表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武勇伝  作者: 真田大助
103/111

祭り_参

「話しにならんの。」


肩を怒らせて帰っていく二人のお坊さんを見送りながらお爺様が息を吐く。


「当たり前だ。坊主共の面子を潰してんだ。喧嘩別れになるに決まってる。」

「そう思うならどうしてあの場で止めてくれなかったのよ。」

「それを狙ったんじゃないのか?」


縁側で寝そべる武雄を非難するが後の祭りだ。

福光でのお祭りは大盛況で終わった。出店売り上げ勝負は武雄の優勝。売り上げ金はその日の呑み代に消えたのはちょっとした逸話になっている。

聞けば福光近隣だけでなく城端からも多くの人が来たらしい。ウソかホントか、越後の山王屋さんも来ていたとか。


私を殴った円勝とその一行の後処理は武雄とお爺様にお願いしたのだけれど、その扱いが良くなかった。

身ぐるみを剥がされた善徳寺の一行は、縛り上げられて善徳寺の門前に放り投げられたらしい。しかもそれを主導したのは武雄とお爺様。そして参加したのは祭りに来ていた不特定多数の民。聞けば百を超える人数で善徳寺の門前に迫ったらしく、善徳寺では大慌てで戦支度までしていたらしい。

民衆は口々に善徳寺を非難し、私への謝罪を求めたらしいが、その夜はそれ以上の揉め事はなかった。


しかし祭りが終わって四日。善徳寺から怒りの使者が送られてきた。

善徳寺の言い分はこうだ。

高藤雪は誤った経典を配布し、民を欺いている。

御仏の教えに反する行為であり、到底許せない。

更に善徳寺の人間を一方的に虐げ、辱めた。


そしてこう要求してきた。

高藤雪は髪を下ろして善徳寺に詫びに来ること。

高藤家はその全財産と領土を善徳寺に寄進すること。

発行した経典の全てを回収すること。


もちろん丁重にお断りしてお帰り頂いている。

経典の一件に加えて、円勝を縛り上げたのが実円和尚の逆鱗に触れたらしい。

と言うのも、円勝は実円和尚の子らしく、次期善徳寺の代表となる存在だ。それにしては随分と軽率な身の振舞だったと思うが、そんな彼が辱められたのだ。彼の行動がどうであれ、善徳寺としても退けなくなったのだろう。


「完全に決裂ね。」

「敵味方がハッキリして良いじゃねぇか。どの道、相容れない連中だったんだ。」

「こればかりは儂も出倉に賛同するわい。早川殿には悪いが、当家の旗色は鮮明になったのう。」

「そうね。明日にでも早川さんに事の顛末を伝えてくるわ。」


早川家は私の知る限り、越中の諸勢力とは中立な関係を築いている。

一応、高藤家は早川家の下に付いているので謝罪と弁明は必要だろう。


「それよりも連中、俺達の商いまで監視しているのは驚いたぜ。」

「荷に経典を混ぜておったからのう。そこから辿ったのじゃろう。」


善徳寺からの使者は高藤家が扱う毛皮についても糾弾してきた。

曰く、殺生を推奨する悪しき行いだと。天に背く行いで稼いだ金は寺で供養してやるから寄越せ、と言った主張だった。


「しかし越中で商売がやりにくくなるな。」

「そうでもないわ。むしろ敵味方を判断する良い機会になるわよ。」


武雄とお爺様が首をかしげて私を見る。


「恐らく善徳寺は高藤家、ひいては福光屋から商品を買わないように指示を出すと思うわ。それに黙って従う武家や寺社、村々は少なくとも味方にはなりえない。反対に秘密裏にでも取引を継続するような家は味方になりえる。」


福光屋は様々な品物を扱っており、今では福光を中心に砺波郡で手広く商いをしている。福光が廃れて商人が殆どいなかったことが幸いした。特に防寒具は高藤家が一手に担っているため、この流通を止めるのは少なからずダメージを受けるはずだ。


「商隊が襲われないように気を付けないとね。」

「福光屋にはよく言っておく。なんなら小姓共を護衛に付けても良いかもな。連中が襲ってくるなら良い訓練になる。」

「それよりも先に対処すべきは越後からの民についてじゃろう。」


腕まくりをした武雄を制するようにお爺様が苦言を呈する。


「昨日来た一団を受け入れられる空家がもう無いと聞く。これ以上香上村で引き受けるのは出来ぬと宗吉が悲鳴を上げておるぞ。」


越後の山王屋さんからは変わらず定期的に人が送られてきている。

名目上は越後の戦乱から一時的に避難している体だが、話しを聞くとその殆どが越後に帰る気が無い。それもそのはず。山王屋さんが送ってくるのは土地を焼かれ、追われた人達。帰るべき土地が無い人達なのだ。


「十日後にはまた追加の一団が来るって聞いたぞ。」

「断ることは出来んのか。」


断ることは出来るが、出来る限り受け入れたい。仕事は山ほどあるのだ。


「問題は受け入れる家、場所が無い点よね。」


それなら解決策は一つ。嫌な顔をされるかもしれないけれど、相談してみようと思う。

丁度明日、取引に来てくれる予定だし。

帳簿の確認をしようと隣の部屋で執務に励んでいる六人に声をかけると、バタバタと我先に駆け寄って来た。


・・・


「そいで、影尾衆の村を使いたいと。」


影尾衆の棟梁、野介さんが汗を拭って聞き返す。

まだまだ夏真っ盛りだが、野介さん達影尾衆は相変わらず毛皮を身に纏っている。


「えぇ。越後からの流民を受け入れているのだけれど、受け入れ先が無くなってきて。もし良ければ協力してもらいたいの。」

「こちらにどのような利があるんで。」


疑いの眼差しを向ける野介さん。そこは安心してほしい。


「もちろんタダで住まわせてもらうつもりは無いわ。影尾衆が獲って来た獣の解体や仕分け、道の普請に荷運び、通商。これらを新しく住まう民に任せてほしいの。もちろん彼らへの報酬は私が支払う、影尾衆はただ仕事を渡すだけ。」


影尾衆はいくつか隠れ里、拠点を構えていることは聞いている。拠点は農作業には向かず、狩猟などで得た毛皮や肉を加工して高藤家に卸してくれていると言っていた。その加工作業や荷運びを民が担うことで、影尾衆は狩猟や他のことに注力することが出来るのではないだろうか。

民としても農作業が出来ない分、こうした仕事を担うことで報酬として高藤家から米を支給することで労役と糧を得る仕組みだ。


「見込みがある人がいれば影尾衆に引き込んでくれても構わないわ。反対に、野に降りて働きたい影尾衆が居れば私達も歓迎する。」

「手持ち無沙汰な男が出るようならこっちで引き取るぞ。直参として俺が鍛えてやる。」


私と武雄が説くと、野介さんは目を瞑ってうーんと唸る。

暫くブツブツと何か呟いていたが、決心がついたようだ。ポンと膝を叩いて目を開いた。


「その話し、乗ってみよう。香上村の西に小さいが拠点があるで。そこを譲りまさぁ。」

「ありがとう!野介さんが話の分かる人で本当に良かったわ。」

「お雪様にはだいぶ稼がせてもらっているでな。この話しもきっと旨みがあるだろうて。」

「もちろんよ。影尾衆は大事な味方だもの。これからも頼りにしているわ。」


へへ、と照れたように頭を掻く野介さん。

これで一つ道筋が付いた。越後からの流民達には事前に説明は済んでいる。

反対意見が出ると思いきや、ほとんどの人が移転に前向きだった。香上村での生活に不満は無いが、やはり余所者として居心地が悪かったらしい。その辺の気遣いは足りていなかったと少し反省する。

野介さん曰く、譲ってくれる拠点は香上村を北に半日程進んだ場所にあるらしい。三つの川が合流する渓谷で、三又と呼ばれているとか。


「半日も進んだら加賀との国境じゃねぇのか。」

「いんや。影尾衆の足なら一刻で着くだで。慣れない山道を歩く連中にゃそれくらいかかると思いまさぁ。」

「道の整備は優先的に進めましょう。香上村側からと三又から、双方向に進めていけば多少は早く開通するでしょう。」

「三又は高い山に囲われているでな、煮炊きの煙も目立たんでよう。人を隠すにもうってつけの場所でさぁ。」


詳しく話しを聞くと、三又を超えて更に道なき道を進めば加賀との国境に出るらしい。

その道は影尾衆でも険しく、間違っても兵や旅人が通る道ではないが、いざという時には使えるかもしれない。


「北に進めば高坂城がありますで。あの連中を追い出すための伏兵としても使えまさぁ。」


高坂城。

高坂家が治める土地で一向宗派の武家だ。製鉄の拠点でもあり、高坂城周辺の山は禿山となっているのは有名な話だ。

山に生きる影尾衆としたらそれだけで許せない存在なのだろう。

桑山城で石黒家が戦っていたのもこの高坂家。いつか敵対する時に、三又の地が役立つかもしれない。


そんな少し先の事を考えていたが、野介さんはパンと両膝を叩いて私を現実に引き戻す。


「そったら三又への荷運びは影尾衆が請け負いますだで。まだそう多くの人は住めんが許してくだせぇ。」

「もちろんよ。何から何までありがとう。」


私がお礼を言うと、野介さんの顔が険しくなった。


「お雪様。一つお伝えしときますで。最近、高坂に人の出入りが多くなっておりまさぁ。鉄の売り買いだけじゃねぇ、男達が集っておりまさぁ。」

「戦支度か。」


武雄が聞くと野介さんが頷く。


「神保か木舟石黒かわからんが、どこぞと戦しようって臭いがしてまさぁ。影尾衆は次の冬は南に移っておりますで。気を付けてくだせぇ。」


神保家、木舟石黒家と一向宗の関係は良好とまではいかずとも、小康状態と認識している。

般若野の合戦では協力して長尾家を打ち払い、それ以降は越中国内で大きな戦は起きていない。

しかし事態は急変するものだ。武家と一向宗の関係は特に。


「忠告ありがとう。私の方でも気にしてみるわ。野介さん達も十分気を付けてね。」


ゴロゴロと雷が鳴る音が聞こえる。

西の方角から黒雲が迫って来ていた。

次回は12月3日(水)18:00投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ