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清明の結婚  作者: 木苺
Ⅵ いよいよ結婚!
41/42

新婚生活の始まり

結婚後 初めての朝を迎えた二人。


昨夜は疲れてバタンキュー、


寝心地の良いベッド、静かで暑くも寒くもないお部屋だったので、

二人は 朝の10時までぐっすりと眠った。


目覚ましアイテムが、鶯の鳴き声で二人を起こした。


目を覚ました二人は 恥ずかし気に顔を見合わせ、朝の挨拶。

 「「おはようございます」」


「今日も予定がぎっしりですね」キャラハン


「今日も二人で 頑張りましょう」清明


◇ 


スイートルームなので、寝室の横には フロアが付いていた。


そこには すでに 朝食がセットされていた。


あらかじめ二人の好みは伝えてあったので、お気に入りのモーニングセットを食べ

荷物をまとめ、再び結婚式の時の衣装を着て 玄関ルームまで行くと、

スカイとミューズとコンラッドが のんびりと座って待っていた。


「すべて異常なし。 万事順調」ミューズ


「それでは達者でな。 新婚生活を楽しめ」コンラッド


「王都とクランのことは 僕たちにまかせて、しばらくコンコーネ領のことに専念するといいよ」スカイ


「「ありがとう。よろしくお願いします」」


清明とキャラハンは 3人に見送られ、コンコーネ領の館の玄関前広場に到着。


二人の到着予定時刻をあらかじめ伝えてあったので、玄関扉の両脇には従僕が待機していた。。



手をつないだ状態で 館の玄関前に到着した清明とキャラハン。


二人は ごく自然に顔を合わせ、うなづきあい、清明は キャラハンをさっとお姫様抱っこした。


ミューズから 異世界にはこういうならわしもあるのだと聞いていた清明は、

新妻を抱えて 我が家への最初の一歩を踏み出すことに憧れていたのだ。



清明は、キャラハンを抱えて、アプローチの階段を上っていく。


従僕たちは、ドアマンよろしく さっと両開きの扉をあけ放ち、領主夫妻を迎え入れた。


キャラハンは 軽くうなづいて従僕達に謝意を伝え、

清明は 堂々と通り抜けた。


清明が通り過ぎると 二人の従僕は、玄関前に置きっぱなしの荷物にさっと駆けより、

勝手口に回って 室内に運び込んだ。



この日は特別に、レッドカーペットが 入口から奥へと敷かれていた。

 執事による演出である。


その赤じゅうたんの両側に 使用人たちがずらりと並んでいた。


家令(ラウド・スチュワード)

  清明が「ご隠居」と呼ぶ、コンラート領全体の差配役、どちらかと言えば接客系


執事(ハウス・スチュワード):館の管理と男性使用人の人事(事務係)


・バトラー:清明の秘書兼身の回りの世話(主に商売関係の事務)



一般的な貴族家の使用人の名称を使ってはいるが、実際の役割分担は清明流に少し変えてある。

形式的にこの順番に並んでいるが、この3人は同等の立ち位置で清明に仕えている。



・飼育長:館の中で飼っている生き物たちの世話係の長


・庭師:庭園と農園・温室の管理


従僕(フットマン):男性使用人


以上が男性使用人たち。



その向かい側に並んだ女性使用人たちの内訳は、


侍女(レディース・メイド):公爵夫人の身の回りの世話係

  着付け・ヘアケア・スキンケアなどの美容部員&貴族関係の社交の知恵袋

  公爵夫人の個人的な相談役&話し相手


家政婦長(ハウスキーパー):侍女・厨房関係以外の館の女使用人たち(=女中)の人事・統括


・料理長:コックや買い出し係など厨房関係のまとめ役

  清明の所では たまたま料理長は女性で、厨房で働く男女のまとめ役・人事統括責任者でもあった。

  それゆえ、新婦様お出迎えの列では、厨房関係者は性別を問わず 女性側の列の料理長のあとに(つら)なった。


・女中:女性使用人


清明の代になってから、女性の使用人たちの職務体系も手直しされ、長らく家政婦長と料理長が同等の立場にあった。


キャラハンを迎えるにあたって侍女が採用され、侍女長も、家政婦長・料理長と同等とされた。

 侍女たちは 継承権を持たない貴族籍の者たちから選んだ。



この者たちが、コンコーネ家の使用人である。

将来、キャラハンが自分の会社の従業員を増やしたり、

キャラハン直属の個人秘書を雇った場合は、コンコーネ家の使用人とは別枠になるだろう。


これだけの使用人がずらっと並んで、新公爵夫人をお出迎えした。


◇ ◇ ◇


すでに この者達とはキャラハンも顔なじみであったので、出迎えの列の前をさりげなく通り抜けて夫婦の部屋に入った新郎新婦。


「さすがに あれだけの列の間あいだを通り抜けるのは緊張するわね」キャラハン


「全くです。

 全員並ぶと 壮観でしたね」清明



清明とキャラハンがプライベートゾーンに居る時には、呼ばない限り使用人たちは入って来ないことになっている。


なので お茶を飲みたければ、あらかじめ部屋に用意しておいてもらうか、自分達で入れなければいけない。


キャラハンは めいめいの部屋に戻って着替えている間に 侍女に茶の支度をしてもらうつもりだったのだが、清明が 自分の手で花嫁の衣装を脱がせたいと言ったので 真っ赤になってしまった。


なにしろ、清明は キャラハンを横抱きにしたまま、階段を上って2階の夫婦の部屋にまで運んできたのである。


ちなみに 夫婦の部屋のドアは、領主夫妻を出迎えた後 小走りで先回りした侍女二人が扉前で待機してあけてくれたのであるが、居間から寝室につながる部屋のドアは、清明が キャラハンを片手で抱えなおして自分で開けた。


清明がそこまで頑張って新婦をベッドまで運んだ以上、

キャラハンは清明の希望をむげにもできず・・


しかし 清明は ドレスの脱がせ方など知らなかったので・・


「あーこんなことこなら 予行演習をしておけばよかった」とぼやきつつ

キャラハンの指示に従って ドレスを脱がせることになった。


「もう 恥ずかしい」と言いつつ、大切なドレスを傷つけずに脱ぐためには

清明に細かく指示しなければならなかったキャラハンは、いつのまにか冷静になってしまった。



めでたくドレスを脱がせ終わった清明は 真面目な顔をしてベッドに座り込んでいるキャラハンを見て ドキドキするやら、ためらうやら


(そういえば この先 どうするか決めてなかった(-_-;) )


もじもじしている清明を見て ぷっと噴き出すキャラハン

つられて笑い出す清明



「ウェディングドレスを脱がせるのは、花婿(はなむこ)の夢だと憧れていたのですが

 このあと どうしましょう?


 この先の展開を何も 考えてませんでした」清明



「えーっと 私 自分の部屋に行って、ドレスを片付けたり着替えしてきます。

 シャワーも浴びてくるので、あなたも 部屋着に着替えて待っていてください。


 居間に お茶とケーキの用意をしていてくださるとうれしいわ」キャラハン



「了解いたしました。奥様」

清明がおどけて 執事のように腰をおった。



おかげで キャラハンも下着姿の恥ずかしさをあまり気にすることなく、自分の部屋へと向かうことができた。



夫婦の部屋の両側に、清明とキャラハンのそれぞれの部屋(バス・トイレ付きの寝室と居間)があった。


清明個人の寝室は、夫婦の寝室の隣にあり、清明のバスルームは夫婦用のバスルームを兼ねていた。


一方、キャラハンの居間は、夫婦の居間の隣で、廊下に出ることなく行き来できるようになっていた。



それゆえ キャラハンが下着姿で一番奥にある自分の寝室へと移動するには結構な距離があったのだけど、

夫婦の部屋のベッドの上には ガウンが置いてあったので、それを羽織ってとりあえず移動した。



 ちなみにキャラハンの寝室とキャラハンの居間(応接室)との間に、トイレ・洗面・風呂とドレッシングルーム・衣裳部屋ウォークインクローゼットがはさまっている。


 なお、ドレッシングームには侍女専用のドアがあり、廊下から侍女が直接出入りできるようになっていた。


 この扉は常に施錠され、そのカギは衣装係でもある侍女長とキャラハンのみが持っていた。


(婚約期間中に 清明と話し合って部屋の改装計画を立てたとき、

 あわせて、侍女採用や、館の使用人との約束ごとの見直しも行った。


 使用人の統括は、領主婦人の仕事と清明が決めたので、こまごまとした規則の決定権は キャラハンに移動した。

 さらに 使用人の採用人事権も。)



 実のところ 清明の「結婚したらさっそくやってみたいこと その2」として、

「女性用の下着も脱がせてみたい♡」というのもあった。


 しかし ウェディングドレスを脱がせることにも手間取った清明には、

 初めてまじかで見た女性用の下着がとても複雑なものに見えて、手が出せず、

 キャラハンが 自分の部屋へと走っていく姿を見送る羽目になってしまった。


 (うーん これは困った、予行演習が必要かも? でも どうやって・・


  まさか ほかの女性の下着をぬがせるわけにもいかないし・・)


 さっそく 新婚早々 新たな難問発生の気配である。



キャラハンは あらかじめ侍女に頼んで、帰宅したらすぐに入浴できるように差配しておいた。


侍女は、キャラハンの為に公爵夫人用のバスに湯をはり、香りのよいレモングラスの葉を束にしてつけておいてくれた。


キャラハンは のんびりと湯にひたり、侍女に体を流してもらった。


そして 高く結い上げていた髪をほどき、丁寧にブラッシングしてもらい、軽く 髪留めでまとめてもらった。


心利(こころき)いた侍女に世話をしてもらうことに慣れると、その快適さが手放せなくなる。



侍女に用意してもらった部屋着(ワンピース)に着替えて、夫婦の居間に戻った。


そこには コンコーネ領で 領主の結婚記念にと売り出された ウェディングケーキ(カットスタイル)と紅茶が用意されていた。


 このケーキは 屋敷の使用人たち全員にも配られている。



 さっぱりとしたレモン味のフワフワホイップクリームに包まれ、中のスポンジには苺ジャムとカスタードクリームが挟まっている。そしてパリパリの薄いチョコを巻いた細い筒状のものが添えられていた。



 このケーキは、キャラハンの監修のもと 領都のケーキパーラーと館の料理人たちが協力してレシピ開発したものだ。


そのレシピに基づいて、大量生産したケーキを、

館の使用人や、食器工房などコンコーネ家直営事業の従業員とその家族に配ったり、

「ご領主様ご成婚祝いの特別販売品」として、町の人に原価価格で店頭販売した。


もちろん 原材料の手配とパーラーの人件費と協力してくれたパーラーへの謝礼は、コンコーネ家負担である。


その代わり レシピの特許権は清明がもらい受け、レシピ開発に参加した館の料理人たちへのボーナスも弾んだ。


(このレシピ特許というのは、他領の人間がこのレシピを使う場合、あるいは 今回のレシピ開発に参加しなかった人間がこのレシピを使ったケーキや類似品を他領で販売する場合、コンコーネ領に許可とレシピ使用料を支払うことを定めるという意味である。


 タダ乗り便乗商法や、コンコーネ領の特産品荒らし、許すまじという意味で。


コンコーネ家としては、恒常的に収入を確保する努力を続けなければ、破産してしまう。

そして コンコーネ領の特産品とブランドを守り、領地の商業力を維持するのも 領主の務めの一つである

 領民や使用人にお金をばらまくだけでは、領地運営にとは言えないのである)



俗に「領主がぜいたく品を購入して領地に金を回す」とほざく阿呆がいるが、それは完全なるまちがいである。


ぜいたく品の売買で潤うるおうのは、ごく一部の片手の指でも余る程度の数の販売人と仲買人だけである。


 ぜいたく品というのは、素材を安く買いたたき、低賃金の過酷な労働搾取で製品を完成させて、商品を売り込んだ商人だけが多額の資金を手にする仕組みになっている。



まっとうな賃金で人を雇い、適正価格で購入した素材を加工して 恒常的に売り捌さばくブランド品は、地域産業として経済の活性化につながる。


 さらに素材産地にも定収入をもたらし、社会全体の経済発展にも寄与する。



しかし ぜいたく品というのは、金持ちの虚栄心を満たすための一品ものであることに価値があるのだ。


だからこそ ずる賢い商人が濡れ手に粟の金儲けを狙って 言葉巧みに売り込むことにより価値が生まれる。つまりは 売込み商人だけが金儲けするのが、ぜいたく品の購入。


 売込み商人は 自分の懐に入れた金をろくなことに使わない


 ぜいたく品の購入は、アンダーグランドで 人を傷つけて回ること人間たちを活性化させるのが落ちである。


 その典型が 象牙や毛皮目当てのゾウやトラの乱獲などによる、野生動物の絶滅問題である


 あるいは オートクチュール素材やプレタポルテの搾取労働が問題視されているのだ。



一方 清明のように、地元の経済が特需による変調をきたさぬように、かなり早い時期から原料の手配をして、


例えば、まず食材増産農家や炭焼き達に準備金を支払い、炭の増産のために伐採した分の植林費用まで負担し、植林後の苗木のその後の育成も見届け 乱伐をしていないかの確認もきっちり行い、


諸費用前払いでパーラーの料理人たちを雇い、


完成品を従業員たちへの福利として無料でくばったり、


日ごろケーキに手が届きにくい層にも買いやすいようにと、原価価格=平常価格の半額以下(ふつう ケーキ類の原価率は30%未満と言われる)で販売したうえ、


売り子増員の為のアルバイト代もパーラーに支払い、

賃金の中抜きは許さないので影による監査もこっそりと行い

さらに特別ケーキ焼成分の燃料まで公爵家で負担するような 金の使い方は、


領民全体に広く金もしくは恩恵をいきわたらせる、領主差配である。


 (飢えるほどの貧困層はいなくても、

  特別なことがない限りケーキを購入しない(できない)節約層が多いコンコーネ領では、

  良質でおいしいケーキの廉価販売は 大変喜ばれた。


 (注:原価率30%というのは、ケーキの販売価格が450円なら、ケーキの原価は135円ということ)



そこをはきちがえて、「領主が服や食べ物やその他の贅沢品を購入して 民に恩恵を施す」なんていうのは 欺瞞に満ちた大嘘に過ぎない。


 むしろ 領主の無駄遣いにより、資源が浪費され、地域の生産力が落ちてしまうのがおちだ。


 天然資源も運搬に使われる資源も 浪費すれば すぐに消えてなくなり再生できないのである。


 地力を落とさず、再生可能な範囲でそれらのものを消費するには、質素倹約が必須である。



 そういう意味では、侵略してでも領土拡張を続けなければ民が飢えるなどという国家は、

 「存在そのものが害悪=浪費による環境破壊集団」といえる。


 それが スカイの国が領土を拡張せず 人口肥大もおこさず調和を重視する国家運営を続けてきた根本的理由でもあった。



それはともかく、軽装(=着流し)に着替えた清明と ワンピース姿のキャラハンは

改めて夫婦の部屋でおちあい

「初めて」の時を過ごした。


これまで、夫婦の部屋のしつらえは行なっても、

縁起を担かついで その部屋の利用は控えていた二人であった。



「ケーキおいしい♡」


「紅茶も 良い味わいだ。

 それに 君もいい匂いがする」


「レモングラスって ほんと レモンのような香りがひきたつのよね。

 レモン味は出ないけど」キャラハン


「君が手掛ける庭のハーブ園の 今後の成長が楽しみだね」


「そうね。

 これから 私たちと一緒に、庭も部屋も成長していくのね」


「今日から1週間は 館でハネムーンだ。

 気が向いたら 2・3日二人で一緒にどこかに出かけてもいいね」清明


「ほんと 予定のない休暇って ひさしぶり。

 楽しみだわ」


「うん 新婚準備で今まで 忙しかったからねぇ」清明



食べ終わった食器類をワゴンに乗せて廊下に出したあと、

二人は手をつないで夫婦の寝室に向かった。


(プライバシー確保のために、わざわざ 居間の入り口周辺は、少しだけ廊下よりも引っ込んだ場所に作ってあり、居室前アプローチには、ワゴンなどが置けるようになっている。)



そして 二人で過ごす時間は 夫婦の部屋の廊下に面したドアのうち鍵をしっかりとかけて くつろぐつもりだ。



二人の寝室の窓辺には、ピンクのアスターの鉢植えが置かれていた。


 花言葉「甘い夢」 これは家令からのプレゼントであった。


 ちなみに アスター全般の花言葉は「変化・信じる恋」である。

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