広がる輪・ダンスパーティー
人間たちが 立食会場である「竹の間」で交流を繰り広げていた頃、
ドワーフ達は「松の間」に残って、歓談を続けた。
ドワーフギルドは、王国内の通信と物流を一手に引き受けているといっても過言ではないので、
お互いの通信は盛んであったが、やはり遠方の支部長どうし直接会って話すことは少なく、
まして 職員ともなればなおのことであった。
清明が少年時代を過ごした別宅は コンコーネ領の飛び地にあったので、かつてお世話になったギルドの方々は、他領の支部の方々であった。
それゆえ、今の清明とは直接かかわりがなかったのであるが、せっかくの機会なので
ドラゴン・クランの面々とも 親交をかわした。
ボロンも久しぶりに ドワーフギルドの面々と過ごすことができた。
「ボレロ・ボロン君、君は休職制度を利用して旅に出たまま、一時は音信不通となり
私は心配していたんだぞ。
それがいつの間にか クラン長となり、こうして国王や公爵と親交を深めておる。
まったく 国王や公爵をメンバーに抱えるクランとは 前代未聞じゃないか」
ドワーフギルドの総長は、かつての部下の背中をバシバシたたいた。
たまたま、「竹の間」を抜け出し、「松の間」で休憩していたスカイは、国王として
ドワーフギルドの面々に 改めて感謝の言葉を述べた。
当時少年だった 現公爵領主のかつての苦境を救ってくれたドワーフギルドの方々に、
さらに、ドラゴンクランに加入後、視力を得た清明の教育係として、クラン長であるボロンが尽力してくれたことを。
また ボロンを有能な社会人として世に送り出してくれたドワーフ社会とドワーフギルドをたたえた。
「いやいや わしらは ボロンを手放したわけではないぞ」ドワーフギルドの総長
「そうだ そうだ」と声を上げる ドワーフギルドの支部長たち。
「しかし 今は、ドラゴンクランが わしらドワーフギルドと 王国の人間たちの王や貴族たちとの縁をとりもってくれておる。
この絆が 良きものとして これからも続きますように!」総長がジョッキを高く掲げた。
「乾杯 乾杯」 ドワーフ達も一斉に 杯を掲げた。
スカイの後を追うようにして、休憩に来ていた、清明・キャラハン・デュランも 一緒になって
乾杯に参加した。
スカイもまた「良き縁」と叫んで 手にしたグラスを掲げた。
彼の手にあるのは ワイン入りのグラスだったが、そういう細かいことにこだわらないのがドワーフ流だ。
王都のドワーフギルト長が キャラハンに話しかけた。
「あなたも ドラゴンクランに加入したと 伺いましたよ。
あなたが始めた「タウンハウス管理会社」が、
人間社会とドワーフ社会との距離を縮めるきっかけとなり
それが 両社会にとって 良き影響を及ぼしますように!」
再び ドワーフ達から湧き上がる乾杯の声
その声を聴いて、自分達のタウンハウスの管理人としてドワーフ夫婦を置いている 貴族家の方たちがあいさつにきた。
キャラハンにマッチングしてもらったとはいえ、ドワーフギルドから良き管理人を派遣して頂いてありがとうございます、これからもよろしくと 礼を言いに。
王都のギルド長も 「丁寧なあいさつ 痛み入ります」と返礼した。
すると 今度は 「管理会社」の利用を考えている組合長までやってきた。
「近々 管理人の派遣をお願いすることがあるかもしれないから その時はよろしく」と。
「いやあ こういうのは縁のものであるから、互いに無理せず 付き合えたらいいですなぁ」
と王都のギルド長は返した。
◇ ◇ ◇
キャラハンは、一度中座して パーティドレスに着替えて会場に戻った。
すると元同僚たちが 一足早く帰るので、その前に 挨拶をしたいと集まって来た。
その時、元同僚男性たちは言った。
「親族席に座っていた きれいな女性に紹介してもらいたかったなぁ。
彼女は 君のお母さんと先に帰っちゃったみたいで残念」
キャラハンは事前の打ち合わせ通り、彼女にはすでに婚約者がいるからと言って、元同僚たちをかわした。
「残念。君とはまた違ったタイプの美人だったのに。
ほんと 君の一族って美形だねぇ」元同僚たち
「私のことを美人だなんて 初めて聞いたわ」キャラハン
「そんなこと 君にとっては当たり前のことだろうと思って 言わなかっただけだよ」
「誤解だわ。それ。
私 お世辞の一つも言ってもらえなくて すごく残念だったのに」キャラハン
「彼らは 互いにけん制しあって自滅したのよ。」
キャラハンの先輩女性が小気味よさげに言った。
「だけど 今日のあなたは いつにも増してきれいよ。
ほんとお似合いの美形カップル。眼福 眼福。
どうか お幸せにね」
「二人の仲睦まじい様子を見ていたら ほんとに 心からのお祝いをいいたくなっちゃった。 おめでとう!」
同僚女性達が 心を込めてお祝いしてくれたので、キャラハンはこの日を迎えることができて 本当に良かったと思った。
◇
ドワーフの方々も、清明とキャラハンに 挨拶をしてから 帰っていった。
挨拶の時には、お色直しをしたキャラハンのドレスを宝石に例えてしっかりとほめてくれた。
「土の中に眠るダイヤモンドが 光を受けて放つ輝きのごとく美しいあなた
そのあなたを飾るのは、透明なルビーのように深い色をしたドレス、お似合いです」と。
さらに、清明に向かって、
「ミスリルの輝きと 鍛え上げた鋼のような存在感を放つあなたを、我らはドワーフの友とよぼう」言って去っていった。
後から聞いた話よると、キャラハンたちが居ない間に みんなで知恵を絞って詩的な言い回しを考えたらしい。
◇ ◇
夜のとばりが降りる頃、シャンデリアが輝く大広間で 舞踏会が始まった。
最初に踊るのは キャラハンと清明
続いて コンコン会で出会ったカップルが踊り始め
最後は 既婚者達が 各々のパートナーと一緒に踊った。
スカイも みんなが躍るのを見ているのがつまらなくなって、隣に立っていたミューズを誘い一緒に踊ってもらった。
金髪碧眼のスカイと 銀色の髪をたなびかせ翡翠の目をしたミューズの踊る姿に、貴族たちは見ほれた。
晴天のような軽い青色の燕尾服を着たミューズと、
王様らしい緋色の長衣に 金色の刺繡の入った真っ白なロングケープを羽織ったスカイが並ぶと、
まるで仲の良い兄弟のように釣り合っていた。
曲調が変わり、フォックストロットなった。
今度は ミューズがキャラハンを誘って踊った。
滑らかに滑るようにフロアを移動しながらも、大波に揺れる船のように、体を大きく沈めたりゆったりと揺らす二人。
キャラハンをエスコートするミューズは、とても男らしく見えた。
「うーん やけるな。私もダンスの練習を重ねて あんな風に彼女をエスコートできるようになりたい」清明はつぶやいた。
「じゃあ 次は僕が」スカイも負けん気を出して、クイックステップの曲にキャラハンを誘った。
二人は弾むように フロアを横切り、素早く足を入れ替え、くるくる回りながらフロアをかけぬける。
二人の服の裾が ハタハタと 旗のようにたなびきひらめいた。
「キャラハンが あんなに踊れる人だとは知りませんでした」清明はつぶやいた。
「よかったじゃないか。家に帰ってから、二人で取り組む課題ができて」
ミューズがにやっと笑って言った。
曲が終わり、清明のもとに キャラハンが無事に戻って来た。
清明はキャラハンを抱きしめ
「ラストダンスは 私と踊ってくださいますね」とささやいた。
「もちろん。でも今は 休憩したいわ」
キャラハンは 清明の胸に頭を寄せた。
清明は キャラハンを抱き寄せ、テラスに向かい、そこで二人は 月を見ながら休憩した。
「作戦成功。
キャラハンは あれほど連続して踊ったのだから
二人きっりで寄り添って座っていても 立派な言い訳が立つ」
ミューズはにこにこしながら言った。
「僕たちもね」スカイ
貴族たちは かわるがわる フロアで踊り続け
スカイとミューズは のんびりと腰かけてそれを眺めた。
「カップル限定の舞踏会というのは、落ち着いた雰囲気でいいね。
これから 王宮で開く舞踏会は そうしようかな。
パートナーをとっかえひっかえ、虎視眈々と周囲をうかがい取り合うような舞踏会はもう、うんざりだよ」スカイ
「そんなにしょっちゅう 王宮では舞踏会をひらいているのかい?」ミューズ
「いや それが嫌で 僕が即位してからは 一切開かなかったんだ。
そしたら 貴族連中からの突き上げがすごくってさ
コンコン会のダンスパーティは 婚活中の男女ですごいことになった。
だから 今日も心配してたんだけど、君のおかげで、ぼくは女性達からダンスを申し込まれたり、パートナーからうっちゃられた男性たちからにらまれずに済んでよかったよ。」スカイ
「まったく 何を言ってるんだか。」ミューズ
「まもなくラストダンスです」アナウンスが入った。
フロアで休んでいた、清明とキャラハンも戻って来た。
ラストダンスは、再び 新婚さんと婚約者たちのダンスタイムだ。
ゆったりとした音楽に身をゆだねワルツを踊る恋人たち。
愛の余韻を漂わせながら、「清明とキャラハンの結婚披露宴」&「コンコン会ご成婚カップルの披露宴」が終わった。
会場の出口に、清明とキャラハンは立ち、客たちの帰りを見送った。
もともとの知り合いも 今日 親しくなった者たちも、皆 それぞれに。
素晴らしいひと時に招かれた礼を述べ、二人の幸せを祈願しつつ 別れの挨拶を述べて退出した。
最後の客を送り出したあと、スカイは二人を 王宮の特別室に送り込んだ。
手の一振りで。
充実した1日を過ごした二人は、スイートルームにつくと、さっさと身支度をして
キングサイズのベッドに倒れこんだ。
ゆったりとしたスペースのベッドの上で 二人は のびのびと パーソナルスペースをとって
ぐっすり眠った。




