チッチの結婚・新たな親交の始まり
王族であるチッチは、結婚後も気楽に生きたいからという理由で、
代々王家の忠臣であった家門出身で、有能官吏でもあるバランと結婚した。
◇
二人の内輪の結婚式には、コンコーネ公爵夫妻(=清明とキャラハン)も参列した。
内輪の式だったので、披露宴はなし。
そのかわりに、両家の親族の親睦会と新婚夫婦の親しい友の語らいの場が設けられた。
新郎のバランは、夫婦代表として親族の親睦会に顔を出し、
スカイと清明とキャラハンとチッチは「語らいの場」でくつろいだ。
「語らいの場」はもちろん、スカイ国王所有の居酒屋♪
(店主役とウェイター役を務めるのは、有能護衛でもある影の何某達)
コンコン会では、いろいろな男性との街中デートを楽しんでいたチッチも、さすがに居酒屋は初体験。
なんでも 清明以外の男性がデート場所に選んだのは、有名なカフェ・レストラン、超一流の劇場だったとか。
それゆえ、清明が初デートで 花の見ごろの公園に連れて行き、チッチのリクエストに応えて
公園のボートを漕いで、水上から岸辺の花見をしたのが、チッチに とても好印象を与えたらしい。
その後、清明はチッチに請われるままに、人気の競馬大会やら
騎士の競技会やら、拳闘士の格闘大会やらに連れていき、チッチは大喜び。
チッチのその無邪気な様子に清明はのぼせてしまい
チッチに請われるままにコンコーネ領招待旅行を企画するに至ったとか。
この とんでもない暴露話に、キャラハンの嫉妬の虫がちょっぴりうずくと同時に、
(ここにバランさんがいなくてよかった。
それとも彼はすでに知っているの?
だとしたら 王の側近有力者であるバラン氏とコンコーネ領主である清明の今後の関係はどうなるかしら?)
と領主婦人らしい心配も心によぎるキャラハン。
「いやぁ あの時は ほんと大変だったんだよ、警備が。
僕は清明の剣士としての腕も護衛としての腕前も知っていたからね、
チッチが ほかの男と一緒にあちこち出歩くよりは
清明がエスコートしてくれた方が安心だと思って任せてたんだけど、
警備の手配をするバランが やきもきしてさ。
とうとう それまでの殻を破って、急にコンコン会に登録したのが、チッチがコンコーネ領に行ってた時の事。
そして チッチと清明の結婚の線が消えたと知るや否や
『もう これ以上 黙ってはいられません』とばかりにチッチに交際申し込みをしたんだって。
この話は、あいつが突然チッチにアプローチし始めた時に呼び出して聞いたから まちがいない」スカイ
「え~~!
それを ここで暴露してしまって大丈夫なんですか?」清明
「もちろん。
話の流れで僕がばらしてなければ、後から来るバランが自分で言ってたよ。
こういうことは 早めに情報を共有しておいた方が、あとくされなくていいだろ」スカイ
「さすが おじさま。
何食わぬ顔で 影から手を回して、後から白状するなんて」チッチ
「そんな 人聞きの悪い言い方をしなくても」スカイ
「いいええ、充分 お人が悪いです。
私 この話 婚約前にバランから聞きまして あきれましたわ。バランにも おじさまにも。」チッチ
(以下略)
なにはともあれ、委細承知の上で結婚したチッチとバランの今後は大丈夫だろうと ほっとしたキャラハン。
「私は 親友だと思っていたスカイの掌の上で踊らされていた道化ですか・・」落ち込む清明
「あー 僕は 君の友人でもあり、国王でもあるから。
君の人柄と腕前を知るがゆえに、大事な姫のエスコート役を任せたわけだし、
友人だから 君のデートに口をはさまなかっただろ。」スカイ
「スカイおじさまったら、私のデート相手で 呼び出しかけて脅さなかったのは 清明さんだけだったんですって。
夫を含めて、清明さん以外のデート相手には、
おじさまが国王として呼び出しをかけて、口止め方々脅していたと知ったときは
ほんとあきれましたわ」チッチ
「あ でも バランについても、君との仲が固まるまで 口を出さずに我慢して見守っていたよ。」スカイ
「何を言ってるんですか。
初デートのあと すぐに 彼を呼び出したのでしょう?」チッチ
「それは 初デートの時に、彼が 君に告白したからだよ」スカイ
「そりゃ 彼とは 知らない仲ではなかったですから
なぜ 今頃 デートの誘いを?と私から尋ねたからです」チッチ
「それは知ってる。
でも 王としては 一族の姫に告白した男をほっておくわけにはいかないじゃないか」スカイ
「今だから言えることですが
何も知らずに チッチさんにプロポーズしなくてよかったと思います。
王族の方との恋愛や結婚なんて 私には無理だったと思います」清明
「でしょ でしょ。
私が たくさんの男性とデートした気持ち わかるでしょ?」チッチ
???の清明
「もしかして、チッチさんって かごの鳥のような気分だったので、
デートと言う名の 街中探訪を楽しんでおられたとか?」キャラハン
「それを目的としていたわけではないけれど
結果的に そうなった面があったことは認めるわ。」チッチ
「チッチは まだ若かったんだ。あの時まだ20歳だったから。
ごめんね うちの姫が迷惑かけて。」スカイ
「という事情を全部オープンにしましたので
できれば これから 隠し事無しのお友達として
キャラハンさんとお友達になりたいのですけど、許していただけますか?
私 ざっくばらんに話せる女友達になっていただきたいんです」チッチ
(わだかまりなく これからつきあえる?)と清明に目で問いかけるキャラハン
「私は どっちでもいいですよ。
スカイとの仲は あとで一発殴らせろ!って思いますけど
チッチさんに対して 私は わだかまりがないですから」
そう言って、清明は キャラハンに(だいじょうぶ。君の好きなようにして。後のことは任せろ)と目で気持ちを伝えた。
「おお 言ってくれるね
君に 私が殴れるかい?」
スカイが清明に向けて不敵な笑いを見せた。
「今度 試しましょう。」
そう言って 清明はスカイの肩に手を回した。
((一刀必殺の技と 必殺魔術師の真剣勝負を
いかに安全に執り行うかなんて問題
神獣コンラッド様に相談しなくては無理だよね))
と二人とも思いながら肩を組んだスカイと清明
(ちなみに この問題を後日コンラッドに相談した二人は
「やめとけ 馬鹿もん。相打ちに決まっとろうが!
それに あとの始末が大変じゃから わしは許さん!」
とコンラッドに一喝されて終わったとかいう話だ。
純粋に体術だけなら清明が勝つが
負けず嫌いのスカイが おとなしく殴られているわけもなく
殴られるとわかっていて魔術を使わない勝負をするはずもないというコンラッドの指摘に、
スカイも清明も苦笑いであきらめるほかなかったのである。)
そんな二人の思惑をよそに、キャラハンは少し考えて
「これから よろしくお願いします、姫様」
とチッチの前でカテーシーをした。
「やん! こういう時は 握手で庶民的なあいさつがいいわ♪
お願い♡」チッチ
「私 そこまで 器用ではないんです。
無理 言わないでください」キャラハン
「すまないね、キャラハン。
チッチ、君も 友達が欲しいなら、友達を困らせない社交術を身につけなさい。
もう 大人なんだから。
チッチ 君が 今覚えるべきことは
友達付き合いに不慣れな自分だけど どうぞよそよろしくとあいさつすることだよ。
王族の身分を使って 自分の思うがままの「つきあい形式」を相手に押し付けることではなくて」スカイ
「えっ そんなつもりは。
ごめんなさい」
スカイに頭を下げたチッチは、改めてキャラハンに向きなおり
「未熟な私ですが、どうぞよろしくお願いします」
と キャラハンに向かってカテーシーを返した。
キャラハンは にっこり笑って
チッチをハグした。
「私も こういうの未経験なのだけど
憧れてはいたの。
友達としてのハグ どうだったかしら?」キャラハン
キャラハンのハグにびっくりしたチッチも にっこり笑って
「わぁ 同性の友達同士のあいさつにも ハグがあるんですか!」
と言って キャラハンに抱き着き返した。
◇
そうこうするうちに、身内の顔合わせ会を退席してきたバランが到着。
両家の親族会で無事に、新婚二人の名字を「スプリング」とすることが了承されたと報告した。
「あらためて おめでとう、スプリング夫妻」
スカイが チッチとバランを祝福した。
王国では、王族に名字はない。
だから 成人した王族は 各々の肩書をつけて呼ばれる。
王宮魔法使いスカイ スカイ国王 といった感じで。
婚姻による臣籍降下があれば、結婚相手の姓を名乗ることになる。
一方 婚姻相手が王族に加われば、婚姻相手が姓をなくす。
チッチの場合は、王宮に住むという王族対応のまま
婚姻相手を王族に加えないことにしたため
夫婦としてはスプリング夫妻を名乗り、
身分はチッチは1代王族(チッチ本人は継承権を持つがその子には継承権なし)バランが平民となった。
ただし、バランは一人っ子だったので、バランの子どもは、バランの実家を継承することになっている。
これは チッチとスカイ双方の意向を汲んでの決定であり、
チッチ・バランと双方の両親も同意していたのだが
その他の親戚への公表は、結婚祝いの親族会が最初であった。
それゆえ、万一に備えて その集まりをチッチは欠席して
バランが発表に出向いたのであった。
バランの実家の継承権については、変則的な扱いではあったが、
『王家の独立性を重視するスカイ国王の下で、王家の姫と結婚するならこういうこともありか』と、バランの親戚も納得したらしい。
チッチの両親も、
『実力のない王族を減らす意向のスカイ国王から、成人したチッチが王族から追放されなかっただけで儲けもの、
チッチの子供にも 一応バランの実家の継承権が与えられるならありがたい』
と、この条件を受け入れていた。
◇
バラン・チッチ・キャラハンの親睦会が展開するあいだに
スカイと清明は居酒屋の2階に上がっていつもの飲み会に。
スカイは 花嫁の後見人として苦労話をたんまりと清明に聞かさせたかったのだが・・
今日は ちょっぴり気を悪くしていた清明が、「飲み比べしましょう」と言い出した。
「だめだよ。護衛の数が足りない」スカイ
「どうして?」清明
「バランは 荒事がだめなんだ。
一応 自分の身は守れるはずだけど、護衛としては役に立たない。
チッチは言わずもがな、キャラハンもだろ?」スカイ
「国王も含めて 護衛対象者が4人だと 私も飲めませんねぇ」清明
「だから 飲み比べするなら クランの中 限定だよ」スカイ
「今日は いつもの護衛はどこに居るんです?」清明
「下の部屋をチッチ達が使っているから、
今回は 護衛の居場所がなくて、影をひそませてる」スカイ
「はぁ 王族って 数が増えるほど 面倒ですね。
せめて チッチさんの配偶者を、護衛できるだけの腕のある人にすればよかったのに」清明
「だって、彼女の好みが文官系だったのだもの、仕方ないだろ。
君のように 社交も教養もできて 護衛も得意なんて人
そうそういないよ。
しかも 彼女と気が合い 歳回りがあうという条件まで加われば皆無」スカイ
「確かに。
そこまで言ってもらえば 私の気もおさまるというものです。
あー 身が固まって良かった!」清明
「君もチッチも無事結婚できてよかった」スカイ
「それにしても あなた 王族の結婚に関して、ややこしいことを考えていますね。」清明
「王族の数が増えれば、権力に慢心する者も増える。
継承者が少ないと 一族が絶える危険もある。
優秀者だけを選ぶといっても、過当競争は 当事者の性格を悪くするだけだし、
競争と不正は双子っぽいしねぇ・・
だから 個人の幸福につながりそうな希望は尊重しつつ
婚姻による 一族の増加や権力の広がりを抑えつつ
その一方で 有能な次世代が生まれた時にはそれを逃さず・・」
と溜息をつく スカイ
あきれる清明
そこに 到着したバラン。
バランは 清明に挨拶に来たのだ。
◇
「一応 裏話的なことは 僕がすませたから、
あとは 君たちで親睦を深めたまえ」スカイ
「バラン・スプリングです。
夫婦ともども、今後コンラートご夫妻とのご親交を賜りたく」
「清明です。
こうして 個人的にお話しするのは 初めてですね。
さきほど そちらの奥様からキャラハンにお声がかかりまして
キャラハンの夫として、姫様のご夫君にご挨拶申し上げます」
「確かに 家格から言えば 私の実家も今の私も、コンラート公爵様の足元にも及びませんでした。 申し訳ありません」
深々と頭を下げたバラン
「ですから ただの 清明としてお付き合いいただけたら嬉しいですよ、バラン」
清明はにこやかに 清明に手を差し出した。
「ありがとうございます。
これから よろしくお願いします」
バランは 清明と握手した。
「うちの姫とコンラート公爵夫人は いずれ社交界の華となり、
コンラート公爵は 今後も 社交界で商談にいそしみ
君たち二人は 社交界とは関係なく実直な付き合いをする
ってことで 一件落着かな?」スカイ
「ですね」清明
「はい」バラン
「せいぜい 愛妻家として 各自の妻のために 二人とも頑張ってくれたまえ」スカイ
「「はい」」




