を築くのが大事だ。」


フムフムと十兵衛が頷く横で、清隆が口を開く。


「武雄様。その知らせが誤っていることもあると思うのです。それに誰彼構わず話を聞いていては、本当に大切な知らせを知るのが遅くなってしまうこともありませんか。」

「清隆の言うことも一理ある。一番下っ端が殿様に直接情報を届けることは少ない。だから俺達のような将が情報を集め、真偽を見抜いてお嬢へ伝えるんだ。」


今くらいの規模だったら直接お嬢に話てもらった方が早いがな。それに今の高藤家じゃ忍びなんて雇う金は無い。そもそも情報を得ることすら難しいのだ。


「戦ってのは事前準備が大事だ。武器、兵糧を集め兵を鍛える。それだけじゃない、一番大事なのは情報だ。敵が攻めてくる、敵の拠点はどこか、敵の大将はどこにいるか。そういった情報を集めておかないと敵に良いようにされちまう。」

「敵を打ち負かすためだったら何でもします!」

「多くを知るために分け隔てなく知らせを受けると。かしこまりました。」


合点がいったようで、十兵衛と清隆は力強く頷いた。


個の立ち回りは教えてやれるが、将として大事なことはどう教えれば良いのだろう。俺も将として戦ったことなんて無いからな。もう少し安広の座学をちゃんと受けておけば良かったと後悔する。

まずは俺が戦場で感じた心得を伝えていくしかないな。堂々と胸を張り、兵を鼓舞する。情報を集めて判断を下す。そのためには下準備をしないといけない。

軍略についてはわからん。朝倉家で何度か従軍したが、戦ってのはどうにも掴みどころがなかった。

いつ、誰を、どうやって攻めるのか。

敦賀城攻めは景豊の謀反に乗じて力攻めをした。油断しているであろう敵に対して速度重視で戦った。

坪江合戦や九頭竜川合戦では攻め寄せて来た一向宗を追い払った。いずれも国境を突破されたが、国境にいた兵がなんとか撤退してくれたから持ち直せた、と思っている。この辺は殿様の指示があったのか、それぞれの当主が判断したのか分からないが、いずれにせよ『一度退いて立て直す。』って判断が出来る状況、関係性だったことは確かだ。

関係性を築くためにはどうしたら良いか。お嬢は国を豊かにして『高藤家に従った方が良い』と思わせることで影響力を高めようとしている。稲作に防寒具、木版印刷。他にも現代知識を使って国を豊かにしていきたいところだ。まぁ俺に何が出来るかわからないが。


「越中は抜きんでた武家はいない。だが一向宗の勢いも強く、周辺諸国も安定していない。そして俺達のような小さな武家はちょいと風が吹けば飛んじまうような規模だ。だからこそ、お嬢の下で一致団結して国を富ませていかなきゃならねぇ。お前達も色々と思うところはあるだろうが、高藤家に仕える身となったんだ。腹くくって駆け抜くぞ。」


「はい!」と姿勢を正して十兵衛と清隆が返事をする。俺の言葉に感化されたのか、二人ともおもむろに立ち上がって木刀を手に手合わせを始めた。


カンと木刀がぶつかり合う甲高い音が響く。十兵衛と清隆が額に汗を浮かべて鍔迫り合いをしている。

お嬢は越中の統一を目指している。そのためには何もかもが足りない。


「まだまだ俺が頑張らないとな。」


ブンと腕を振って立ち上がった。

次回は10月20日(月)18:00投稿予定です。

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