バチェラーパーティー
コンコン会そのものは、趣向を変えて2週間に1回開かれていた。
清明は 領主としての立場もあったので、月に1度開かれる懇親会に3回出席し、
3回目の懇親会で、自己アピールをして、3人の女性と巡り合った。
その後、懇親会には参加せず、2か月間は彼女たち一人一人とのデートをがんばった。
が、キャラハンとはデートの日取りがおりあわず、まだ一度も話せないまま
思い切って キャラハン・チッチ・ムービーの3人を コンコーネ領への招待旅行に誘った。
その時 すでに コンコン会が発足して半年目に入っていたので
清明としては、なんとしても 婚約候補を一人に絞りたいと思ったからである。
そんな清明を、クランの仲間たちは、ハラハラしながら見守っていた。
清明があまりにもマイペースで、お相手の女性の気持ちや 互いの心の交流がなおざりなのではなかろうかと心配で。
「コンコーネ領へのご招待」で一波乱あり、
清明は、「自分が結婚したいから相手を選ぶ」という独りよがりな気持ちを捨てて
「生涯を共にしたい方とのおつきあいを始める」初心に返って、キャラハンと1対1の交際をすることに決めた。
本音の部分では、キャラハンとうまくいかなくなった時の保険として
ほかの女性とのつながりもキープしたいから、もう少しコンコン会の会合には出たいなぁという気持ちが まったくなくなったわけではなかったが、
キャラハンが「そんなあやふやな気持ちの方とは 真剣な交際はできません!」ときっぱり言ったので、腹をくくって キャラハンと向き合うことにしたのだ。
そして、コンコン会が当初の予定通り発足後1年たって解散となるのにあわせて、
清明とキャラハンも婚約することにした。
最初に出会ってから約9か月、1対1の交際を始めて半年目のことである。
そして、本日は 久しぶりに、龍の庭に行き、クラン仲間に婚約報告をしている。
思えば コンコーネ領へのご招待中に、チッチに振られ、ムービーにごめんなさいと詫びを入れ、キャラハンとの本格的デートを前にどうしようと、クラン仲間に相談に行ってから
今日までの約半年、龍の庭の仲間とはご無沙汰していたなぁと思いながら。
尚、スカイとは 仕事上のつきあいもあり、時々 王都で顔を合わせては
「キャラハンとの仲が心配だ~
ここで振られたら もう一生結婚相手とは巡り合えないかもしれない・・」
などと弱音を吐いては、あきれられていた。
「君ね~ 結婚できさえすれば良いのなら、ぼくが紹介した相手と結婚すればいいじゃない。
それこそ コンコーネ領主の妻になりたい女性たちの中から僕が選んで 王命で君に婚約を命ずるから」スカイ
「それは困ります。
私は 暖かい家庭を作りたいのです。」清明
「だったら、君が 心を決めた相手と とことんつきあって、
だめなら すっぱりあきらめて
それからまた 次の相手を探せばいいじゃないか」スカイ
「・・・」清明
思わず二人して『こんなみっともない話、絶対 ほかの人には知られたくないな』と思いながらも
キャラハンと意見が分かれた時などは、つい 将来が不安になって スカイに愚痴をこぼす清明と、
(しょーがないなぁ。片羽しか持たない鳥は、もう一方の羽をもつ連れ合いと一緒にならなければ 比翼の鳥として幸せになれない定めだものなぁ。
連理の枝・比翼の鳥って、夫婦の情愛の深さを例える言葉だけど
それは 逆に言えば、そういう相手と出会わなければ幸せを感じられない性格の二人ともいえるのだから。
世の中 僕みたいに 羽が1枚でも2枚でも3枚でも気にしない。あるものを活用すればいいんだと割り切れる人間ばかりじゃないから)
と心の中でつぶやきながら、ふんふんと清明の愚痴に付き合うスカイであった。
さらにまた 龍の庭で暮らす心配性の友人でありクラン仲間でもあるボロン達に
時々 清明の状況を伝える役目も、スカイは引き受けた。
なにしろスカイは 転移魔法を自在に扱えるるので、メッセンジャーとして気軽に飛び回ることができたのだ。
◇ ◇ ー清明の婚約直後、結婚3か月前、龍の庭にてー ◇ ◇
「良い子は寝んね」の時間なので、子龍のゴンは就寝中
久しぶりにスカイ・清明・コンラッド・ボロン・ミューズ・デュランがそろって
星空の下で、盃を片手に歓談した。
清明が婚約したと聞いたミューズは 楽しそうに言った。
「バチェラーパーティーをしよう!」
「なんです?それ?」デュラン
「独身最後の夜に 新郎予定の男性とその男友達が集まってやるバカ騒ぎさ!」ミューズ
「それも 異世界の風習ですかね?」デュラン
「そうそう。」ミューズ
「いやですよ。せっかくの結婚式に二日酔いで参加するのは」清明
「それって 新婚家庭に不和をもたらす為の嫌がらせ行為じゃないか?」ボロン
「二日酔いの酒臭い息をして結婚式や初夜を迎えたら、一生恨まれそうです。
それに 私としては、ベストの体調で大切な妻を迎えたいですし、
せめて新婚の時くらいは 最高の自分を見せたいです。
どこまでできるかどうかは別にして」清明
「そもそも こうやって 清明の婚活成果を聞きに集まっていることそのものが、バチェラーパーティーみたいなもんじゃないか」スカイ
「ほらさ、結婚したら夜遊びできないから、独身最後の夜を楽しもう!とかって言わないの?」ミューズ
「そもそも 私は 夜遊びなんてしません。」清明
「独身時代に バカ騒ぎや夜遊びする人って、結婚後も なんやかんやと口実を作って同じことをやってるような気がしますけど」デュラン
「だね。
うしろめたさを紛らわせる口実さへあれば、って感じだね、
風俗とか バカ騒ぎが好きな人間は。
結婚前は「男の付き合い」、結婚後は「仕事の付き合い」って名目をつければいいって感じだ。」スカイ
「そうそう そして そういう遊びに世間が白い眼を向けだすと、
『これは雄の特性だ!』とかって自己正当化を図って、批判する者を悪者呼ばわりの大合唱!」デュラン
「社会人経験の長い人間ならではの意見だな」コンラッドが スカイとデユランを眺めて言った。
「ってことは ドワーフには そういう傾向はないのかい?」ミューズ
「ああ 昔ながらの伝統を重んじる家庭や集団では、やっぱり家族・親族・仲間の親睦に性別は関係ないからな。
男だけ 女だけで集まったって、めいめいの家族もまた互いに親しく付き合っていたら、そんな悪い遊びなんてできないよ」ボロン
「結婚前の仲間を疲れさせるようなことはしませんね。
やっぱりベストの状態で新生活に送り出してやりたいと思うのが人情ですよ」デュラン
「そっかー。
でもさー、やっぱり結婚したら 家庭が大事になって ドラゴンクラン出てこれなくなるようなことを、以前 清明は言ってなかったっけ?」ミューズ
「そのことについては、ちゃんと事前にキャラハンに確認をとっています。
私が ドラゴン・クランの一員であり、
その縁で 国王に即位する前のスカイとも知り合い、今もご厚情いただいているので、
時々 急に家を空けたり、連続して個人休暇を取ることもあるし、
その間の出来事については守秘義務で話せないことの方が多いので詮索しないで欲しいし、
それが結婚生活の維持に必要不可欠だってことは」清明
「ふーん それで彼女は納得したの?」ミューズ
「納得しない人とは結婚できません」清明
「そのあたりの確認には わしも手を貸した」コンラッド
(コンラッドは その気になれば 人の心や頭の中が読めるのだ。
もちろん よほどのことがない限り そういうことはしないが)
「そっかー」ミューズ
「その代わり 私もしっかりと条件を付けられましたよ」清明
「へー どんな条件だい?」ボロン
「キャラハンの仕事に口を出すなって」清明
「あれ? 彼女は自分の仕事をやめて領主婦人の仕事に専念するんじゃなかったっけ?」ボロン
「そうそう その為に、領主婦人の仕事をに就任するための支度金・領主婦人の仕事を引き受けることに関する年俸などの契約までかわしたんじゃなかったっけ?」ミューズ
「それがね、最初は、単純に 結婚したら領主婦人としての役目に専念するって話だったんです。
ところが、私が 結婚後も家庭を抜けることがあるって告げたとたんに、仕事は止めないとか言い出して、領主婦人の仕事に専念してほしければ、支度金を出せ・年俸を払えって話になっちゃったんですよ」清明
「なんだ 年俸云々は そういういきさつで決まったのか」ボロン
「そうなんです」清明
「つまりそこまでして結婚したい相手だったんだな、キャラハンは」スカイ
「いえいえ全然。なんかもう 完全に妥協です。
契約結婚っていうのかな?こういうの・・」清明
「そこに愛は?」ミューズ
「これから 紡ぎます」清明
「ええ~~~~~」ミューズ
「まぁ 悪い人ではなさそうですし、婚活に疲れました。
それに 恋が結婚につながるわけでもないと悟りましたから」清明
「それって 将来に浮気が発生しそうな」ミューズ
「それはないです
だって 自分がのぼせた相手って どう考えても結婚につながりそうもなかった人だってのは 十分わかってますし
この先 誰かにのぼせたとしても そういうのは封印しますよ。
トラブルは嫌ですから。
それに 私は どっちかと言えば ”結婚生活”へのあこがれが強いんです。
そして そのあたりについては キャラハンともいろいろ話して まあご理解いただいたというか、わりと共通点があったというか・・・」清明
「なんか 心配になってきた」ミューズ
ークラン仲間の歓談はまだまだ続くー